第11話 悪い領主と良い領主

 昔、あるところに悪い領主がいました。
 その領主はいつも威張っています。
 領民を見下し、バカにし、いじわるばかりしている領主でした。
 また、この領主は自分が贅沢な暮らしをするために、領民に対し重い税を掛けていました。
 領民は働けど働けど、一向に生活が楽になりません。
 働いた分だけ、税金として徴収されてしまうのでした。
 領民は疲弊しきっていました。

 ある日、このままじゃいけないと思った領民たちが立ち上がります。
「このままじゃ俺たちはあの貴族に食い殺されちまう!!俺たちの未来は俺たちでなんとかするんだ!!」
「おぉーーー!!」
 領民たちは遂に反乱を起こしたのです。
 今まで戦ったこともない領民たち。
 それでも農具や木の棒などを持ち、悪い領主に立ち向かったのです。
 領民たちの命懸けの反乱。
 もちろん命を落とす者もいました。
 しかし、ついに!!悪い領主を捕えることができたのです!!

 領民たちは悪い領主を取り囲みます。
 領主はガクガク震えています。
「私が悪かった。頼む、許してくれ!!」
 必死に領主は懇願しますが、許す気などさらさらありませんでした。
 領民たちは領主を処刑することにしました。
 領主は十字架にはりつけにされます。
「やめてくれ~!!」
 領主が泣き叫んでいるそのとき、王国から派遣された騎士団が到着します。
「た、たすかった!!」
 なんと、領主はこっそりと早馬を送り、国に助けを求めていたのです。
 騎士団たちにより、領主は十字架から降ろされました。
 領主は自分の安全が確保されると態度を豹変させました。
「バカめ!!貴様ら平民の分際で貴族様にたてつきおって!!覚悟するがいい!!」
 領民たちは震えます。
 それもそのはず。
 本来、平民が貴族たちに刃を向けることなど許されることではないからです。
 そして今目の前にしているのは王国の騎士団。
 どう足掻いても勝てる相手ではありません。
「ここまでか…」
 領民たちは死を悟りました。
 しかし、騎士団は領民たちを捕えようとしません。
 反対に、領主が騎士団に捕らえられたのです。
「な、なにをする!!」
「お前の悪事は全て見抜いている。明日にでもお前を捕えよと陛下の命が出ていたのだ」
「そ、そんな!!」
 こうして、悪い領主は騎士団に身柄を拘束させられ連れていかれました。
 領民たちは救われたのです!!
 後日、この悪い領主は処刑。そして、領主の家族も奴隷落ちという処罰が下されたのでした。

 さて、悪い領主から解放された領民たちをそのまま放っておくわけにもいきません。
 彼らは反乱分子を持ち合わせた危険な領民です。
 下手な領主を置けば、また同じことが繰り返されます。
 そしてその動きは王国全土に拡大するかもしれません。
 領民たちが反乱しないようにしなければなりません。
 そこで、国王は悪い領主の後釜に、評判の良い領主に統治させることにしました。
 幸い、その領主は隣の土地に住んでおり、そのまま今までの領地と合わせて統治してもらうことにしました。
 
 この領主は非常に優しいと有名でした。
 悪い領主のように税を重くなどせず、派手な暮らしも好みません。
 領民たちが快適に暮らせるよう税を安くし、そして自分は倹約し、質素な生活を送るような人でした。
 ときには農作業を手伝うなど、領民に寄り添ってくれる人でした。

 その領主に変えてからの評判は上々でした。
「今までとは天と地の差だ!!」
「本当に優しいお方だ」
 領民たちは新しい領主にすっかり惚れこみ、反乱を起こす気などさらさらありませんでした。

 しかし、ある日のことです。
 領民たちは広場に集められました。
 そこで耳を疑うようなことを聞かされました。
「皆さん、申し訳ないんですが、税を引き上げさせてください」
 なぜ!?
 どうして!?
 でもこれにはちゃんと理由がありました。
 領地も広がり、領民を増え、今までの安い税金ではいずれ財政破綻してしまう。
 また、最近山賊などの動きが活発なため、インフラ整備が急務である。
 そう、全ては領民を思ってのことでした。
 しかし、領民たちはそれに納得しません。
「今まで安い税金だったじゃないか!!」
「それは領主の怠慢だ!!」
「結局あなたも悪い領主と同じなのか!!」
 新しく領民になった者、そして今まで領民だった者、全ての民が領主に怒ったのでした。
 改めて言いますが、領主は自分の私腹を肥やすために税を上げようとしたのではありません。
 全ては領民を思ってのことなのに…
 領主は心を病んでしまいました。
 結局、税は引き上げられませんでした。
「へへっ」
 領民たちは笑っていました。

