減価償却費を計上しないことは違法か?
[要旨]
会社が利益額を増やすために減価償却費を計上しないことがありますが、会社は減価償却の対象となる固定資産を使って事業活動をしている以上、減価償却費を計上しないことは、決算書が会社の実態とは異なる状態を示すことになります。また、このようなことは、会計の基本的なルールであり、実質的には法律と同様の位置づけと考えられている、企業会計原則に触れることになります。
[本文]
先日、税理士の大久保圭太さんのPodcast番組を聴きました。番組の主な内容は、会社経営者のリスナーの方から、「銀行から融資を受けやすくするために、顧問税理士から、今期は減価償却費を計上しないことによって、その分、利益額を増やすことを提案されたが、問題はないか」という質問に、大久保さんが回答するものでした。大久保さんは、リスナの方からの質問に対して、そのようなことは望ましくないと主旨のことをご回答されました。
私も大久保さんと同意見ですが、私自身が考えていることについて述べたいと思います。まず、減価償却費を計上しなければ、その会計期間の利益は、計上しなかった減価償却費の金額分だけ増加します。しかし、減価償却を行う対象となる資産、すなわち、減価償却資産は、事業活動が行われているときは、その遂行のために利用されており、そうであれば減価償却費も計上されなければなりません。(この説明は、理解しやすさを優先しているため、正確な説明となっていないことをご了承ください)
ここからは少しややこしいのですが、前述のように、減価償却資産を利用して事業活動をしている限り、減価償却費は発生していると考えるべきです。これは、従業員の方が職場で働いているのであれば、人件費が発生することと同じことです。したがって、実際に損益計算書に減価償却費が計上されたかどうかにかかわらず、事業活動が行われれば、自ずと減価償却費も発生していることになります。それでは、もし、発生している減価償却費を損益計算書に計上しなかったとき、それは問題になるのでしょうか?これは、会計に関する規則からみれば、問題と言えます。
日本には、会計の基本的なルールである、「企業会計原則」というものがあります。これは、1949年に、大蔵省企業会計審議会が公布したもので、「一般に公正妥当と認められる会計処理の基準」です。ただ、企業会計原則は、法律ではないので、これと異なる会計処理をしたとしても、形式的には法律違反とはなりません。しかし、詳細な説明は割愛しますが、会社法第431条は、「株式会社の会計は、一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行に従うものとする」と規定しており、その「慣行」とは、企業会計原則と解釈されています。すなわち、企業会計原則は実質的には法律と同じ位置づけと理解されているということです。
では、減価償却費を計上しなかったとき、企業会計原則のどの部分に触れるのかというと、私は、「真実性の原則:企業会計は、企業の財政状態及び経営成績に関して、真実な報告を提供するものでなければならない」に触れると思います。すなわち、減価償却費は発生しているのに、それを計上しないことは、真実な報告をしていないということになるからです。また、もうひとつは、「継続性の原則」企業会計は、その処理の原則及び手続を毎期継続して適用し、みだりにこれを変更してはならない」の観点からも問題があると思います。すなわち、従来は減価償却費を計上してきたのに、利益を増やしたいという思惑で、従来とは異なる会計処理をすることも、企業会計原則に触れると考えることができます。
このように、減価償却費を計上しないことは、会計の基本ルールの観点から問題ですが、銀行が、もし、不自然な決算書を見たときは、決算書上の利益が増加していても、本来、あるべき会計処理をしていたらどうなっていたかという実態で融資審査を行います。したがって、減価償却費を計上しないことによって、融資が受けられるようになるということはないと考えた方がよいでしょう。では、大久保さんに質問をしたリスナーの方の顧問税理は、会計に関する専門家であるにもかかわらず、なぜ、減価償却費を計上しないことを、リスナーの方に提案したのでしょうか?これについては、次回、私の考えを述べたいと思います。
2024/7/16 No.2771