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Human Frontier Science Program (HFSP) 留学プログラム採択者の採択時の業績を探る

どうも、ロジーさんです。実はと言いますか、ワタシ全てが左利きでして、駅の改札口では左手でピッっとやろうとして毎回変な体勢になるのが日課となってしまった悲しきモンスターなのです。

はい、どうでも良い話はさて置き、今回はHuman Frontier Science Program (HFSP)のLong-Term Fellowship (LTF)の歴代採択者の(採択時における)業績を探る、というテーマで記事を書きます。

業績と実際の申請に関しての私の考え方は前回の学振SPDの記事を見ていただければ分かると思いますが、「実際の申請書の中身は見れないが、採択者がフェローシップ申請時にどれくらいの業績を積んで挑んだかであれば公開情報のみで推察できる」という考えに基本的には立脚しています。

もちろん、フェローシップの獲得に必要な研究計画立案書 (申請書)には、科研費などのいわゆるグラントと呼ばれる研究補助金の申請の際と同様に、実際に行う(予定の)研究の具体的なテーマや戦略、綿密な年次計画等を記載するわけですから、そういった部分で各々の採択者がどのような書き方で挑んだかは本人達に実際にコンタクトして見ないことには分かりません。が、当然のことながら審査員もプロの研究者ですから、「コイツに(多くは税金を原資とする)お金を配って研究させて大丈夫か?」「この研究計画ってホントにできるのか?」を判断する上で、これまでの業績、とくに論文業績が大きな判断材料となってくる訳です。ここまではよろしいでしょうか。



さて、本題に入る前に、今回もHFSPの簡単な説明が必要になると思うのでサラッと行きます。

具体的なことは、こちらのAMEDによる紹介ページがかなり参考になるのではないでしょうか。

実は、HFSP (中曽根首相の時に主に日本政府の出資で作った生命科学研究を支援する財団だそうです)が支援する留学フェローシップは上記ページにもある通り2種類あるのですが、今回は(作者がバイオ系で、バイオ系の業績しかよく分からない)諸般の事情によりLong-Term Fellowship (LTF)のみを調査対象としました。LTFは生命科学系の学位を3年以内に取得した若手研究者が応募でき、学位を取った国以外で研究を行う際、3年間で総額18万ドル以上のliving allowance (生活費)や7.2千ドル/年 程度の研究費 (これはやや少なめですね)を支給する制度です。また、産休育休や子供手当、渡航費、旅費、引越し手当等の支給などの取り組みも非常に充実しており、中断して他のフェローシップに数年切り換える、といったことも可能です。そんな諸手当なんて全く無いのに他からの報酬受給も認めず、休暇等で帰国すると何故か日数分の支援金返還を求めてくる上に、下手したら全額返還を求めてくる、どこかの国の謎ルールでガチガチの留学制度とは異なり、極めて柔軟に若手研究者を支援できる制度として設計されていることが広く評価されています。ちなみに、上に出した悪例もHFSPもほぼ日本政府の出資で作られた制度(HFSPに関しては70%以上が日本政府の出資のようです)ですが、何故こんなにも採択者の福利厚生が違うのでしょうか?やはり、日本は外圧が無いと変われない国なのでしょうか?HFSP-LTFに関しては、EU(ドイツ)の主催するPostdoctoral Fellowships, Marie Skłodowska-Curie Actions (通称Marie Curie)と同様に、最優良フェローシップの一つとして研究業界では有名で、従って留学フェローシップの中でも最難関の部類として知られています。

なお、HFSPの主催するもう一つのフェローシップ、学際的フェローシップ Cross-Disciplinary Fellowships (CDF)はLTFと支給金等の条件は全く同じですが、「生命科学以外の分野(例えば、物理科学、化学、数学、工学、コンピューターサイエンス)で博士号を取得し、生命科学の分野の研究を行いたいと考えている研究者を支援するもの」とされているため、(業績の見方がよく分からない)作者の都合で今回は割愛させて頂きます。

HFSP-LTFの採用スケジュールですが、上のページにもある通り、まず採用前年度の5月末にLetter of Intentの申請があります。この仕組み自体はずっと続いていたようで、具体的には研究概要1ページ分と論文業績一覧などを提出するようなのですが、2021年度申請分からはここで7-8割がた不採択を出すinitial screeningを始めたようです。具体的な数字を出しますと、2021年は総申請数493人のうちfull applicationまで進めたのが21% (104人)、2022年は総申請者数429人のうちfull applicationまで進めたのが26% (112人)でした。財団内部の事情はよくわかりませんが、それまでは多くの申請者が9月末の本審査までチャンスがあったようなので、この方針転換によってやや業績の比重が上がったような気もします。そして9月末に本審査(full application)の書類申請が締め切られ、翌年3月末に採用者が発表され、採用者は4月以降の任意のタイミングで渡航・支援開始となります。

なお、HFSP-LTFの歴代採択者を調べあげていく上で、ある疑念が一点生じたのですが、どうも国籍による枠がある?というところです。以下では日本国籍(及び日本永住権取得者も含まれているでしょう)の方のみをリストアップしていますが、どの方も大変優れた業績をお持ちです。しかしながら、日本政府の財団への大部分の出資にも関わらず、日本人枠は採択者全体の10%未満で推移しています。そしてどうも、特に途上国出身の採択者に関しては業績レベルがやや低いようで、あまり詳しくは触れませんが、そんなこんなで国籍による枠があるというのは…若干の疑念として抱かざるをえません。以下では2016-2021採用分の日本からの採択者をリストアップしていますが、2-5人/年と若干の数の変動はあるようです。これに関しては、財団全体の予算の影響なのか、はたまた他の国からの申請者との折り合いなのか、中の人以外にそれを知る由はないでしょう。また、全体としての採択率は15%程度に調整されているようですが、このように国籍による枠が設定されている状態では日本からの申請採択率が異様に低くなっている現状が推察されるのではないでしょうか?もちろん、そういった情報は公開されていないのでそれを知る術は中の人以外には有りません。先ほど日本政府からの出資率が一番高い、という事実にも関連しますが、日本政府のHFSPへの援助の方針としてはこれで良いんですか??

