学振申請書を書こう!

・Cover letter

こんにちは。ロジーさんです。

今日のこの記事は令和の初日に書いています。5/1と言えば、(博士課程の学生には)言わずと知れた日本学術支援機構 特別研究員(通称:学振)申請の提出締切まで残りわずかですが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。

今日は、その学振について、僕の体験談(ほとんど失敗談)を交えて書いていこうと思います。

※生物・医学系の話なので他の分野とは少し勝手が違う場合があります

なお、僕の書く記事は科学論文を投稿する時と同じような構成(Cover letter→Abstract→Introduction→Results→Discussion)となっています。


・Abstract

学振研究員は安い給料額等で叩かれる事もありますが、博士課程学生に給料及び研究費を付与する、(国内では)類い稀な優れた制度です。

学振DC・PDのスケジュールは、学振のHPにも書いてありますが、申請書類提出(4月~5月末) → 書面審査(8月くらい?) → 一次結果発表(9-10月, 面接免除採択/面接候補/不採択のどれか) → 面接(12月) → 二次結果発表(面接採択/補欠)です。採択されると、申請した次の年度からお金が貰えます。理工系博士課程の3年制大学院だとM2の4-5月にDC1、D1かD2の4-5月にDC2に申請できます。医薬系博士課程よ4年制大学院だとD1の4-5月にDC1、D2かD3の4-5月にDC2に申請できます。つまり、D進する大学院生なら3回チャンスがあるのです。

はっきり言って、社会人ドクターでもない限り出さないメリットは殆どありません。出さないデメリットは沢山ありますが。

この記事では、僕の体験談も交え、これから出す人へ、学生目線での解説・応援をしたいと思います。


・Introduction

学振にはPDとDC、海外学振の大きく分けて3つが存在しますが、ここでは学振DCに絞って解説しようと思います(僕が今後もしPDや海外学振に採択されれば、それ関連の記事も作るかもしれません)。

学振DCは国内の大学院博士課程在籍者に、月額20万円の給与と100万円/年度 以内の研究費(特別枠申請が通れば150万円/年度 以内)をDC1なら3年間、DC2なら2年間配る制度です。学生にしていきなり「国選研究員」の様な扱いとなるので、生活上はもちろんのこと(奨学金や仕送りに頼る生活が一変します)、研究歴にもなり申請しないデメリットがほとんどありません。社会人用のクレカもバイト無しで通ります。ちなみに学振とは雇用関係に無い(税制上はグレー)なので、新卒カードもキープされます。

しかし、採択率は毎年20%前後と非常に狭き門です。また、博士課程の学生であっても諸々の事情で(指導教官の許可が下りない、業績面の不安からそもそも出さない、申請書の必要文量を見て辞める)申請しない人もいるので実際の博士課程学生のうち学振研究員の割合は東大で~7%、京大で~3%、その他の大学では~2%程度のようです。もはや希少種ですね。

(一応)副業制限があり、すくなくとも営利法人から給与を貰っている学生(いわゆる社会人ドクター)は応募できないことになっています。

とにもかくにも、私も学振DCにはとても苦労した口なので、今回の記事ではその辺も踏まえた、学生目線の応援記事を書きたいと思います。

まず、私のプロフィールを。

学部(旧帝大)→修士・博士課程(都内上位大)

DC1(出さず)

DC2 1回目(不採択、評価C)

業績: 論文0、国際学会2、国内学会多数

DC2 2回目(面接採用)

業績: 国際論文共著1、和文総説共著1、他は1回目とほぼ同じ(国内学会+1)

こういう系の記事を書く(先駆者の?)人の中で、DC2 2回目での採用(要するに2ストライクと追い込まれてからのヒット)経験者は少ないのでは無いのでしょうか。

僕からの結論は、要するに

虎穴に入らずんば虎子を得ず

学振受かりたかったら英語の論文書け

指導教官はお前の未来なんて何も考えていない(最終的には全て自己責任)

この3つにつきます。


・Results

まず、僕が面接で受かった回(DC2 2回目)についてですが、僕の場合は1st authorの論文が出ていない状況での申請書作成なので、かなり苦しい状況でした。というのも、僕の研究室の過去の先輩陣(n=10以上)を見ても、業績欄に1st author論文(もちろん国際誌、査読有)がある状態でのDC申請は勝率8割(書面採択か面接候補になる率は100%)を超える、ヌルゲーモードだからです。ちなみに業績欄にはin press以降(acceptするよ!のメールが来てから)なら書けます。in submission、in revisionはダメです。

学振の合否に関してですが、PD・DC共に評価順に上から書面採択(面接免除)、面接採択、面接不採択(補欠)、書面不採択の4種類の結果となり、最終的な採択・不採択が決まります。

