第13話 笑顔を無くした勇者たち

「勇者さまーーー!!」
 そこら中から歓声が沸き起こる。
 国中が歓喜の声に包まれていた。
 なぜなら今日は勇者様たちの凱旋パレードだからだ。

 先日私たちの国は、魔王軍の四天王が率いる軍団と衝突し、見事勝利を収めたのだ。
 その立役者となったのが我らの勇者様たちだった。
 勇者様たちは大勢の人々の前で、笑顔で手を振っている。
 そして民衆もとても嬉しそうな顔をしている。
 しかし、私はとてもじゃないが手を振る気にはなれなかった。

 私の夫は、先日の魔王軍との戦いで戦死したのだ。
 遺体は見るも無残な姿だった。
 最初、遺体を見ても夫だと気付くことができなかった。
 でも、私が戦場へ行く前にお守りとして渡したペンダントを見て、夫だと気付いた。
 兵長は胸を張ってくれと言った。
 なんでも、勇者様の盾となり死んでいったそうだ。
 そうか…夫は最後まで勇敢に戦ったのか。
 しかし、私の胸は悲しみに包まれていた。

 パレードも終盤。
 勇者様たちを乗せる馬車は城にたどり着いた。
 そこにはまた、たくさんの民衆がいた。
 また歓声が上がる。
 しかしいくら歓声が上がろうとも、私の心は静かなままであった。

 国王陛下による演説が始まる。
 先ほどの歓声はピタリと止んだ。
「我々は魔王軍に打ち勝った!!」
 大きな歓声が上がる。
「我々が勝利を掴むことができたのは、ここにいる勇者たちが共に戦ってくれたからである!!」
 さらに大きな歓声が沸き起こる。
 しかし私の中で心がざわつき始めた。
「勇者たち。共に戦ってくれたことを心より感謝する。おかげで我が軍の被害は少なくて済んだ」
 そのとき、私の心はプツリと音を立てて切れた。
「何が被害が少なくて済んだよ!!」
 私は怒りのままに叫んだ。
 国王陛下も勇者様たちも、そして民衆もみんな驚き、私の方を向いた。
 みんな同じような表情をしていた。

 私は国王陛下の方へ詰め寄ろうとする。
 しかし、王国騎士団によって取り押さえられた。
 それでも私は国王陛下や勇者様たちに向かって叫んだ。
「私の夫は先日の戦いで死にました。勇敢に死んだそうです。勇者様の盾になって!!」
「————!!」
 そのときの勇者様は何か思い出したかのような表情をしていた。

 ―魔王軍との戦いにて―
「みんな、一気にケリをつけたい。技を出すための時間を稼いでくれ!!」
「分かった!!任せろ!!」
 勇者の仲間たちは勇者にモンスターが近寄らないよう必死に食い止める。
 しかし、それをかいくぐって、1匹のモンスターが勇者に襲い掛かった。
「勇者様、危ない!!」
 勇者を守るために身を挺した1人の兵士がいた。
 男はとりわけ優れた能力もない、ただの一兵卒だった。
 彼はそのモンスターを自分では倒せないことが分かっていた。
 自分の命を差し出すしかないと。
 彼は自分の命と世界で無二の勇者の命を天秤で測ったのだろうか?
 しかしそれは本人でなければ分からない。
 ただ事実としてあるのは、彼は勇者の盾となり、そして死んでいったということだ。

「国王陛下。あなたにとっては何万人もいる1人の兵士が命を失っただけなのかもしれない。でも、私にとっては世界でたった1人の夫なんです。だから被害が少なくて済んだなんて…そんな言葉で片づけないで!!」
 私はそこで泣き崩れ、そのまま王国騎士団に人気のないところへ連れて行かれた。
 その後パレードがどうなったかは知らない。
 とにかく私がぶち壊したのは確かだ。
 でも、私が咎められることはなかった。
 逆に王国騎士団の方々は、私にものすごく親切にしてくれた。
 涙を流して一緒に悲しみを分かち合ってくれた。
 夫の頑張りが認められた気がして、少し報われた気持ちになった。

 風のうわさによると、勇者様たちはその後、見事に魔王を倒したらしい。
 本当に世界を救ったのだ。
 彼らは正真正銘の勇者だ!!
 しかし勇者様たちは、あのパレード以来、笑顔を無くしてしまったようだ。
 世界中がどんなに讃えようと、彼らは笑わなくなってしまった。
 あの日の私の言葉が原因で、彼らは救えなかった命、そして一緒に戦って死んでいった者たちの悲しみに心を侵食されてしまったらしい。
 
 今、世界を救った勇者様たちは、亡くなった者たちへ手を合わるために世界中を回っているそうだ。
「勇者様たち、いつかあなたのところへ手を合わせに来てくれるかな?」
 私は夫の墓の前でそっと手を合わせた。

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