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【読書感想文】村田沙耶香/丸の内魔法少女ミラクリーナ

**ネタバレを含みます**

名前のインパクトが強くて久々に村田沙耶香の小説を購入。
どうやら短編集らしく、4つの物語が30~60分ずつぐらいでさらりと読める内容。
しかし、その物語がどれも多様性という得意なキーワードの中で価値観を揺らがされる内容となっている。

タイトルの「丸の内魔法少女ミラクリーナ」は普通のOLを演じながら影で隠れて「魔法少女へ変身」することで凛とした自分になれる、という女性を描いたもの。冷めた友だちのレイコは2代目のマジカルレイミーの正義とは言えない行為を見てミラクリーナと同様に「魔法少女へ変身」するわけだが、それによって過去を取り戻したように思えた。
一言でいえば中二病を引きずっている、という感じなのだが、自分を突き動かす主人公が心の中にいるのは大事なこと、というのは何となくわかる。

「秘密の花園」は成就しなかった初恋とどうやって踏ん切りをつけるか、というよくあるテーマかもしれないがやり方が狂ってる、という内容。言いたいことはわかるけど、僕は初恋の相手は良い想い出にしておきたい気がするので、痛めつけるのはどうかと・・・。だけどクレイジー沙耶香らしい表現だった笑

「無性教室」は性別が禁止されている学校の中での恋や、規則を破った「女性」を見て自我が生まれる人間の話。これは結構リアルで、多様性という言葉がヒートアップするといつかそうなってしまうのでは、という怖さを覚えた。
だけどこの怖さは何だろう?社会を無理に捻じ曲げておかしくなってしまわないかという危機感?それとも自分が時代から取り残されていくことの怖さ?両方兼ね備えた思いが溢れた。

最後の「変容」も新しい価値観の時代の話。
若者を中心に社会から「怒り」という感情がなくなる世界で主人公の女性が違和感を覚え、過去に怒っていた女性である五十川さんに会いに行くという話。
「なもむ」というよくわからない言葉が出てくる。
それまで「なもむ」って何?と思っていた主人公が、五十川さんが怒っているのを見て最初は「五十川さんは今でも怒っている!」と喜んでいたのに、突然 ー 私は何も言えなかった。なぜなら、私は、なもんでいるのだった。 ー と言い出すのだ。
ぞっとする内容だ。それまで抵抗していた主人公が、その社会に飲み込まれた瞬間だった。
この五十川さんに会う前に夫に対して「私たちは変容生物よ。所属するコミュニティに合わせて、模倣して、伝染して、変容するもの。あなたが綿sに世界を伝染されてくれなかったら、私だけが取り残されてしまう」と言っていた。
変容したいと思っていた「私」が、この瞬間に変容してしまったのだ。しかも、五十川さんに対して「早くこの美しい感情を教えてあげたい」とまで言っている。完全に洗脳されてしまっている。

最後のインパクトが強かったが、最近だと「エモい」という言葉が定着している。僕らの世代からすると最初は違和感があったが、今は定着していて、エモいという感情がわかる。洗脳とは違うと思うけど、新しい言葉や概念が生まれる瞬間はこういうものなのかもしれない。

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