第16話 母:背中押して

 
 21時。
 その時間、だいたい我が家ではテレビのある和室に集まり寝っ転がる時間となっていた。
 また、順番にお風呂に入る時間でもあった。
 そんなくつろぎの時間なのだが、1つだけ煩わしいことがあった。
「背中押して」
 母が我々にマッサージを要求する時間でもあった。

 たかがマッサージくらい…まぁおっしゃる通りだ。
 マッサージしてやればいい。
 しかし、しかしだ。
 やっぱり煩わしいのだ。

 母は必ず和室の真ん中にポジションをとる。
 もっと言うならば、寝転んでいる人の目の前に母も寝転ぶ。
 背中を押しやすいように。
 バスケで言ったらスクリーンアウトだ。
 リバウンド王の桜木花道もびっくりだ。
 逃げられそうにないのでボクらは母の背中を押す。

 まぁ背中を押してと言うくらいだ。
 やはりいつも背中や肩の筋肉はこっていた。
 疲れていたんだと思う。
 そのことを分かっているから、頑張ってボクらも押すのだが、やはり10分が限界だ。
 それ以上は無理だった。

 ここで母が面白いのが、1人目が終了したら次に向かうということだ。
「はい、次あんた」
 と言って、次のマッサージ師を指名する。
 マッサージ師に拒否権はなかった。

 最終的にいつも落ち着く先は父だった。
 ただ父の1日働いて体はくたくただ。
 ドラマを見ていても途中でいびきをかいて寝てしまうことがあった。
 もちろん母のマッサージをしているときも。

 母もマッサージをしていると大概寝てしまう。
 だがいつも寝ていて背中に圧迫感を覚えるそうだ。
「重たい…苦しい」
 そう思って目を覚ますと、父の手が背中をのしかかっているのだ。
 これはマッサージじゃなくて単純に押している。
 父が途中で寝てしまったのでそのまま重しとなってしまったのだ。
「おやっさ (父)、重い、どけて」
 母は悲痛の叫びを上げるのだった。

 ボクはその状況を横で見ているのだが、2人を起こすことはない。
 だって見ていて面白いからだ。
 微笑ましい光景じゃないか。
 背中を押すように願い、文字通り背中を押されることになってしまった母の姿が。

 楽しませてもらった分、今度実家に帰ったらたっぷりマッサージしてあげようと思う。

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