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オールドターキーと学校の七不思議(第十一話)

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第十一話 四ノ宮 透

生徒達の治療が済むと、警視庁「特務課」が捜査のため修徳高校を訪れた
佐倉咲さくらえみ先生ですね。私は警視庁特務課の「四ノ宮透しのみやとおる」です。生徒達の事情聴取を行いたいので、一人ずつ話を聞かせてもらいます」
「は……はい、分かりました」
 四ノ宮しのみやは20代後半のキャリア組といった風貌で、冷たい雰囲気を漂わせたイケメン刑事だ

「ではまず佐倉先生に伺います。今回の件が「兎角とかく」であった場合「少年法」が適用されません。すぐに拘束の対象になるのですが、そのあたりを踏まえて「探求科」の生徒達のことを見てきてどう思われますか?」

「――!兎角とかくですか?……生徒達の話によると「ポルターガイスト」だと言ってましたけど……」

「つまり、あくまで霊的な現象であり、「異能」ではないということですね!仮に「兎角」を隠していると処罰を受ける事になりますが、よろしいですか?」

「――!処罰……そんな……」
 佐倉の顔から血の気が引いて、青ざめているように見えるが、うつむいてその表情はうかがえない

 四ノ宮が一人ずつ事情聴取をしていると、今のところ生徒達の説明する内容は一致している
 教室内で突然「物」が飛び回る怪奇現象が起きたので、逃げ回りガラスの破片などで怪我をした。こういう事は以前からあって「学校の七不思議」の一つであるということ

 ひじりは、探求科全員に口裏を合わせるように指示していた、もちろん強制ではないが、全員が同じようにそうしようと決意したのだ

「君は八神聖やがみひじり君だね!」
「……はい!僕の事を?」
「有名だよ、天才高校生だってね!」
「そうですか、ありがとうございます!それで事情聴取のほうは、まだ時間かかりますか?僕達も日頃から勉強を疎かに出来ないので、出来るだけ早めにお願いしたいのですが」
「そうだよね!君達は将来「国」の重役になる可能性を秘めているんだから、無駄な時間は無いよね……ただ少し気になる点があってね……天才高校生に聞きたいんだけど……生徒達全員は「物が飛び回るポルターガイスト」って言ってるんだけど」

「そうですね、飛び回ってましたよ」
「……おかしいんだよね……それだと……口裏を合わせているとしか思えない」

「……そうでしょうか?みんな、見たままを言っているだけでしょう?」

「それが……現場を見ると確かに「物」が飛び回った形跡があるんだが、「机」以外はそんなに飛び回った形跡がないんだよ。散らばってはいるが「机」ほど乱雑ではない。しかし君達は「物」が飛び回っていたと言っていた……矛盾してるんだよ」

「……」
ひじりは平静をよそおうが、まだ幼い高校生だ。じんわりと浮かぶ汗を誤魔化しきれなかった

「だから、探求科全員で嘘をついて、誰かを庇おうとしているんじゃないかと思ってね」
 四ノ宮はひじりの挙動に不審なところがないかと冷酷に見つめる

「そういえば今日は二人ほど欠席者がいるね。たしか、名簿には……「百地杏子ももちあんず」と「伊倉梅いくらうめ」か……調べてみてもいいかもな」
 四ノ宮は独り言のように言うが、その言葉はわざと聖に聞こえるように言っている

「――!欠席者は関係ありますか?」
「欠席してないかもしれないからね」
「どういう意味ですか?」
「どちらかの生徒が人を傷付けるために「兎角」のチカラを使ってこの事件を起こした?……とか……」
「そっ……そんな……そんなことは絶対にあり得ません!」
 ひじりに焦りが見え始めた時だった