まず、書面採択、面接候補、書面不採択の一次選考結果が10月12-15日くらいに出ます。

同じ研究室に学振申請をした先輩・同期がいる場合は、この時期はあまり話しかけないほうが良いかと思います(あからさまに嬉しがっている場合は別)。

書面採択は上位16%くらいの優秀な申請者です(だいたい1st author論文があることが多い)。面接にはボーダー付近(上位17-23%くらい)の候補者が呼ばれ、倍率2倍くらいの最終決戦となります。

面接の詳細に関しては面接候補にのみ知らされます。12月上旬に、都内の麹町にある学振本部(総武線の市ヶ谷駅と四ツ谷駅の間くらいにあります)で行われます。審査員6人の前で自己紹介含めたった4分間のプレゼン(カンペ使用不可、発表者ツールは使用可)なので、なるべく完璧に練習して行きましょう。結果発表は年末か年明けです。DCの辞退者はほぼいないので、面接候補→補欠は面接落ち(2月末に最終通知)みたいな扱いです。

申請書の細かい書き方については他の解説ページに譲るとしますが、書式に関しては学振のホームページ(https://www.jsps.go.jp/j-pd/pd_sin.html)に行けば嫌でも確認できます。申請書情報を入力するところ(履歴書みたいなもん)や評価書(先輩のコピペで大体大丈夫です)はいいとして、申請書の本体となる申請書内容ファイルに関しては大学院入学前でも、申請書を作る時期でなくても、絶対に事前に確認しておくべきです。

僕の場合、他の制度で収入が確保できていたのでDC1は出さなかった(というか、申請書自体作らなかった)のですが、これがDC2 1回目に尾を引く事になってしまいました。

DC2 1回目はその年度の4月に入ってから作り始めたのですが、日々の実験やミーティング、他の奨学金の申請、研究室の先輩陣の過去の申請書を読み耽ったり、慣れない書式に一から文章を書くのに苦戦し、結局仮完成は4月末。

学内の最終締切はどこの大学も、学振本部の締切(6月上旬)から大きく早まった5月中旬(しかも仮提出がその1週間前)であることがほとんどであると思うので、その時点であと2週間しか猶予がありませんでした。

そこから指導教官に見せたのですが、、

当時の指導教官(ポスドク)はまともに学生が書いた物を読まない(からかってくる)、かつ学振実績*の無い方だったのでまともな校正も受けられませんでした。一方、多忙な教授は残された2週間の中で結局捕まらず、見てもらう機会を得られないまま本提出の日を迎えてしまいました。結果は、評価C**の不採択。評価項目には(1)資質 (2)研究計画 (3)遂行能力(つまり業績)と(4)総合点(いわゆるTスコア) の4項目(1.0-5.0)がありますが、特に遂行能力は2.5という酷い点数でした。


かなり凹みましたが、この経験がDC2 2回目に活きる事となります。


DC2 2回目は、3月からの準備。

しかも申請書は前年度に作った雛形があるので、(研究テーマは一新したものの)作成は非常にスムーズに進み、3月内に仮完成。

テーマも結局ラボ内の他の先生(学振指導実績あり)に指導を仰ぎ、その先生のテーマに大きく擦り寄った形に。4月にその先生に見せたところ、真っ赤になって帰っていた申請書。言わんとしている事は大体同じでしたが、言い回しや言葉遣いも含めてとても感動しました。

なお、基本的にどこの研究室でも、(正式な)指導教官が付いている学生には、ボス以外の他のポスドクや教員から自発的に指導・面倒を見る事はほとんどないです。なぜなら、その指導教官のメンツ(アホらしいですが)を潰す事になってしまいますから。

従って、正式な指導教官が役に立たない場合は、学生自身が自発的に他のポスドク・教員に指導を仰ぐ・相談しない限り、基本的に彼らは何も助力してくれません。


その先生とやりとりをしつつ、教授にも目を通して頂き、仮提出期限を待たず無事提出。1st authorの論文が無かったものの、【現在までの研究状況】の欄で現在投稿中(実際に4月中に投稿していた)の論文があることをアピール。これが面接の際に活きる事となりました。

その後、しばらく申請のことは忘れ最初の論文のリバイス実験や新しい論文の準備をしつつ迎えた10月中旬。

面接候補

との一次結果開示。

僕としても、1st author論文が無いので何とか面接に引っ掛かればな、という期待が何とか首の皮一枚で繋がった形。

それからというもの、論文を何とかacceptまで持っていき(11月末)、今回助けてくれた先生とひたすら面接資料作成及びプレゼン練習の日々。

約1ヶ月半後に迎えた面接では、acceptされた1st author論文(in pressと書けます)をアピールしつつ、研究計画に関して4分キッカリで話し尽くしました。

AcceptされたJournalはそこそこのIFだったので、質疑応答では業績を褒められ、そのまま和やかに終了。年明けの結果開示では面接採用、さらに研究費の特別枠申請も通り100万円/年以上頂けるなど、上々の評価を頂けました。


