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【読書感想文】森絵都/カザアナ

 GW前の最終労働日であった4/28は19時過ぎで勤務終了とした。
 その日はシェアオフィスに居たが特に勤務終了後に飲みに行く予定もなかったので、本を買って読もうと思った。
 色々と手に取る中で面白そうだと思ったのがこの本だった。
 森絵都さんは「みかづき」で賞を受賞していたので名前は知っていたが、作 品を読んだことはなかった。ハッピーエンターテインメントという文字があったのと表紙がカラフルで面白そうだったので、休みの日に前向きな気分になるにはちょうどいいかなと思い購入した。

*以下ネタバレ*

 東京五輪から約20年後の世界が舞台となっているが、中学生の里宇や小学生の早久などの子供たちは腕に"NW"という装置をつけられて"参考ナンバー"というナンバーのもとで監視されている。
 ボランティアでポイントを稼がないと進級できなかったり、ドローンカイトという監視ドローンも空を飛んでおり、と、日常でありながらもどことなく僕たちの世界とは異なるという違和感を感じる。
 「ジャポい」とか「オバシー(oversea)」とかあまり見慣れない単語も飛び交うし、異国文化を排除して観光立国日本を作るために街並みが古き良き日本の姿に回帰していたり、そこに無理やり反抗する勢力がいたり・・・など。どことなく「図書館戦争(有川浩)」のメディア良化法を思い出させる。 
 そして、物語を進めていくと、このような世の中になってしまった理由が語られる。パンデミックで東京五輪がご破算になって経済循環が悪化した日本が観光立国になるための戦略として、このような監視社会を選択したというのだ。

 驚きはしたが、「今後このような未来が来ないとは言えない」と思った。時刻で産業が発展しない国はどうなるか。そう、観光で外国からのインバウンド消費を頼るのが常套手段。
 この物語の中で日本は、途上国や工業の発展していない欧州と同じような道を行く想定をしているのだ。そういう意味では、社会風刺的な要素も感じさせる。

 裏表紙に登場人物の紹介があるのでわかりやすくはなっているが、基本的には父をテロで失った3人の家族と、カザアナという造園会社の人物たちの間で物語が繰り広げられていく。
 カザアナの人間たちはそれぞれ平安時代の物語の中にある"風穴"と呼ばれる能力を使える。そういう平安時代の世界観の後に現代に戻ってくる感じはどことなく「プリンセス・トヨトミ(万城目学)」あたりの雰囲気にも似ている。
 上記の能力にはファンタジー要素があるが、それよりも3人の家族が面白い。どことなく大人びている里宇と、最初は引きこもりであったがやんちゃな男の子で突破力のある早久、そしてその母親で、どことなくバタバタしているが意思が強いフリージャーナリストの由阿。ストーリーとしてはファンタジーではあるののの夏休みの冒険というような要素が強い。
 設定が粗いという評価も見受けられるが、読んだ後は爽やかな気持ちになったので、そういう方にお勧めしたい。

 「みかづき」も休暇期間中に読んでおきたいと思った。

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