新型コロナによって一気に《パニックゾーン》へとブッこまれた私たち
育成支援事業部のサフランこと、キャリアコンサルタント鈴木さくらです。
連日新型コロナ関係のニュースが飛び交い、大変な岐路に立たされている我われ地球人。
間違いなく歴史の1ページに残るくらいの生死を脅かす事態であるとともに、こんなに大きな地球規模での経済的打撃を誰が予想できたでしょうか。
人材採用・育成支援を提供する弊社とてもちろん例外ではなく、全メンバーが日々知恵を絞りながらサバイバルの最前線に立ちつつ、自らのお役目を果たすべく粛々と(この言葉をいったい何度聞いたし言ったことでしょう)やるべきことに取組んでいます。この記事を読んでくださるあなたもきっと同じですよね。
この未曽有の事態に誰もが右往左往しています。誰も経験したことがなくて最適解や正解をもっていないから、というのはもちろんそうなのですが、人材育成的な視点から今時分の事態を捉えてみました。
最初に言っておきますと、この記事を読んだからといって今の局面を乗り越える何かのヒントがあるのかと言われれば、たぶんないだろうと思います。
でも、今私たちがいるこの状況を少し俯瞰して見るとこんな風に見えて、こんなことが考えられるよと伝えることで少し冷静になれたり、自分だけじゃないんだと思えたり、安心感につながればいいなと思って書いています。
成長するための3つのステージ
私たちが成長するための学びのステージの概念として、《コンフォートゾーン》《ストレッチゾーン》《パニックゾーン》という3つのゾーンがあります。
これは元GEリーダーシップセンターのディレクターであり、ミシガン大学ビジネススクールの教授でもあるノエル・ティシーによって提唱された、人材育成・能力開発についてのコンセプト。
円の中心の《コンフォートゾーン》⇒《ストレッチゾーン》⇒《パニックゾーン》という具合に、外へいけばいくほどチャレンジングな環境や困難な仕事を与えられる状況になっていくんですよね。
1つ目《コンフォートゾーン》は快適空間。慣れ親しんだ安全地帯であり、快適で居心地のいい居場所。
この空間で何かするとしても大きな変化や失敗がなく、物事はたいてい予測通りに進んでいきます。この空間では未知のものに出会うこともありませんし、挑戦もない。
一方、この空間においては残念ながら「学び」は起こりません。「学び」がないということは成長は見込めないということ。「いつもの風景、いつもの人たち」がもたらす心理的安全とともに日常のオペレーションやルーティンがそこを支配し、かつ毎日がなんとなく流れていきます。
2つ目《ストレッチゾーン》は背伸び空間。コンフォートゾーンの外側に位置し、未知のものに遭遇し、それへの適応や対処が求められる空間です。
新しい仕事、チャレンジングな仕事、高い目標設定で仕事に取り組む環境、すなわち今までの自分のスタイルや武器が通用しない空間を指します。ストレッチという言葉のとおり、「これまで通り」が通用しない挑戦を求められる空間で、同時に失敗するリスクも孕んでいます。
ですが、挑戦や失敗を裏返して言えば、そこには貴重な「学び」が確実にあるということ。そのため、この空間は別名《グロースゾーン(成長空間)》《ラーニングゾーン(学習空間)》とも呼ばれています。学びがあるということは、成長できるということなんですよね。
3つ目《パニックゾーン》は混乱空間。一番外側に位置する空間で、未知のものに出会う頻度、対処の難しさ・複雑さがハンパなく格段に上がり、私たちはいわばカオスに投げ込まれたかのようになります。
ここでは今までのスタイルや武器が通用しないどころか、もはや何が起こっているのか理解できません。あまりにも大きな変化についていけず、自分ではどうすることもできないという精神的な負荷がとても大きい空間であることに圧倒されてしまいます。
終わりがなく、先の見えない高い不確実性が目の前に広がり、そこにあるのは高い可能性で起こるであろう「失敗するリスク」のみ。同時に「恐怖」が支配し、とても冷静になることはできず、学ぶという余裕はありません。あるのは、ただ「パニック」。そのため、別名《テラーゾーン》《フィアーゾーン》(恐怖ゾーン)とも呼ばれています。学ぶ余裕がないということは、すなわち成長が見込めないことを意味します。
《パニックゾーン》を捉えなおす
さて、お気づきのように、私たちが今いる空間は間違いなく《パニックゾーン》。
何一つ最適解や正解、成功例を持たず、いわば丸腰のまま《パニックゾーン》に一気に放り込まれました。もともと《コンフォートゾーン》にいた人にとってはあまりにも激しすぎる変化を知覚して恐怖におののきカオスに陥り、《ストレッチゾーン》にいた人にとってもパニックを招いています。
ですが、共通して言えるのは、あなたも私も私たち地球人みんなが《パニックゾーン》にいるということ。例外はいないということ。
そして、ひとつだけ少しでも冷静さを取り戻せる(かどうかわかりませんが)ことをもし言えるとするならば、私は中原淳先生のこの言葉を伝えたい。
非常に興味深いのは、1の「Comfort Zone」とは、快適で、一見、「ノーリスク(No Risk)」「ゼロリスク(Zero Risk)」の空間に見えるかもしれませんが、それは長期的にみれば、「非常にリスクの高い空間」である、ということです。
なぜなら、そこには「快適さ」が支配しており、学習者に「学び」や「進歩」はありません。ですので、いずれ環境が変化し、適応や革新をもとめられた際には、学習者は、もっとも「脆弱な立場」に置かれやすい、ということを意味します。
リスク論をひくまでもなく、この世界に「ノーリスク」「ゼロリスク」の「地平」は存在しません。
短期的には一見「リスクがない」と思われるものほど、長期的には「リスキーであること」が、この世の中には多いものです。「ゼロリスク」とは、見方をかえれば「ハイリスク」のことなのです(Jun Nakahara,2013) 。
中原先生のこの言葉をどう捉えますか?
《コンフォートゾーン》は《パニックゾーン》と同じようにリスクがあるということなんです。
たしかに私たちは丸腰のまま《パニックゾーン》に放り込まれました。でも一方で、私たちは「慣れる」「順応性のある」動物であることもたしかです。ほら、ロシアのドストエフスキーも「人間とは、どんなことにも、すぐ慣れる動物である。私には、これこそ、人間の最上の定義であると思える」と言っています。
今はパニックに陥っていても、ここに順応し、試行錯誤しつつも武器を手に入れ学ぶ余裕ができたのであれば、進歩や成長することができます。すなわち、生き残ることができるんです。
人類の歴史が「学び」や「進歩」「成長」とともにあるとするならば、今のこの事態をまた別の視点で捉えられるかもしれませんね。
《お知らせ》
5月より人事担当者のための勉強会兼コミュニティである「ログカレ!」がリニューアルします。
新しいコンセプトは、多忙を極める人事担当者に向けた、【“読んで、調べて、たまに集まる”コミュニティ兼シンクタンク】。このnoteを存分に活用していきます。
『人物解体新書』と題して、話を引き出すプロのキャリアコンサルタントが人事領域での活躍者にインタビュー。心理学やキャリア理論等を用いながら当人以外でも再現できるよう解明してお届けしていきますね。どうぞお楽しみに!