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新一万円札の顔 渋沢栄一

歴史好き、特に幕末から明治維新にかけての激動の時代について知るのは僕にはとても刺激的なのです。
坂本龍馬、木戸孝允、勝海舟、西郷隆盛、小栗忠順、、、
数多くの偉人達が排出されたこの時代に、
渋沢栄一という人は他の偉人達と並ぶまたそれ以上に大きな功績を遺した偉人の一人だと思います。
生意気ながら、ここでは新一万円札の肖像となった、この渋沢栄一の凄さについて、無知ながら無知なりの語りにお付き合いいただけたら嬉しいです。
近代日本経済の父と呼ばれる渋沢栄一ですが、もしも幕末に彼が存在していなかったら、或いは徳川慶喜の家臣にならなかったら、
日本はまったく違う方向に進んでいたことは間違いないだろうなと、
歴史素人ながらに思っています。
(偉大な人を指して敬称を略すことお許しください)


◇ 渋沢の凄いところ

約500もの企業設立に関わったのは本当に凄いです。
そもそも、日本では会社を設立した経験のある人さえいなかったこの時代に、しかもこれからの日本に必要なばかり、将来の日本の姿を思い描いて
会社設立に携わったわけで、
新しい国家の新しい制度に必要な債券や登記などに紙が必要となれば、
紙を大量生産できる製紙会社を。
西洋式建築を増やすとなれば大量のレンガが作れるレンガ製造会社を、
産業発展のために製品や原材料を輸送するとなれば鉄道会社を、
まぁ、何から何まで自分の立身出世や私財を増やすためではなく、
純粋に日本が世界の中での一国として認めてもらえるようにするために、
「できることは全部やった」そういう人なのだと思います。
しかも自分自身は殆ど報酬や見返りを得ていなかったはずです。

さらに、貧しい暮らしを強いられている人々達に対しては、
本当の支援は飯を食わせることではなく、自分で飯を食えるようにするための教育や職に就くための支援であるとして、そのための施設まで作ったり。。。
やる事成すことの一つ一つが企業設立以上に凄いことだと思います。

そして、あまりドラマや歴史本なのでは描かれない話ではありすが、
僕としては最も渋沢の本当の凄い部分であるし、
これこそドラマで描いて欲しいと思う事があります。
それは何かと言うと、、、

徳川幕府が終わろうとする慶応3年、当時の将軍だった徳川慶喜が大政奉還をしたことで260年続いた徳川幕府は終わります。
ここまでは皆さんがご承知の通りです。
※ 僕は個人的には、大政奉還ではなく単に慶喜が一時的に政権を朝廷に返し
     ただけと考えていますが・・・それはまたの機会に。
大政奉還がなされたのは慶応3年10月(1867年11月9)で、それから3ヶ月と経たないうちに戊辰戦争が始まり、旧徳川幕府と薩摩/長州を中心とする倒幕派(後の新政府)とが戦争となりました。
この時、渋沢は徳川慶喜に仕えていて幕臣という立場でした。
つまり倒幕派から始まった新政府軍にしてみれば渋沢は ”敵” 以外の何者でもなかったということです。

しかし、大久保利通を中心とする新政府は、戊辰戦争が終結した明治2年に渋沢を新政府に招き入れて民部大蔵省の役人として手腕を発揮させます。
これ、事実だけを知っても
「へぇ、そうなんだ?」
ですませてしまいそうな話ですが、よぉぉぉく考えてみるととんでもないあり得ないことだと思います。
国の財政難にとことん苦しんでいた当時の明治(新政府)は、
あろうことか、ついこの間まで敵だった渋沢を明治政府に引き入れ、
経済の立て直しや新しい租税のしくみ、貨幣制度など、日本経済の肝とも言える重要なポジションに就かせます。
いくら優秀な人だからと言っても、普通に考えて敵だった人間に国の
心臓とも言える生命線のしくみ作りを任せるでしょうか?
※もちろん渋沢一人で受け持ったわけではないでしょうが。

その上、渋沢は渋沢で、自身の主人であり尊敬する徳川慶喜を打ち負かし、国の政治から排除した上に領地も江戸城も徳川から奪った敵である新政府です。
本来なら憎んでも余りある大久保と新政府を助けることに同意し、実際にその実務に全力で取り組んだのです。
※ かなり大隈重信から強く説得をされたらしいですが。

租税の仕組み作り
造幣や通貨の統一(円)
逓信の仕組み作り
路頭に迷う士族の経済的な救済(これをやらないと新政府が倒れたかも)
どれもこれも日本人の誰一人として経験していない事ばかり、
もちろん渋沢一人で全部のことを片付けたとは言いません、が、それにしてもこれらの新しい国造りの最初の一歩のところで国に貢献した渋沢の大きさは計り知れないものがあると思います。

もしもこれらのことがなされなければ、新政府は明治に入ってから間もなくの間に倒されたかもしれません。
もしこれらのことがなされなければ、この後の企業設立や銀行設立ももなかったかもしれません。
そうなれば、明治以後の日本はもっと違う国になっていたかもしれませんし、フランスやイギリス、或いはアメリカの植民地になっていた可能性だってあったのではないでしょうか。

