効率化で商品価値を削減してはならない
[要旨]
かつて、相模屋食料に救済を求めてきた、豆腐メーカーの日の出は、かつては、相模屋食料さんが真似できない製品を製造していました。しかし、効率化を優先し、製品の味を高める工程を省いてしまったため、味が落ちて顧客離れをしたようです。そこで、相模屋食料社長の鳥越さんは、顧客からの評価が得られるよう、かつてと同じ製造法で製造するように指示した結果、同社の業績は回復してきたそうでう。
[本文]
今回も、前回に引き続き、日経ビジネス編集部の山中浩之さんが、相模屋食料の社長の鳥越淳司さんに行った、インタビューの内容が書かれている本、「妻の実家のとうふ店を400億円企業にした元営業マンの話」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、相模屋食料の営業マンは、スーパーに売場づくりを提案し、その結果、おとうふや油揚げの売上額を増加させることで、他社との差別化を行っていまが、そのために、同社では、営業マンのモチベーションやスキルを高めることに注力しているということについて説明しました。
これに続いて、鳥越さんは、相模屋食料さんに救済を求めてきた、とうふメーカーの「日の出」の事業改善方法について述べておられます。ちなみに、かつて、日の出が製造していた看板商品の「堅とうふ」を、相模屋食料でも製造しようとしたところ、堅さは同じものができたものの、おいしさについては、同じ味にできなかったそうです。「おとうふには、『寄せ』という工程があります。投入には、『にがり』を入れて凝固させるんです。ちゃんと混ぜるのが大事で、うちもそうですが、たいていは、『ワンツー』と呼ばれる、上下対流方式でやっています。作業が2ステップなので、ワンツーという(ようになったようです)。
ところが、日の出は、『櫂(かい)』という、大きなしゃもじかオールのような道具を使って、桶の中で、豆乳とにがりを攪拌(かくはん)していたんですね、20分かけて。ワンツーならものの5秒で瞬時に寄せられるんですが。(中略)そして、ここが大事なんですが、その櫂で20分かけた寄せによって、とうふの内側にうまみを含んだ水分が保たれている、そんなイメージです。(中略)ですけれども、(一般的な製法では)ぎゅっと絞ったときに、水といっしょに、うまみと甘みがいっしょにでちゃうんですね。(中略)(ところが、日の出では)自然脱水で、とうふ自らの重みで、水分が出て行くのを、30分待っていた。(中略)
(ところが)業績が悪化して、手づくりや原料へのこだわりは捨てられないけれど、効率も求めなきゃダメだ、と(その工程を省いてしまった)。それ自体はいいんですが、ムダなところを削るのではなく、商品の競争力のコアを削ってしまった。せっかく、20分で寄せたいたのを、5分に短縮し、絞りもがんがん重しを乗せて、10分ぐらいでできるようにしたと。それ、効率化じゃなくて、商品価値の削減だよという感じになった、お客さまが離れてしまったんです。うちのグループになってからは、全部、一番おいしかった頃のやり方に戻してもらってます」(187ページ)
この日の出の堅とうふの製法の変更については、結果として間違っていたということは、鳥越さんのご説明から分かるように、明らかです。しかし、恐らく、当時の経営者は、切羽詰まった状況の中で、短時間で効果が出ることを優先してしまったのだと思います。では、このようなことを防ぐにはどうすればいよいのかというと、私は、価値連鎖分析を行うことが望ましいと考えています。
原価管理では、どの工程で、どれくらいの経費が発生するかを管理しますが、価値連鎖分析では、どのような活動が価値を生みだしているかを分析します。したがって、日の出が、どこで経費が発生しているのかというアプローチではなく、どの活動が価値を生み出しているのかというアプローチで分析をしていれば、業績は下がらなかったかもしれません。特に、中小企業は、大手と価格競争をすると不利なので、価値連鎖分析を行うことによって、大手に勝てる強みを発見できるようになる可能性が高いと思います。
2023/12/7 No.2549