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足し算と掛け算ではなく引き算と割り算

[要旨]

経営コンサルタントの板坂裕治郎さんによれば、中小企業経営者の方の多くは会計が苦手であるにもかかわらず、見栄でわかったふりをしており、さらに、会計情報は売上しか見ていないので、業績が悪化したときも、売上を増やすこと以外の対策を判断できない結果、妥当な利益率を確保するなどの、より適切な判断ができなくなってしまうということです。

[本文]

今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの板坂裕治郎さんのご著書、「2000人の崖っぷち経営者を再生させた社長の鬼原則」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、板坂さんが、犬のトリマーの方からご相談を受けたとき、トイプードル専門店とすることをお薦めしたそうですが、それは、トイプードルのトリミングは、トリマーの腕が発揮されるからであり、見込み客への訴求効果が高いからだということについて説明しました。

これに続いて、板坂さんは、中小企業経営者は、財務分析に基づいて経営判断をできるようにしなければならないということについて述べておられます。「正直に言って、決算書の見方を知らない社長さんはごまんといる。どうしたらお客さんが振り向いてくれるのか。この商品はどうやったら売れるのか。どこに営業をかけたら効果的か。中小零細弱小家業の社長さんは、基本的にこういう攻めの思考は得意としている。新しい策を練るのも大好きじゃ。月の売上と年商を聞かれても、ピシッと答えられる。ところが、守りについては疎かで、苦手にしている。

原価率は?固定費はどれくらい?人件費は?借入返済は?労働分倍率は?こんな質問になってくると、答えが鈍くなってくる。売上のように積み上がっていく数字には興味があるけれど、支払いのようなどんどんと出ていく数字には、あまり興味がない。しかし、見栄っ張りだから、数字のややこしい話になると、『お金のことは税理士に任しとるけ』と、逃げを打つ。そのくせ、決算時期になると税理士が持ってきた試算表をちらっと見て、『おお、わかった、そんで、税金はどれくらい払うたらええん?』と言ってしまう。まったく読み方がわからないのに、『わからん』と言ったらかっこ悪いから、さもわかったような態度でごまかして切り抜けた気になるわけだ。(中略)

しかし、そのままで走っていると、イケイケドンドンの成功サイクルに陰りが見えたとき、現時点で自分の会社にいくらお金があって、どれくらい儲かっているのかすらわからない状態になる。こんなことではいけないとわかっていながら、決算書の貸借対照表や損益計算書といった言葉に出くわすと、ギブアップしてします。『仮にも社長さんが……』と思うかもしれないが、中小零細弱小家業の社長さんの7割は、決算書を読めないまま、売上の数字だけに注目して突っ走っている。今月の売上はいくら、年間の売上はこれくらい、と。

だが、粗利が何%で、営業利益がいくら、キャッシュフローがどうなっているかといった数字はあやふやだ。つまり、足し算、掛け算は得意だが、引き算、割り算が入ってくると目を背けてしまう。結果、一度、会社の経営が下降線に入ってしまうと、いくらがんばってもラクにならない。それは目に入っている数字が売上だけだからだ。社長さんは、『売上が足りないからだ』と考えて、売上を増やすために奔走する。すべての時間をそこに費やす。だが、売上が増えても状況は変わらない。なぜなら、まず、やるべきなのは、利益が出る値付けをし、必要経費を削減することだから」(155ページ)

板坂さんが、業績が悪化している会社が、「まず、やるべきなのは、利益が出る値付けをし、必要経費を削減すること」というご指摘は、私にもたくさん心当たりがあります。というのは、会計が苦手な経営者の方が、業績を改善しようとするときは、売上を増やせばよいという発想になってしまっているからです。しかし、社長が自社の稼ぎ頭と考えていた商品は、実際は、採算がとれておらず、売れば売るほど赤字が拡大するということは珍しくありません。

というのは、経営者の方が業績がよいと感じるのは、商品が売れているかどうかというものの流れで判断してしまいがちで、それが実際に会社の利益にどれくらい貢献しているかまで確認していないことが多いからです。では、このような状況については、経営者の方はどうすればよいのかというと、食わず嫌いをせず、会計について学び、日商簿記2級、または、3級を取得することだと思います。簿記を学んだ経営者の方の事例として、私は、サンリオピューロランドを運営する、サンリオエンターテイメントの社長の小巻亜矢さんを思い浮かべます。

小巻さんは会計が専門分野ではありませんでしたが、当初、幹部として経営会議に出席したとき、提出された財務資料がまったく頭に入らなかったそうです。そこで、通信教育で簿記を学んだ結果、数字に関心が持てるようになり、今まで見えなかったものが見えるにようになったので、会計の知識を身に着けたことは、まるで眼鏡をかけたようなものとお話しておられます。今回の記事の内容は、単に、経営者は会計の知識を身に着けるべきと受け止められてしまいがちですが、そのことよりも、会計の知識がなければ、経営者の方の判断は限定されてしまうということを、板坂さんはお伝えしようとしているのだと思います。

2024/5/28 No.2722

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