この辺の渋沢の功績に、僕は渋沢の凄さを感じてなりません。
日本経済の父と呼ばれる所以は、企業設立に携わったことよりもむしろ、
新政府を助け、日本のあらゆる経済基礎の最も深いところ、
しかも当時の日本には渋沢以外に誰一人としてこれをできる人がいなかった、だから明治政府が敵であったはずの渋沢に頭を下げてでも政府を助けて欲しかった。
ここに本当の凄さがあると思います。

◇ 五代友厚の存在

新政府の中心人物であり、誰もが知るところの大久保利通、西郷隆盛は元々は薩摩藩の人間です。
薩摩には五代友厚という薩摩藩の経済(主に商売と会計)を握る、実業家としては十分に実績のある人材がありました。
しかし、彼は租税や政府の財政を預かる立場には招かれず、外国事務係や判事などの任を受けて大阪に赴任しました。
その後明治2年に五代は退官し紡績や鉱山、製塩などの発展に力を注ぎます。
渋沢と五代を比較する意図ではまったくありません。
どちらもとても優秀な経済人だったのだと僕は思います。

ただ、本来であれば薩摩藩の身内である五代に対して、大久保や大隈が
「新政府を助けてくれ」
というのがセオリーというものではないでしょうか?
それなのに何故、敵であった渋沢に頭を下げてまで新政府の支援にあたらせたのかという疑問が出てきます。

話が複雑過ぎるので、僕は詳細を正確に語ることができませんが、
渋沢は徳川慶喜の弟、昭武に随行する形でパリ万博のためフランスへ行き、その後もヨーロッパの各国を訪問しました。
フランスでの滞在中に学んだ株式の仕組みや租税の仕組み、
ヨーロッパの国々で見たり聞いたりして学んだ経済の仕組み、
そういった国の経済のあるべき姿を具現化できる可能性のある人材は渋沢をおいて他になかった。
だから新政府は五代ではなく渋沢を民部大蔵に引き込んだと考えられます。

◇ 大久保利通が目指していたもの

渋沢が民部大蔵省の役人として新政府に加わったのが明治2年11月、廃藩置県がなされたのは明治4年7月、この2年にも満たない期間で廃藩置県が行われ、2年後の明示6年に渋沢は退官しました。

この廃藩置県、大久保利通は何がなんでも藩という制度を撤廃して中央集権に移し、すべての機能を政府の下でコントロールしなければならいと考えていましたし、実際に諸外国からも当時の日本は国家として認められていなかったようです。
それまでは約300の藩、69国のそれぞれが自国を統治していました。
廃藩置県前には、一部の藩がこれ以上経済的に維持できないからと、
藩から払われていた士族への給料も明治政府が引き受けたりもしていたようです。
国にしてみれば、支出ばかりが多く収支のバランスがまったく取れていない中で人件費はかなり大きな割合を占めていたようです。
そこに廃藩置県を行って士族が路頭に迷うことになれば、彼らの救済や対策もしなければ明治政府が士族から倒されてしまうことだってあり得ます。

・藩が発行している貨幣(藩札)とその流通をどうするのか
・国として共通の通貨に切り替えなければいけない
・藩が抱えている借金
・領地を行政地域単位に切り分け個人が所有できるようにするための法制化
・年貢米ではなく租税という方法に切り替え税収の仕組みを構築する
・国が抱える借金の返済

中央集権化を進める上では、ありとあらゆることが日本にとって
どれもが初めての事ばかりで、これらの課題をどうやって解決していくのか、難題オンパレードです。
大久保が目指した日本という国家の統一に向けて、渋沢の手腕が果たした功績は計り知れないものがあると、僕は思います。

◇ ドラマ化、映画化して欲しい

何年か前に、NHKでは渋沢栄一の生涯を大河ドラマで描いていました。
龍馬伝の時に比べれば、あまり大きな誇張や脚色はされていなかったようには思いますが、渋沢の何が凄かったのか、何故日本経済の父なのかがわかるようなことが殆ど描かれていなかったようで、そこはとても残念に思いました。
ドラマとして観れば、エンターテイメントして考えれば、視聴者としては楽しめるドラマだったと思えます。
でも、「渋沢栄一という近代日本経済の父の凄さを知りたい」 と思う人にとっては、とても物足りないものだと感じました。

僕の個人的な希望でしかありませんが、
260年も続いた徳川幕府
約700年続いた武家政権
これらを諸外国と並ぶ一国家に変えるための日本の歴史の中で最も大きな変化のあった幕末から明治にかけてのこの時代と、その時に渋沢のように
「日本で誰も成し遂げていないことを成し遂げた偉業」
それをドラマや映画にして欲しいなと思います。
あれこれと文献を見ても難しく
古文書を見ても読めないし理解できないので、その読み方と書かれていることの意味を理解することから勉強していたら、なかなか僕のような普通のオッサンは書物の中身を理解する前に寿命が来てしまいます。
是非、ドラマ化、映画化をお願いしたいと思います。

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