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初めての東京

初めて上京した。

夜行列車で降り立った。

私の田舎では、駅員さんは何でも知っていた。

その上、優しい。

「今日は降るよ、NHKで言いよった」

「ばあちゃん、荷物持つよ」

「お孫さん大きくなったね」

一言声をかける余裕がある。

都会の人も同じと信じていた。

プラットホームは人がイッパイである。

駅を見学しようと思った。

田舎では、上りと下り1つずつである。

隣町は跨線橋だが、私の田舎は線路を横断するのである。

東京のプラットホームは地下通路で結ばれていた。

地下からプラットホームに上がる景色が珍しかった。

何度も往復した。

プラットホームの端まで行って見た。

数えきれない線路があった。

次から次へと電車がやってくる。

童心に返って電車を見続けた。

10分ほど見たであろうか。

駅員さんに声をかけられた。

「どうかなさいましたか?」

「?」

「何かお探しですか?」

「いいえ」

「?」

「電車も線路も珍しいので見ています」

「?」

私の田舎では、都会と繋がる方法は2つしか無かった。

1つはテレビ、もうひとつは線路である。

この線路は私の田舎に繋がると思い、感激していた。

「どちらからですか」

「○○です」

「?」

「○○県の田舎です」

「どうやってここへ?」

「夜行列車です」

「そうですか」

「はい」

駅員さんは去っていった。

荷物を脇に抱えその場を離れた。

遠くにいた駅員さんがついてきた。

不審者扱いである。

出札口に向かった。

出札口の駅員さんに呼び止められた。

「切符をください」

「はい」

「お気をつけて」

「ありがとうございます」

5分程経っただろう。

さっきの改札口に戻った。

「お茶の水に行きたいです」

「切符を購入してください」

「エッ!」

「?」

「またお金を払うのですか?」

「当然です」

「さっき切符を取られました!」

お茶の水まではさっきの切符でいけると思っていたことを伝えた。

「できません」

「エッ」

「もう一度切符を購入して下さい」

「さっきの切符を返してください」

「できません」

「決まりですから」

「………?」

田舎だったら困った人の力になってくれるのに!

東京では融通が効かない!

杓子定規である。

一緒に切符を探してくれればいいのに!

東京の人は不親切であると思った。

加えて、不審者扱いである。

祖母が言っていた。

「人を見たら泥棒と思え」

祖母の教えを噛み締めた。


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