生産性を高めるには雑談が効果的
[要旨]
中小企業ながらも、高い技術力によって、世界的な企業となっている、東京都立川市のメトロールでは、1人の社員が年間を通じて全社員と1時間ずつ雑談をするという対話研修を行っています。これは、生産性を高めるためには、職場の人間関係を良好にすることが大きな要因になっているという、ホーソン実験の研究結果に適っているものと考えることができます。
[本文]
2023年6月8日に、テレビ東京で放送されたカンブリア宮殿で、東京都立川市にあり、「精密位置決めセンサー」を製造している、メトロールという会社が紹介されていました。同社の具体的な業績は分かりませんが、同社の技術力は高く、世界68か国、3,000社と取引があり、売上の60%は海外との取引によるものであるなど、中小企業でありながら、注目されるグローバル企業のようです。また、同社は、今年、日刊工業新聞社「第40回優秀経営者顕彰最優秀経営者賞」を受賞するなど、これまで多くの表彰を受けており、国内でも注目されています。
そして、私は、番組の中で紹介されていた、同社の技術とは、直接、関係のない、「対話研修」に注目しました。対話研修とは、1人の社員が年間を通じて全社員と1時間ずつ雑談をするというものです。繰り返しになりますが、技術力で評価されている会社が、対話研修を実施しているというのは、私は意外でした。もともと、同社は高い技術力を持っているのですから、雑談をするという対話研修は不要と考えてしまいそうなのですが、同社は、あえて、対話研修を実施しているところが、同社が高い技術力を発揮している鍵なのではないかと、私は感じました。
というのも、この同社が対話研修を実施しているということを知った時、私は、ホーソン実験のことを思い出しました。ホーソン実験は、経営学研究で有名な実験で、1927~1932年にかけて、米国のシカゴ郊外にあるウェスタン・エレクトリック社のホーソン工場で行われた実験です。この実験は、端的に述べれば、賃金、休憩、室内温度などの条件によって生産性がどのように変わるのかを調べようとしたものの、結果として、それらは生産性とあまり関係がなかったということがわかっています。むしろ、データ収集を目的に、職場の監督者が、従業員たちと自由な会話を行ったところ、監督者と部下の相互理解が深まり、生産性が改善したということがわかりました。
すなわち、生産性は、賃金や温度などの物理的な要因ではなく、人間関係などの社会的な要因が大きく関わっているということが、すでに、90年以上前に分かっていたということです。ところが、これも繰り返しになりますが、生産性を高めようとすると、社会的な要因はあまり関係がないと考えられがちであり、メトロールのように、対話研修を行う方がよいと考える会社は、日本にはほとんどないのではないでしょうか?したがって、生産性を高めることに苦心している会社は、一見、生産性とは関係がなく、無駄と感じられる雑談を、従業員の方たちに行ってもらうことで、効果が高まるのではないかと、私は考えています。
2023/7/10 No.2399
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