 このことを聞きつけた国王はカンカンに怒ります。
 国王は騎士団を派遣し、そして税務官までも派遣します。
 すると衝撃的な事実が分かったのです。
 この領民たちは自分たちの収入をごまかしていたのです。
 領主が親切で人を疑いないことをいいことに、収入を低く申告し、領民たちは私腹を肥やしていたのです。
 その事実を知らされた領主は愕然とします。
「どうして!?なぜ!?」
 涙を流します。
「私のことを慕ってくれていると思ったのに…」
 しかし、領民は領主を慕ってなどいませんでした。
 それどころか、領主の優しさに付け込んで利用していたのです。
 こんな世の中です。
 生きることは容易くありません。
 人は甘やかされ続けると、それが当たり前のようになってしまいます。
 領民にとって、領主は優しい領主ではなく、自分たちにとって都合のいい領主だったのでした。

 領主はようやく自覚しました。
 自分は優しくしていたのではなく、ただ甘やかしていただけなのだと。
 優しくあるためには、時に厳しくすることも必要なのだと。
 領主とは、領民のためならば、嫌われる覚悟を持たなければならないのだと。
「もっと早く気づいていれば…」
 領主は深く反省するのでした。

 領民たちが広場に集められます。
 そして、領主の前には騎士団たちによって捕らえられた領民が座らされています。
「どうしますか?国王陛下はあなたに判断を委ねるとのことです」
 脱税をしていた者は多くいましたが、今ここにいるのは、特に悪質な者たちです。
「領主様、二度としませんから。許してください」
 領民たちはこう言えば許されると思っていました。
 今までの領主ならこれを受け入れていたでしょう。
 しかし、今ここに立っているのは甘えを捨てた領主です。
 領主は罪人となった領民たちにするどい目つきを向けます。

 まずは新しく領民となった者たちです。
「そなたらが前の領主の悪政に虐げられたのは同情する。しかしだからと言って、税をごまかし、私腹を肥やすことが許されるわけではない。それに町民たちをまとめ、また何やら事を起こそうとしていたのも聞いている。よって、お前たちは1人残らず奴隷落ちとする!!」
「ま、まってください。私たちには大事な家族がいるんです。どうかそれだけは!!」
「ならん。劣悪な鉱山の中で自分たちがしたことを悔いよ!!」
「そんな…」
「…その代わり、お前たちの家族が私の領地で暮らすことを許そう」
 その領民はガクッと肩を落としました。
 こうして、反乱分子となる者たちは完全に芽を摘み取られたのです。

「次はお前たちだ」
 ビクッと反応する、長年領地で暮らして者たち。
「わ、わたしたちは領主様たちに牙をむこうなどと、微塵も思っておりません。だから…どうか…奴隷落ちだけは…」
「あぁ、分かっている。そなたたちを奴隷に落とそうなどとは思わん」
 領民は安堵の表情を浮かべます。しかし、
「財産は全て没収する。今までごまかした税を払うだけで許されると思うな」
「————!!」
「安心しろ。そなたたちが蓄えた財はちゃんと有効に領地運営のために使わせてもらう」
 この領民たちもまたガクッと肩を落とすのでした。
 これまでとは違う領主の姿に広場に集まった領民は驚きを隠せません。
 領主はこれが狙いでもあったのです。
 みんなの前で処罰された領民は見せしめでもあったのです。

 騎士団の団長が領主に話しかけます。
「噂の通り、ずいぶん領主様はお優しいのですね。本来ならば反乱分子など、全員処刑し、家族も奴隷落ちにさせます。それにこれほど長く脱税をしていた者たちも本来であれば懲役刑…いや、奴隷落ちですな」
「私はまだこの者たちに賭けてみたいのですよ」
「それをこの者たちが理解してくれるといいのですが…」
 ここで団長が前に座らされている領民に睨みを利かせます。
「お前たち、領主様にたてつくことがあれば今度こそ容赦しないぞ!!」
 次に何かすれば命はない。
 領民たちは震えあがるのでした。

 最後に領主が毅然とした態度で広場にいる領民に言い放ちます。
「今までの私はみなに好かれる領主でありたいと何とも志の低い領主だった。しかし、もう甘えは捨てる。この町をより良くするために心を入れ替えようと思う。これまでよりも税は高くなるだろう。でも全てはそなたたちが安心して暮らして行けるようにするためだ。もし嫌ならこの土地から出ていってもらって構わん。だが、もしここに残ってくれるというのなら、私はそなたたちのことを全力で守ることをここに誓おう!!」
 税金が上がる。
 これまでのように甘やかされるのは許されない。
 しかし、領民たちは何も言いませんでした。
 言えませんでした。
 なぜならここを出て行っても暮らしがよくなることは絶対にないから。
 他の土地へ行けば苦しい生活を強いられることになるでしょう。
 今までが異常なほど甘やかされていたのをやっと自覚したのでした。

 その後、領主は如何なく力を発揮し、領地を繫栄させたそうです。
 領民たちも心を入れ替え、一生懸命働き、平和に暮らしたのでした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?