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【読書感想文】岡崎琢磨/珈琲店タレーランの事件簿 また会えたなら、あなたの淹れた珈琲を

*中段からネタバレを含みます。

 2012年8月発行ということで、2012年の第9版を購入している。おそらくミステリーが読みたいと思いつつ、人が死なないものがいいなと思って購入したのだと思う。
 死なないミステリーというのが好きで、「万能鑑定士Qの事件簿」や「ビブリア古書堂の事件手帖」、「タルトタタンの夢」シリーズなど読んできた。「万能鑑定士Q」シリーズも面白いが、細かく章が区切られており気軽に読める点ではこの「珈琲店タレーランの事件簿」シリーズは好きだ。多分死なないミステリーが好きになるきっかけだったのではないか。

 今となっては2019年に6巻まで発行されており、コミックス化もされている人気シリーズになっている。4巻までは新刊が出るごとに購入していたが、少し時間が空いて先日ようやく5巻~6巻を読破したので改めて感想を書きたいと思う。

 作者の岡崎琢磨という人物は1986年生まれで自分と年齢が近い。2011年に本作品で第10回「このミステリーがすごい!」大賞の最終選考に残ってデビューし、40万部越えのベストセラー、そして京都本大賞を受賞したということだった。出身大学は京都大学ということで、京都の地理や情景が細かく書かれており実際に足を運んだのだろうなというイメージがつく。万能鑑定士Q
もそうだが、実在する街並みの情景や匂いを本の中から感じることが出来る作品はとても好きだ。

*以下ネタバレ注意
 



 アオヤマと呼ばれる22歳の青年が理想のコーヒーを求めている中で訪れた純喫茶タレーランにて1歳年上のバリスタ=切間美星と出会い、彼女が日常の中に潜む謎を解いていく。1章あたり約50ページで、最初のほうに伏線が張られており最後に解き明かされていくパターンが大半。その中にストーリーの最後につながる伏線も微妙に張られていて面白い。
 アオヤマ自身は本名を"青野大和"といい、美星と同業者であるため名刺を渡さずにとっさにアドレスのメモ書きを渡したということから、そのあと本名がわかっても「アオヤマさん」と呼ばれ続けることになる。美星は過去の恋愛がきっかけで男性に対して恐怖心を抱いているのだが、徐々に親密になっていく過程もベタな恋愛ドラマっぽくて面白い。
 1巻は最後「味は変わってしまった。」と唐突にアオヤマが美星に別れを告げる。本当は美星を危険から守るためであり、それを悟られないように「同業者であり味を盗むためにタレーランに通っていたが、味が変わってしまったこの店に用はない」という表現で突き放した。
 しかし、美星はそんなアオヤマの真意を理解しており、アオヤマが渡したメモ書きを返すと見せかけてお礼のメッセージを送る。

 上記が1巻のストーリーであり、よく出来ていると思った。そして2~3巻は違うストーリー、短編集の4巻を挟んで5~6巻がかなり面白かった。5巻はアオヤマが初恋の年上女性と再会するのだが、モチーフが源氏物語になっていて美しい物語になっている。そして6巻は美星の叔父でありともにタレーランを運営している藻川又次が病に倒れ、4年前に亡くなった妻の謎の行動を追うというものだった。6巻はどんでん返しというか、「そう来たか」と思うことが今まで以上に多く、それと同時に色々な人物の愛情を感じることが出来ることが出来る作品だった。何となく6巻で最後のような雰囲気を感じたが、次回作を期待したくなるような出来の良さだと感じた。天橋立は昔から行ってみたいと思っていたが、この作品を見てさらにその想いが増した気がした。

 そんな感じで変わらずに人の死なないミステリーというのは色々と探してみたいと思う。ヒューマンドラマとは違う形で人の心を読み解いていくというのはとても面白いし、忙しない日常の中でももっと深く相手のことを考えて接したら違う景色も見えてくるのだろうかと、日々考えるきっかけになるなとつくづく感じている。

6巻



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