第13話 兄:お酒

 大人になってから誰もが一度はチャレンジしたことがあるのではなかろうか?
 お酒だ。
 ボクも大学生になって当然のごとくチャレンジしてみた。
 しかし、全くダメ。
 すぐに酔っぱらう。ゲーゲー吐く。
 味もおいしいと感じない。
 社会人になってからも頑張ってみたが、一向に飲めるようにならない。
 最近の飲めない奴には飲ませるなという風潮に乗っからせてもらい、飲めないキャラに定着させてもらった。
 
 ボクが飲めない反面、兄はお酒に強い。
 飲めるようになったのではなく、最初から飲めた口だ。
 本人もお酒が好きなようだ。

 両親はというと、父も全く飲めない。本人は味が好きなようだが、ボクと同じように簡単に酔っぱらってしまう。
 350mlの1缶で完全にグロッキー。全身がまだら模様のように赤くなる。
 昔はごくたま~に飲んでいたが、今は完全に飲むことがなくなってしまった。

 母は別に飲もうと思えば飲める。ぐびぐびイケる口だと思う。
 ただボクと同じように味があんまり好きでないようで全く飲まない。

 我が家ではお酒を飲むのは兄1人ということになる。
 ただ、兄も毎日晩酌するということはない。
 お酒を買ってきて家で飲むというところを見たことが無い。
 友達やバイト仲間、そして社会人になってからの付き合いで外でだけ飲むというスタンスだ。

 以前、ボクが山梨に行ったときにそんなお酒好きの兄のことを思い出して1本ワインを購入した。
 芸能人の格付けチェックに出てくるような高いワインじゃない。
 1本100万円のワインなんて死ぬまで買うことはないだろう。
 1本3000円くらいだったと思う。
 そのワインを持って実家に帰省した。
「これさ、お兄ちゃんが遊びに来たときに渡しといて」
 と母に頼んだ。

 それからしばらくして、兄が姪っ子を連れて実家に帰省した。
 その日は姪っ子も入れて家にお泊りしたらしい。
 夜、母は思い出したかのようにワインのことを話した。
「そう言えば、しょうが焼きがあんたのためにワイン買ってきてくれたよ。明日帰りに持ってきな」
 と話したら、
「あ、ほんとに?ラッキー、だったら今飲んじゃうよ!!」
 母は驚く。聞き間違いか?と思ったらしい。
 兄はワインを開けて、そのままぐびぐびと飲み始めたらしい。

 父は酔っぱらうから飲まない。
 母も味が嫌いだから飲まない。
 姪っ子は子供だから当然飲めない。
 兄だけが飲む。
 ぐびぐびぐびぐびと。
 そのまま途中でダウンすることなくワインを1本飲み切ってしまったらしい。
 お酒を飲まない人間からしてみればその光景は異様だ。
 母は空いた口が塞がらなかったらしい。
 兄は次の日、二日酔いすることなくケロっとしてそのまま帰っていったとのこと。
 
 その話を母から電話越しに聞いただけでもめちゃくちゃびっくりした。
 上司や先輩に好きでもないお酒を無理やり飲まされて、ゲーゲー吐いていたボクからしてみればとってもうらやましい。
 正直憧れる。

 もし家族みんなが飲むことができたなら、4人でお酒を酌み交わすことができたのかな?
 なんて思ってみたり。
 そんな日は永遠にやって来なさそうだけど、また4人で食事くらいはしてみたい。
 そして思い出話に花を咲かせたい。
 

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