「いや〜ごめんごめんひじり〜……あっ!……今、事情聴取中?……やべ……」
 空いた教室に一人ずつ入って聴取を取っているところに、アルキが迷い込んできた

「アルキ先生!」

「……何が「やばい」のですか?」
 四ノ宮は冷たい視線をアルキに向ける

「い……いや特に「やばい」事はないですよ、生徒達が言ったように「学校の七不思議」のポルターガイストで、「机」がたくさん飛び回っていたんですから」

「――!あなたは、今……「机が」と言いましたか?」

「――えっ?い……いや……何のことですか?「物」ですよ「物」!いっぱい飛び回ってました。「机が」って何のことか、私にはさっぱりでして……」
「……ちょっと署まで一緒に来てもらっていいですか。あなたのお名前は?」

「……七面歩ななおもてあるきです、探求科の副顧問をしてます」
「副顧問ですか……私は特務課の四ノ宮です。ちょっと事情を聞きたいので、あなたを任意で連行しますがよろしいですか?」

「俺にはやましい事なんて一切ないですよ!」
「あなたは言動におかしな点があります、全員が「物」が飛び回ってと答える中、あなただけが「机」が飛び回ってと言いました。口裏を合わせているにも関わらずです……つまりあなたが「犯人」もしくは生徒達を操っている可能性があります」

「くっ……刑事さん、そこまで……分かりました」
 アルキはチカラ無く俯いた

「――ちょっと!連行って!強引じゃないですか!」
 ひじりが四ノ宮に食ってかかる

ひじり……もういいぞ……すまなかったな。俺のために口裏を合わせてくれて……みんなにもよろしく伝えておいてくれ」
「――えっ?ちょっとアルキ先生!」

「四ノ宮さん……じゃあ行きましょうか……」
 アルキは観念するように両手を差し出すが、「任意だから手錠はしませんけど……」と四ノ宮は少し引き気味で答えて、二人は教室から出て行った

「アルキ先生……」
ひじりは呆然と立ち尽くしていたが、アルキの考えを汲み取った。全員にチャットでこの事を素早く伝えて、辻褄をアルキの考えに合わせていく

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 警察署内取調室で、アルキを聴取するのは特務課の四ノ宮透しのみやとおる

「では七面先生、説明してもらいましょうか」
「四ノ宮さん、俺は「兎角科の教師」なので異能力が精神的なモノから現れる事くらい知っています。ですから子供達の精神状態を考慮して、追い詰めるような事はしたくないんですよ」

「あなたが言っている事は今回の件が「兎角」であると断定しているように聞こえますが、よろしいですか?」
「……今回の「ポルターガイスト」事件、間違いなく「兎角」です!目星もついています」
「――な!あなたは先程、生徒達に庇ってもらってた様な事を言ってましたよね」

「私は、始めに言いましたよね。子供達に精神的な不安を与えたくないと」
「では、それは誰ですか?」
「言えませんね」
「「兎角隠し」は犯罪ですよ」
「俺はただ「目星し」がついていると言っただけです。つまり俺の中でまだ「確定」してないんですよ!「確定していない事実」を隠してると言われても困りますね、「虚言」になることは避けたいので」

「……そうですか……では再び捜査のため、修徳高校に行かなければなりませんね」

「四ノ宮さん、何度も言わせないで下さい。子供達に精神的な不安を与えたくないと言ってるんです」
 アルキは四ノ宮の目の奥を見つめるように、冷静に冷徹に語気を強めて言う

「……あなたは教師ですよね?捜査は我々が行いますので余計な事をしないで下さい」

「教師だからですよ」

「……情報は渡さないと言うことですか?」
「生徒達になるべく関わらないようにするのであれば「確定した事実」をお教えします」

「交渉が上手ですね……ですがこの事件の犯人が生徒である以上、関わらないというのは難しいですね」

「では「確定した事実」をお教えします」
「――は?いや関わらないことは出来ないと……」

 アルキは無視して話を進める
「今回の事件は「兎角」を使って行われた障害事件です。「恨み」を持つ者の犯行であり能力は「共振」です!使い方によっては非常に強力で、危険ですから気をつけて対応して下さい」

「七面先生……情報をくれるのは有り難いですが約束は出来ま……」
「なので「特務課」は探求科の過去の事件や、恨みにつながる事件を調査するといいかもしれませんね」

「はい?どうしてあなたが捜査方針を決めようとして……」
「いえ、そうすれば俺の条件とあなたの条件が合致すると思ったからです」
「……七面先生、あなたは我々をバカにしているようですね!」
「信頼しているんですよ。きっと約束を守ってくれると」
「――な!約束などした覚えは……」
「では、これは任意の事情聴取なので、帰らせてもらいますね」
「くっ!……」