・Discussion

僕の体験談は上述の通りですが、後輩にまず言いたいことは、

初回の申請書作成はなるべく早めに開始しろ

これに尽きます。年度が変わると新入生の相手なり奨学金申請なり授業なりで雑務に追われるので、特に実験系の人はラボで申請書に向き合って書く時間がほとんどなくなってしまうと思います。

あまりオススメしませんが、3月~4月で自分の実験をわざわざ止めて学振申請書の準備だけやっていた猛者もいました(しかし彼は落ちていました・・・)。

兎にも角にも、2~3月という年度末の比較的穏やかな時期を決して無駄にしない事です。まあ、これを書いているのが5月なので、今年度申請の人に対しては何の助言にもなりませんが・・・。

初回申請時は、慣れていない書式、申請テーマをどうするか、評価書(大抵は学生が下書きを書いてボスに直してもらう)等、必要ステップが多いので、時間が嵩みます。

3月中に仮完成まで行けば、指導教官やボスだけではなく4月中にラボ内の色んな先生、先輩、はたまた全く分野の違う友達などに見せてコメントを貰えるチャンスが得られます。自分だけでの推敲には限界があるので、どんどん人に見せましょう!

また、落ちてもめげない事!これも大事です。学振DCは3回申請チャンスがあります。落ちた人は、三振した人***以外は次のチャンスがあります。一度申請に至るくらいの書類ができている人は、次の申請はあらかたコピペ(もちろん新しく書くところもありますが)でいけるので、初回申請の人よりはかなり優位に立っています!

あとは、兎にも角にも論文(国際誌、査読有)を通す事です。

そもそも博士課程の学生は研究者としての立身のために大学院において、研究の進め方・最終的なまとめかた(つまり論文の書き方)の習得を、博士論文の作成過程で目指すもの、と少なくとも私は思っていました。なので、DCに申請する学生(つまり博士課程の駆け出しもしくは途上)の業績に1st authorの論文を求めるのは何とも・・・。

上にも書きましたが、国際誌1st authorが1個あるだけで、(少なくともDCでは)審査員の反応が大きく変わります。そもそも、審査員は一応分野細目で分けられていますが、実際には申請者との専門分野(生物科学・医歯薬学、と言えど広がり過ぎている)は殆どマッチしていないのではないでしょうか。従って、研究内容の細かい所や意義はそこまで理解していないというか汲んでくれないです。その結果、基本フリーパスの学会発表(国際発表も含む)や総説(review)の執筆はあまり重視されず、原著論文をeditorやreviewerとの戦いに勝ち抜き1st authorで通した、という客観的にとても分かりやすい業績を望まれるのではないでしょうか。

よって、これらの学振の採用方針を踏まえると、学振の言う「本邦の優秀な博士課程学生」とは、「博士課程入学前・入学したての段階で、1st authorで国際誌に論文が出せる学生」ということになりますね!


ちょっと本末転倒な気がしますが、これがこの制度の方針なのでしょうがないですね。DC1なら論文1st無しで通った方を何人か知っていますが、DC2の場合はより業績重視になるようです。無論、DC1で1st論文がある場合はよりフリーパス感が出ます。

(ただ、主著論文の業績のある人も、決して奢らないこと!私のラボではいませんでしたが、周りのラボや大学をみると、論文ホルダーでも計画の書き方がまずいと落ちる事があるようです。)

ゆえに、博士課程の修了条件に関わらず、学生が論文を自分で書いていく能力が極めて重要ということです!最終年度でない限り指導教官やボスは基本的にあまり積極的に動いてはくれませんから、

自発的に論文を書いて投稿する

ことを第一に考えましょう(これは別に学振の申請に関わらず、研究者として最重要な事です)。

よって次回は、博士課程の学生、もしくはそれより下の学生向けの、初めての論文作成について書きたいと思います。


それでは。




*その指導教官自身がそもそも学振研究員になったことがあるか、また指導していた学生が学振を取れた実績があるかどうかはノウハウ面から極めて重要。自分の指導教官にその実績が無い場合は、ラボの垣根を越えても良いので実績を持つ教員・ポスドク・先輩学生を探すこと!ちなみに、学振に採択されるとKAKENデータベースにも出るので、ここでその人の名前を調べれば、採択されていたかどうかは簡単に分かります→ https://kaken.nii.ac.jp

**書面不採択者のみ選考結果の詳細(実際の評価点とTスコア)が見れる。また、不採択者全体のうちどれくらいの順位にいたかも教えてくれるのだ!なんて親切なんだ。一次審査の表示例(公式)はこちら→https://www-shinsei.jsps.go.jp/topyousei/yousei_taiken/tokken/shinseisha/kekka_fusaiyou.html


***学振DCを三回落ちることを三振と言います(色々な意味でアウトという事だと思います)。ちなみに学振PDは学位取得後5年以内なら申請できるので、一応五振までいけます。

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