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将来はわからなくても事前の対策は可能

[要旨]

経営コンサルタントの國貞克則さんのかつての顧問先は、競業企業や顧客企業の、幅広く、かつ、ディープな情報を入手し、それに加えて個々の営業担当者の現場の声を拾い上げ、3か月先の販売数量を見通していました。こうすることで、収益機会を逃さないようにしたり、損失機会を回避したりする対策を打つことが可能であり、販売活動の効率を高め、利益の増加に資することができます。

[本文]

今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの國貞克則さんのご著書、「財務3表一体理解法『管理会計』編」を読んで、私が気づいたことについて説明したいと思います。前回は、國貞さんのかつての顧問先の電子機器販売会社では、製品毎、顧客企業毎、営業拠点毎、営業担当者毎のデータなどを取得しており、その結果、ある、営業担当者の営業成績が上昇すると、次は、その担当者の所属する拠点の営業成績が上昇するという動きがわかるなど、現場の状況を把握することができたということを説明しました。

これに続いて、國貞さんは、かつての顧問先が、管理会計によって適切な生産活動を行っていたということについて述べておられます。「A社が、一番時間をかけて慎重に検討していたのが、生産数量・販売数量・在庫数量の見通しでした。この会社の製品は、製造までに3か月のリードタイムが必要でした。つまり、製品ができあがる3か月前に生産指示を出さなければなりませんでした。A社では、3か月先の販売数量を正確に見通さなければならなかったのです。その見通しが狂えば、欠品が出て販売機会を失うか、はたまた在庫が積みあがって経営を圧迫することになります。

もちろん、未来を予測することはできません。しかし(中略)、すでに起こっていることを先取りして手を打つことはできます。管理会計は、基本的に内部をコントロールするものですが、当然ながら企業の外部の情報も極めて重要になります。A社では、『どこから入手してきたのだろうか?』と思うような、競業企業や顧客企業の、幅広く、かつ、ディープな情報を入手し、それに加えて個々の営業担当者の現場の声を拾い上げ、3か月先の販売数量を見通していました。その検討資料は、製品毎、顧客企業毎、営業拠点毎に緻密さを極め、細かい数字がぎっしり詰まった厚みのあるものでした。

膨大な数字を分解して、その中から変化や違いを見つけ出すのは分析ですが、その変化や違いの原因を見極めていくには、知覚も必要です。まさに、分析と知覚をフル動員して3か月先を見通しているという感じでした。そして、その見通しの的中率は驚異的なものでした。私たちは、未来を予測することはできません。将来、どんなことが起こるかはわかりません。しかし、すでに起こっていることを先取りして手を打つことはできます。このことが、管理会計においては極めて重要なのです」(30ページ)

会計を事業活動に活用することにあまり肯定的でない経営者の方は、「将来を見通すことは難しいのだから、会計を活用することは、あまり意味がない」と考えているようです。でも、國貞さんも、「すでに起こっていることを先取りして手を打つことはできる」と述べておられるように、前もって収益機会を逃さないようにしたり、損失機会を回避したりする対策を打つことはできます。確かに、会計に関するデータを集めるだけでは利益を得ることはできません。利益を得るための直接的な活動は、販売活動です。

しかし、会計に関するデータを活用することで、その販売活動の効率を高めることができるようになるということは、前回もご説明した通りです。ちなみに、三重県伊勢市にある、土産物店等を営む、有限会社ゑびやでは、需要予測システムを開発し、それを活用した結果、売上を4倍に増やし、従業員の平均給与も5万円増やしただけでなく、有給休暇消化率も80%に上昇するという大変革を実現しています。

現在は、顧客から見て良い商品や良いサービスにあふれている時代です。そのような経営環境の中では、商品やサービスそのもので、ライバルと差別化をすることは難しくなってきています。ですから、利益をどのように得るかという方法は、商品やサービスそのものよりも、どのようなプロセスで提供するかに移りつつあると言えます。だからこそ、ゑびやさんのように、需要予測を行うことの効果が大きくなってきていると考えることができます。したがって、これからの事業活動は、管理会計を活かすことに軸足を移していくことが大きな鍵になると、私は考えています。

2024/5/2 No.2696

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