従業員教育は投資だが会計的には費用
[要旨]
従業員教育は投資と考える経営者は多く、また、それは正しい考え方ですが、財務会計では、研修費は費用にしかなりません。また、財務会計上は黒字であっても、研修費を支出すると、十分な利益が得られない事業は、実践する意味はあまり大きくないので、そのような事業の選択は避けるべきでしょう。
[本文]
前回は、紳士服店で、スーツの2着目を半額にしても利益を得ることができるという考え方は、管理会計の観点によるものだということを述べました。今回は、また、別の面から管理会計について述べたいと思います。よく、「従業員教育は投資」という言葉を耳にすることがあると思います。そして、このことは、多くの方が賛同されると思います。
例えば、東京都羽村市にある、変圧器製造業の株式会社NISSYOでは、従業員研修に、年間で3,450万円を支出しており、この金額は、正社員ひとりあたり50万円になるそうです。そして、このことが組織の成熟度を高めることになり、競争力も向上してきた結果、売上高も増え続けてきたそうです。このような会社の例からも裏付けられているように、研修費は、費用ではなく投資であると考えることが妥当です。しかし、財務会計の観点からは、研修費は資産(投資)ではなく、費用としてしか認められません。
その理由として考えられることは、支出した研修費で従業員の能力が高くなったとしても、その能力の向上の度合いを金額で表すことができないからでしょう。というのも、財務会計には、「貨幣的測定の公準」という原則があり、金額で測ることができる価値でなければ、資産に計上できないことになっています。これがよいか悪いかは別として、経営的な観点からは投資であっても、残念ながら、財務会計では研修費は資産としては扱うことはできません。
ところで、「従業員教育は投資」という考え方には経営者の方が賛同していながら、実際に従業員教育に力を入れている会社は、割合としては少ないのではないでしょうか?その原因として考えられることは、研修費を増やすことで利益が減少することを経営者の方が懸念したり、または、赤字に転落してしまったりする会社が多いからではないでしょうか?このように、「従業員教育は投資」と考えながらも、それを実践していない会社があるとすれば、それはとてももったいないことだと思います。
では、そのような状況を打開するにはどうすればよいのでしょうか?それは、何か「裏技」的なことがあるのではなく、ある程度の付加価値を得らる事業を選択して実践するしかないと、私は考えています。例えば、税理士の岡本吏郎さんは、岡本さんのご著書、「会社にお金が残らない本当の理由」の中で、従業員ひとりあたり、1,500万円の付加価値を得なければならないとご指摘しておられます。
厳しい言い方をすれば、黒字であっても、少ない付加価値しか得られない事業では、競争力を高めることができず、早晩、継続できなくなってしまうと考えることができます。したがって、これからの経営者は、単に、財務会計では黒字であっても、管理会計の観点から、従業員教育を実践できるだけの付加価値の得られない事業は、実践しても意味がないと考えた方がよいと、私は考えています。
2022/4/2 No.1935
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