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【読書感想文】羽田圭介/ミート・ザ・ビート

*ネタバレを含みます。

 羽田圭介は僕の3歳上で若い時から小説を描いている。
何年か前に読んだ「黒冷水」は微妙な関係性である兄弟の心理を少しコミカルかつ繊細に描いていてとても面白かった記憶がある。
 1年ほど前にこの「ミート・ザ・ビート」と「スクラップ・アンド・ビルド」を購入したのだが、本棚の肥やしになっていたのでこのGWで読破した。

 主人公の「彼」は予備校に通っているが、舞台は田舎の中の中心部といった感じなのか、たまたま訪れた国道沿いのレストランで知り合いに遭遇するなど東京などではあまり考えられない描写がある。そして、レイラというホストやそのホストに貢ぐデリヘル嬢のユナ、そのユナのサービスを受けるためにアルバイトに明け暮れるブヨという若者の行動が「彼」の視点から描かれている。

 このユナという女性に対して「彼」が恋をしているのかは微妙なニュアンスで描かれているのだが、彼女が運転している時の脚の動きを気にしている様子などが艶やかに表現されており、何となく村上龍の小説を読んでいるような気持ちになった。
 「今から私のこと、買う?」と聞かれた時に、「ここでお金を払うと一生売春婦と客という関係が消えない」という言葉があったりするなど、「彼」はユナのことを風俗嬢ではなく一人の人間として見ているようであり、そんなユナも「彼」のことを特別に見ているような雰囲気で描かれていた。
 このあたりの描写は思春期の中高生から大人まで淡い気持ちになれるような気がした。

 レイラについても触れておく。
 レイラはホストといいいつつも単なる車好きの少年というイメージがある。「彼」が19歳であるのに対してレイラは23歳だそうだ。(なお、ユナについては年齢不詳であるが20歳~25歳の間と思われる。)レイラはホンダの中古車「ビート」を「彼」に譲り、整備についてもかなり気を使っているようだった。自分でも「ランエボ」を乗りこなしているが、サーキットに足を運ぶのでタイヤを2週間に1回交換する。

 23歳のレイラがどうやって高額なタイヤ交換をしているのかというと、ユナから貢がれたお金で支払っているのだろうと「彼」は考えている。
 ブヨがアルバイトで稼いだお金がユナにわたり、ユナはレイラへ貢ぎレイラは車に貢ぐ。レイラは嬉しそうに「彼」に車のことを教えてくれる。
そんな経済のサイクルが回っていくのを客観的にみると少し不思議に気分になる。

 短い話ではあるが、登場人物が4~5人しか登場しないながらも"間"が素晴らしく、かつ堅苦しくない文章なのでサクサクと読み進められる。
大御所たちも彼の才能を称賛しつつ、若い小説家をけん引するようなポップな雰囲気も醸し出しており、100ページ強で読破できるとても良質な文学だと感じた。

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