 アルキはそう言うと取調室から出て行く。四ノ宮は悔しそうな表情で、椅子に座ったままこぶしを強く握りしめていた

 そんな四ノ宮をよそにアルキは誰に見送られる事もなく警察署から出て行くのだった。

「四ノ宮さん……やられちゃいましたね」
七面歩ななおもてあるき……始めからこうするつもりで、任意同行したのか……クソッ!」
「……」
 特務課の捜査員である四ノ宮が、一教師に主導権を握られ怒りに震えている……記録係の警察官はそれ以上、話し掛けることが出来なかった。


 もうすっかり夕方になってしまった。アルキは、杏子が待っているのではないかと急いで「antenna アンテナ」へ向かうことにした

「おい!一華のところに行くのか?」
「ターキー……お前、antenna アンテナに着いたら杏子あんずに絡むなよ!すぐに怖がらせるから」
「あん!テメェ、やっぱりガキにも手を出そうとしてるんだな!」
「違うって!探求科の大事な生徒だからな!」
「クク、そんなこと言っておいて情報源として利用してるんじゃないのか?」
「人聞きが悪いな、俺が女性を利用するなんてことはないぞ!そのへんは年齢も関係ない」
「どうだかな、オンナのケツばかり追いかける割には最後にはいつも周りにオンナがいねぇ孤独な男だからな。自分で切り捨ててるんじゃねぇのか?」

「あのなぁターキー……それはお前のせいなんだが!」
「あぁん!オレのせいにしてんじゃねぇ」
「まぁとにかく杏子が怖がるといけないから頼むぞ」
「へいへい」

街の灯が眩しくなり、アルキは「antenna アンテナ」に着いた。一華とカウンターで喋っていた杏子あんずが、笑顔で振り向く

「あっ先生!帰って来た!」
「おつとめご苦労様、アルキ」
「捕まってないわ!……一華、腹減った!なんか作ってくれ」
「エッグサンドでいい?」
「いいよ……杏子は食ったか?」
「まだだよ、アルキ先生を待ってた!へへへ」
 杏子は一華ともすっかり打ち解けているようで、ご機嫌な笑顔をアルキに向ける

「待たせたな、少し遅くなったが食ったら家まで送るから安心しろ」
「はぁ〜い」
「杏子ちゃん、ずいぶんアルキのこと、気に入ったみたいね」
「分かりますかぁ?わたしアルキ先生の「未来の伴侶」に立候補しようと思って!」
「あらっ!良かったわねアルキ、こんなに若い奥様をもらえて!もう一度、おつとめに行かないといけないけど」
「アホか!杏子は生徒だ!対象に入ってないわ」
「えぇ!ひどっ……女泣かせのバカアルキ……うう……」
「いや呼び捨て……」
「あらら、女性至上主義のアルキが、女の子を泣かせるのね」
「おいおい、あおるなよ一華!俺にはすでに修徳高校の美人教師がいるんだからな」
「うう……佐倉先生から相手にもしてもらってないくせに……バカアルキ」
「ふん……勝負はこれからなんだよ!っていうか、いい加減にウソ泣きはやめろ」
「勝負はこれからかぁ……じゃあわたしにもワンチャン……」
「ないない、10年早いわ!」
「オッケー!10年待ってて!」
「待てるか!俺が42歳じゃないか!」
「杏子ちゃん安心して、どうせアルキは42歳になっても結婚してないから」
「ですよね!」
「不吉なことを言うんじゃないよ!そうなったら一華に責任取ってもらうからな」

「アルキ……」

 一華はアルキの頬にそっと手を添えて、顔を近づけていく。あまりの妖艶な雰囲気にアルキも杏子も息を呑む……吸い込まれそうな瞳で見つめると、ウィスパーボイスで囁く

「……それは無い」


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