第20話 兄:ボスを前にして
兄が小学生くらいのときまで、兄には変な習慣があった。
兄はゲームをしていて、ボス戦になると急に焦り出す。
一旦PAUSEボタンを押して、落ち着かせるのだ。
どうしたのだろう?とボクは思うのだが、ゲームを見ているボクからしてみれば、早く進めてほしいわけだ。
何をソワソワしているんだと。
すると兄が、
「俺、ちょっとションベンしてくる!!」
と走ってトイレに向かってしまう。
そしてトイレから戻って来ると、コントローラの手汗を拭いて、急に正座を始める。
兄の行動にボクが口をあんぐり開けていると、
「バカ、お前も正座しろ!!」
と注意してきた。
これは多分、ゲームの中で山場を迎えていることと、ボスに対しての尊敬の念から取る行動なのだろう。
ボクも面白がって兄に習い、正座をする。
そこでボスに勝てればいいのだが、負けると
「あ~あ」
とか言い始めて、姿勢を崩す。
元の楽な姿勢の胡坐に戻るのだ。
それを見て、またボクも姿勢を崩す。
しかし、またボス戦になると…兄は正座をし始める。
もちろんボクも正座した。
非常に忙しかった。
最初、これはボクを楽しませるためにわざとやっているのかな?と思ったのだけれど、
ある日、ボクが外で遊んで家に帰って来たときに、1人ゲームしている兄が正座をしていたので、
「あ、今ボス戦なんだな」
と悟った。
ボクがいなくてもちゃんとボスに対して尊敬の念を抱いていたようだった。
こういうわけの分からない習慣、ボクは大好物だ。
兄が大きくなり、それを止めてしまったときはちょっと寂しかった。
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