この記事では上記の疑念に基づき、あくまでNationality: Japanの過去の採択者のみに関して焦点を当てています。やや逆説的にはなりますが、他国からの申請だと必要水準が違うなら、これから申請を考える日本の方にはあんまり参考にならないですよね?

なお、業績は採用前年度の9月末までのものが実際の申請書に使われたものとして、それまでの(英文の)業績をリストアップしました。というのも、申請書の類いは全て英語なので和文誌の業績は載せるところが無いからです。また、学会発表や特許、受賞といった論文以外の業績に関しても特に載せる箇所はありません。

ちなみに、各年度の採択者 (awardee)の氏名及び申請書の研究テーマ(ここでは割愛しています)はHFSPのホームページで全て検索できるので、普通の公開情報としてこのページでも取り扱っています。

※2022/3/16:2022年度採択者が発表されたので追記しました

Kenta Hagihara (2022 HFSP-LTF)
Front Neural Circuits, Nat Neurosci, Nature, Cerebral Cortex, 共著2

Sumire Sato (2022 HFSP-LTF)
Frontiers Human Neurosci, J Neurophysiol, Multiple Sclerosis and Related Disorders, The Neuroscientist, Neurology, 共著9

Miyuki Suzuki (2022 HFSP-LTF)
Genes Cells2, Dev Biol, 共著6

Masaaki Uematsu (2022 HFSP-LTF)
Autophagy, FASEB J, Commun Biol, 共著無し

Tetsuo Hasegawa (2021 HFSP-LTF)
Front Immol, LUPUS, Joint Bone Spine, American J Gastro, Annals Haemato, 共著3

Yuki Sugiyama (2021 HFSP-LTF)
Nat Commn, Curr Biol, 共著1

Makoto Saito (2021 HFSP-LTF)
Nat Cell Biol, (共著無し)

Tatsuya Nobori (2020 HFSP-LTF)
PNAS, FEBS Lett, 植物・放射線系5, 共著7

Kotaro Tsuboyama (2020 HFSP-LTF)
Science, Mol Cel, Plos Biol, 共著2

Marie Anzo (2019 HFSP-LTF)
Gene Dev, 共著1

Takeya Masubuchi (2019 HFSP-LTF)
Prog Mol Biol Transl Sci, Nat Nanotech, 共著1

Sugiyama Ryosuke (2019 HFSP-LTF)
Nat Methods, Org Lett, JACS, Tetrahedron Lett, 共著1

Kazuki Nagashima (2018 HFSP-LTF)
Nat Immunol, BBRC, J Immunol, 共著1

Takatani Shogo (2018 HFSP-LTF)
Sci Rep2, J Plant Res, 共著1

Hikaru Sato (2018 HFSP-LTF)
PNAS, Trends Plant Sci (review), Plant Biotech J, Plant Cell2, 共著1

Fumio Nakaki (2017 HFSP-LTF)
Trends Biochem Sci (review), Nature, 共著4

Hayao Ohno (2017 HFSP-LTF)
Science, 共著4

Daisuke Miyamoto (2017 HFSP-LTF)
Science, Neurosci Res, Int J Neuropsychopharmacol, 共著2

Kota Nagasaka (2017 HFSP-LTF)
eLS, Nat Cell Biol, Gene Dev, (共著無し)

Tomomi Karigo (2016 HFSP-LTF)
Endocrinology2, Frontiers in Endocrinol, 共著2

Yuuki Obata (2016 HFSP-LTF)
Nat Immunol, 共著6

Satohiro Okuda (2016 HFSP-LTF)
Nature, Cell Struct Func, Mol Plant, 共著2

Satoshi Toda (2016 HFSP-LTF)
Mol Cell Biol, Blood, Curr Top Dev Biol (review), 共著1

Naotaka Tsutsumi (2016 HFSP-LTF)
Nat Commun, Mol Immunol, 共著2

はい、いかがでしたでしょうか。前回のSPDと同様に、極めてレベルが高いですね!!まさに業界の至宝と呼ばれる方々であることは間違いありません。一部の例外を除けば、CNS本誌および姉妹誌、生命科学系の老舗雑誌PNAS (Proceedings of National Academy of Science, USA)もしくはGene Dev (Genes & Development)の有無がボーダーラインとなっていることが大体分かりましたでしょうか。一発大きい成果で獲得している人もいれば数を重ねている人もいて、各人の戦略の違いも実に興味深いのではないでしょうか!

最後に私から一つだけ言えることは、日本という国がこのまま血迷った財政政策などで彼らの情熱やポストを潰してしまうことなく、どうかまともな (well-paid)、そして終身雇用のポジションをいつの日か彼らにあけ渡して欲しい、ただその一心であります(完)



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