第18話 父:台風

 父は子供の頃、伊勢湾台風を経験したことがある。
 信じられないくらいの暴風で 当時父が住んでいた家の屋根が半分吹き飛んだと言っていた。
 被害は父の家だけでなく、たくさんの方が被害に遭われたそうだ。
 父はその伊勢湾台風で台風の恐ろしさを思い知ったのだ。

 そんな台風の恐ろしさを知らないボクらからしてみれば、不謹慎な話だが台風は天からのプレゼントだった。
「暴風警報になれば学校が休みになる」
 台風の進路がそれないことをクラスのみんなと願っているような子供だった。

 でもいざ学校が休みになると、やはり家にいるのは退屈だった。
 やりたいゲームがあればいいのだが、持っているゲームをやりつくして暇を持て余してしまうと、やはりいつもとは違う外の様子が気になった。
 風はどのくらい強くなっただろうか?
 そんなことを思って外に様子を見てみたくなったり、窓を開けたくなった。
 でもそれは父が許さなかった。
 伊勢湾台風の記憶があるのだろう。
 怖いもの見たさに外を確認するなど絶対にさせなかった。
 しっかり父親をしていた。

 父も危機意識が高いのか、台風の日はお店を必ず休みにしていた。
「売上なんて絶対にないし、命をかけてまでやることじゃない」
 とよく言っていた。
 まぁ自営業の強みというものだ。

 一度、今まさに外で台風が猛威を振るっているときに兄が薬局屋のバイトに行こうとしていたので本気で怒っていた。
「今、外に出て何かあったらどうするんだ!!遅れるって電話しろ!!」
 声を荒げていた。必死で止めていた。
 案の定、父の言う通り、兄のバイト先も今は外に出るなと言ってくれたようだった。

 まぁ危険な状況の中、バイトへ行こうとする兄の気持ちも分からんでもない。
 日本人は愚直というかがついてしまう真面目さがある。
 そんな真面目さが仇となるときがある。

 テレビ中継で風に吹き飛ばされながら出社するサラリーマンの方々や、いい絵を撮るために危険な場所でテレビ中継するアナウンサーを見て父はよく嘆いていた。
「なんでここまでする必要があるんだ?」
 サラリーマンに対してというより、社員の身を案じようとしない会社に対して怒っていたのだと思う。
 社員の命を守るために行動してほしいと思ったのだろう。
 まぁ会社としての使命感があると思うが、やはり命あっての物種だ。
 誰かが使命感で危険を冒そうとしているのならそれを別の誰かが止めてあげるべきだとボクは思う。

 世のお偉いさん方に対しては、ドラゴンクエストにある「いのちをだいじに」という指示をぜひ出してほしいものだ。
「ガンガンいこうぜ」だけは絶対に止めてほしい。

 皆さんも台風は甘く見ないで、危機意識を高めてほしい。

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