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根深い問題

30年前に気付いたこと

僕が外資系企業で働くようになったのは30年以上も前のことでした。
機械関係のメーカーで僕の役割はエンジニアでした。
お客様は大手の有名企業ばかりで、有名大学の工学部を卒業したような人を相手に、
納入する機会の仕様を決めたり、納入までの段取りを打ち合わせたり。
本社工場や設計は海外なので、お客様と打ち合わせた内容を伝えたり仕様や設計内容についてのチェックや確認をしたりしていました。
当然、海外とのやり取りは全て英語です。

そんな仕事をしながら、ある日気が付いたことがあります。
それは、『専門知識と語学力があれば職探しには困らない』ということでした。
実際に転職する時に外資の機械メーカーへ応募し、外国人が面接をしてくれた時にも、
全て英文の機械図面を見せられて、その図面に描かれている内容や意味を英語で説明しました。
僕は機械屋ですから、図面を理解できるのは当然です。
ですが、その時に言われた一言は、「こんな日本人に会ったのは初めてだ」 でした。
機械図面の中身を英語で説明できる人は滅多にいないと言う事です。
日本では語学ができると売り手市場なのだと痛感しました。

誤解のないように言っておきますが、僕は凄いとか特別能力があるとかでは決してありませんし自慢にもなりません。
たまたまエンジニアとして英語で仕事をする環境にいたというだけの事で、何も特別な難しいことをしたわけではないんです。

【注】僕自身の英語はお世辞にも流暢とか堪能なわけではありません。
          お恥ずかしい話ですが本当に必要最低限のレベルです。

世の中に殆どいない人材

既にお察しの読者さんもいるかと思いますが、日本では業界ごとに専門知識を持っている人は何人でもいます。
マイナーな職種でも決して人がいないわけではありません。
企業が社員募集をすればそれなりに応募者はあります。

が、しかしです。
専門知識と外国語のできる語学力の両方を必要とされると、一気に応募者は少なくなります。
これに年齢的なものや勤務地などの条件が加わるとさらに候補者は絞られてしまいます。
つまり、専門知識と語学力の両方を持っている人にとっては『売り手市場』だと言って間違いないのです。

恐らく、アジアでは日本と韓国以外の国では、こういう状況というのはほぼないのだろうと思います。
ベトナムで現地の人に聞くと、英語ができないと仕事に就けないと言いますし、
シンガポールでは公用語は英語です。
香港でも中国本土から出稼ぎに来ている人を除けば誰にでも英語は通じます。
フィリピンの人もマレーシアの人も、一般人は誰でも英語での会話ができますし、街の小さなお店でも会話には困りません。

ところが日本ではそうではありません。
どんどん国際化が進んでいる中、日本だけが遅れているような気がして寂しくはあります。
だからこそ働く人にしてみれば語学力というのは強い味方になるわけですが、本当にこれで良いのでしょうか・・・
少なくとも日本は世界のリーダー的存在でありたいはずです。

僕の仕事と抱える問題

そして今現在、僕が勤務している会社で抱えている根深い問題はここにあります。
僕自身は企業向けにIT関連設備の導入やサポート、保守、ユーザーへのサポート、機器の販売などをして給料をもらっています。
俗に言うインフラ周りの仕事です。
この仕事のために、何年も前から僕の後継者を雇い、育て、僕の後を継いでくれる人を作ろうとしてきましたが、今もそれができないでいます。
これは最大級の大きな課題なのです。

僕と同じような仕事をしている人ならどこにでもとは言いませんが、少ないなりに募集をかければ人は集まる業界です。
ところが、お客様のほぼ全数は海外本社に決裁権があったり、ITのヘッドクォーターがあったりするので英語は欠かせません。
そこに触れた瞬間、候補者はほぼいなくなってしまうのです。

僕自身は年齢的なこともあって、今の仕事をこの先10年も20年も続けられるわけではありません。
恐らくは数年のうちに後継者に全てを委ねる時がきます。
しかし、今もまだ後継者となる候補者はいません。
人材の採用をしようと思い、これまでに僕は何十人という人から職務経歴書や履歴書をもらいました。
近い人は過去に2,3人見ましたが、本当にマッチしている人を過去に一人も見たことがありません。

ここに根深い問題があるのです。

そもそもの原因はどこにあるのか?

「じゃぁ、ITの専門知識は後で覚えてもらうとして、英語の堪能な人を雇えばいい」
仕事を覚えてもらうのに3年でしょうか、5年かかりますかね。
それだけの時間を待てるとは思えません。

「それなら、ITの専門知識を持っていて、英語は少しずつ覚えてもらおうか」
一人でお客様とコミュニケーションできるまでに何年待てば良いのやら・・・

日本と言う国は本当に特殊な国で、本当に英語を話せるようになりたい人は海外留学をします。
海外に行かないとしても、高いお金を払って英会話教室に通ったりします。
そうでもしないと、日常生活レベルならなんとかなったとしても、仕事上で外国人と対等に会話することなどほぼ無理ですよね。

そういう留学をしてでも英語を学びたい人というのはほぼ文系です。
いわゆる理系の勉強はしませんから、機械や IT 関連の話をしても理解してもらうのは大変なんですよね。

一方の理系でやってきた人はというと、機械、電気、デジタル技術はかなり優秀です。
優秀ですが、技術のことばかり勉強してきているので英語の勉強というのは一般の人と何も変わりません。
中には英語アレルギーの人がいるくらい語学とは縁遠いのです。

日本は、アメリカやイギリス、東南アジアの国々、欧州の主要国、
彼らと対等に付き合っていこうという国です。
リーダーシップも取りたいはずです。
でもこの国は、先述の通り特別な何かをしないと外国と対話ができる人にはなりません。
今や小学校からスタートし、少なくとも中学と高校の6年間もの間英語を勉強しているのに、更に莫大な費用と時間をかけて何かをしないと外国人とコミュニケーションできないおかしな国なのです。

こんな国が、世界の中でリーダーシップのとれる国になれるのでしょうか?
そこに僕と僕が勤める会社が抱えている問題の根本があります。
だから根が深いのです。
人材不足で採用ができない・・・それなら問題は深くありません。
戦後の英語教育システムがこういう根深い問題を作った・・・
と僕は考えていたります。


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