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社員教育は経営者の我慢の限界への挑戦

[要旨]

経営コンサルタントの板坂裕治郎さんによれば、中小企業がよい人材を得るには、自社で育成するしかないということです。そこで、若手や新人にどんどん仕事を任せ、社長や幹部は、若手たちの失敗のフォローに走ることになりますが、それにどれだけ我慢できるかが鍵になるということです。

[本文]

今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの板坂裕治郎さんのご著書、「2000人の崖っぷち経営者を再生させた社長の鬼原則」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、板坂さんによれば、よい人材を自社に迎え入れるためには、就職希望者に社長の考えや想いを伝えられるよう、社長がブログによる情報発信をすると効果があり、それは、ブログを読んだ就職希望者が、「ここで働きたい!」と、求人に応募してくるようになるからであるということについて説明しました。

これに続いて、板坂さんは、人材教育は、自社で行うことが基本であるということについて述べておられます。「私が、先日は言ったレストランでは、こんな出来事があった。頼んだ料理がいくつか出てこないまま時間が過ぎ、後からオーダーしたドリンクはすぐに出てきた。店員さんに確認すると、『オーダーされたものはすべて出ています』と言う。最初にオーダーを取った女性のアルバイトさんが注文を通していなかったのだ。その後、店長さんが謝りにきて、出てきていない料理を、至急、作ってくれることになった。

そして、できあがってきた料理を運んできたのは、最初にオーダーを取った女性のアルバイトさんだった。どんな対応をしてくれるのかな?と期待していたら、『お待たせしました、○○になります』と、マニュアル通りの言葉で料理を置いて去っていった。きっと、店長さんは、バックヤードで女性のアルバイトさんにオーダーミスを注意したはずだ。そして、アルバイトさんも店長には『すいません』と謝ったことだろう。

ところが、料理を待っていた客には何もナシ。本人は自分が重大なミスを犯したことにも気付いていない。こんなアルバイトさんがいると、店の評判は下がってしまう。しかも、時給はほかのアルバイトさんと変わらない……。これが中小零細弱小家業の現場での現実だ。では、どうすればいいのか。言葉は悪いが、三流を集めて一流に育てることだ。

特に、飲食店のような、とりあえずは人数がいるような会社では、まず、入社させてから教育するしかない。しかも、社員教育は、1日や2日でできるものではない。コツコツ一歩一歩の積み重ねしかないのだ。そう考えたとき、すぐに思いつくのが人材育成に成功しているクライアント先の社長さんたちだ。彼らはどんな仕事もどんどん若手や新人に任せてしまう。失敗が頻発する。社長さん自身と幹部がフォローに奔走する。傍から見ていると非効率に見える。

ところが、1年もすると失敗ばかりだった若手や新人がそつなく仕事をこなせるレベルまで育っている。これを『言って聞かせて覚えさせ』とやっていたら、3年、5年とかかっていただろう。やらせて、失敗させて、それでもまたやらせて、と。その繰り返しがあったから育っていくのだ。特別な教育法は必要ない。経営者がどれくらい辛坊できるかどうかがカギになる。社員教育は経営者の我慢の限界への挑戦なのだ」(208ページ)

板坂さんのクライアントさんのように、「どんな仕事もどんどん若手や新人に任せる」方法もひとつだと思います。いずれの方法をとるにしても、私も、中小企業の人材育成は、自社で行うしかないと考えています。その理由は、現在の経営環境では、他者と差別化を図るには、人材育成に注力するしかなくなっているからです。なぜなら、現在は、商品そのものの性能などでは差別化が図りにくいからです。

したがって、経営者の評価は、人材育成能力の良し悪しにかかっていると言えます。それは、「我慢の限界の挑戦」と言えるのだと思いますが、経営者の役割とはそういうものなのでしょう。でも、それは、決して、骨折り損に終わるのではなく、それ以上の報いがあると、私は考えています。

2024/6/4 No.2729

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