第8話 父:しりとり
ボクが小学校を卒業するくらいまで家族で何度か旅行へ行ったことがある。
旅行先はいつも同じだったけれど、それでも毎回新鮮で楽しかった。
ボクは旅行先に着くまでの電車中で過ごす時間がものすごく好きだ。
それは大人になった今でも変わらない。
いつも見慣れた光景がどんどんと知らない光景に変わって行く。
「その知らない光景の先に楽しい世界が待っているんだ!!」
そう思うとわくわくが止まらない。
寧ろ一番好きかもしれない。
そのくらい電車の中で過ごす時間が好きだ。
そんな電車の中でボクは決まって父に
「しりとりしよう!!」
とお願いする。
父はもちろん嫌そうな顔をする。
しかしそんな嫌そうな顔もお決まりのパターンなのでボクは気にしない。
父に拒否権はない。
強制的にしりとりが始まる。
そんな嫌々始まったしりとり。
皆さんならどうする?
多分同じ答えにたどり着くと思う。
そう、しりとりが始まったならしりとりを終わらせればいいのだ!!
まだ始まって間もないしりとりを終わらせるべく、父は一生懸命「ん」のつく単語を考えるのだ。
「み、み、み、みかん。あ~、お父さんの負けだぁ」
そう言って父はしりとりを終わらせようとした。
しかし、ボクは終わらせない。
「みかんは言ったらダメなんだよ。はい、やり直し!!みかん以外で!!」
「え~?」
父は嫌そうにしりとりを続ける。
旅先に着くまでエンドレス。
父にとって、この時間が一番苦痛だったと思う。
ちなみに母はしりとりに参加せず、父の嫌そうな顔を見てゲラゲラ笑っていた。
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