会計データを従業員と共有する
[要旨]
駅弁製造業の丸政は、取引銀行の支店長からの助言で、決算書の情報を従業員と共有することで、事業の改善活動に能動的に取り組んでもらうことができるようになりました。このように、会計データは改善活動に欠かせないものですが、それが迅速に得られなかったり、不足していたりすると、改善活動に取り組めなくなるので、注意が必要です。
[本文]
今回も、前回に引き続き、共同通信編集委員の橋本卓典さんが、ダイヤモンドオンラインに寄稿した、山梨県北杜市にある駅弁製造会社の丸政の事業改善に関する記事について、私が気づいたことを説明したいと思います。前回は、同社が、取引銀行の山梨中央銀行の支店長からの助言に基づいて改善活動を行ない、業績を回復させたということを説明しました。そして、この助言に続いて、銀行支店長の佐野さんは、同社に自律的な組織になるように働きかけたそうです。そのひとつは、同社の会計に関する情報の共有化なのですが、その部分を以下に引用します。
「丸政では全社員で決算書の試算表を共有し、どれだけ稼げばボーナスが増えるのかを可視化。そうすることで、従業員が自発的に経営改善点を提案できる体制を築いている。実際、試算表の共有により、年間1,000万円を経費として計上していた環境衛生費---つまりごみ代に目が向けられるようになった。ごみを捨てるために、お金を捨てているという事実を従業員が『自分事』として捉えるようになったのだ。利益も経費も、『ちりも積もれば山となる』だ。従業員の思考を変化させることの意義は大きい」
今回の事例も、極めて当然なのですが、会計データを見れば、どこを改善すればよいのかが分かります。そして、それを従業員と共有することで、改善活動の当事者になってもらうことができます。しかし、実際にはこの手法を実践できない会社は多いと思います。その理由のひとつは、毎月10日ころまでに、前月の試算表を作成できる会社は、圧倒的に少ないからです。月次試算法は作成しているという会社も、ある程度はありますが、翌月10日までに作成できる会社はそれほど多くありません。
では、なぜ、月次試算表が迅速に作成されないのかというと、その理由は、中小企業の多くは、会計取引の記録にあまり労力を注いでいないからだと思われます。というのは、会計取引の記録は、有用な情報を得るための活動ではなく、税金の申告のために仕方なく行う活動だからと考えられているからでしょう。そこで、そのような受動的な考え方を180度変え、能動的な活動ととらえて迅速に記録を行い、改善活動のために活用するだけでも、事業活動を改善できるようになるでしょう。
また、迅速さに加え、さらに、経営判断のために必要な記録も集めることができるようにすると、より高度な判断ができるようになります。税金の計算のための記録は、金額だけが把握できればよいのですが、経営判断は、金額だけでなく、顧客別、製品別、地域別といったセグメント情報や、金額以外の情報、すなわち、数量や顧客属性(性別、年代、職業、居住地など)の情報があると、精緻な判断をすることができます。
当然、こういった情報を集めるためには、それなりの労力が必要なので、抵抗を感じる方も多いと思います。しかし、競争力を高めるには重要な情報です。逆に、これらの情報を得ずに、単に、成行的に販売活動をするよりも、こういった情報を活用することの方が、業績を高めるための労力は少なくてすむはずです。したがって、繰り返しになりますが、会計データの収集は、ぜひ、能動的に取り組んでいただきたいと思います。
2023/4/24 No.2322