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38歳、芸大受験してみた。⑧

さて、ピアノレッスンの日にやると決めた勉強である。まずは枠組みを作れば埋める楽しみを原動力に進められると思い、仕切り付きのファイルを購入して、楽典、和声、倫理、古文、漢文、聴音の6項目に分けた。小論文こそ大事と聞いてはいたものの、対策ゼロでも書けることがゼロではないはずと信じ、このファイルがルーズリーフでパンパンになってから考えようという作戦だ。英語や現代文も、同様の理由によりとりあえず無視することにした。

ルーズリーフに何を書いたかというと、楽典→最初に買ってあった本の要点、倫理→高校で分けてもらった教科書の要点、古文と漢文→高校で分けてもらった問題集を解いてみてポイントだと思ったこと、聴音→適当に買った独学用問題集の回答。古文と漢文は、最初は文法を一から覚え直そうと思ったのだが、ちょっと気が遠くなったので戦法を切り替えた。品詞分解などお手の物だった現役受験生時代の脳みそには戻れないが、今はサ行変格活用なんて覚えられない代わりに、古代の人の心の機微がなんとなく分かる。こうなったら雰囲気勝負だ。

と、さり気なく和声を飛ばしてみたのだが。M先生に諸々聞きに行った折、初心者向けの教材を分けてもらっていて、それを見ながらまとめたり例題を解いたりしてルーズリーフを増やそうと試みはしたのだが、ちょっとこればっかりは独学では無理という手応えがあった。楽典や聴音の分からないことは聞けば教えてくれたピアノのW先生も、和声までは教えられないという。そこで再びM先生に連絡を取り、和声の先生を紹介してもらうことにした。そして紹介されたT先生に連絡を取ってみたところ…

1時間半のレッスン1回、1万5000円也。

専門性の高い個人レッスンなのでそれくらいするのは当然であり、異議を唱えるつもりはないのだが、例えば毎週通うとかいうことが現実的とは言えない料金だ。多くの受験生が毎週もしくは隔週で受けていると聞き、やっぱり音大って住む世界が違う人たちが行くとこなんだ…と思いかけたが、20の年の差がある時点で世界は違うわと気を取り直し。1回目でまず和声のなんたるかを教わった後は、できる限り自分で進めて聞きたいことをためておき、2回目をもって終了させる作戦を立てて1回目に臨んだ。

和声のなんたるかは、とても1回で習得できるようなことではなかったが、受験に必要なことはなんとなく分かった。前にも書いたが要するに作曲で、といっても必ずしも創造的なことではなく、クラシックの作曲家たちがこんなにがんじがらめのなかでああした名曲を生み出していたとは…!と衝撃を覚えるほどにたくさんあるルールの数々を覚え、それにのっとって、指定されたバスにテノール、アルト、ソプラノを乗せていくのが和声の試験だ(画像は芸大入試サイトからDLできる募集要項に掲載の例題)。

こ、これはパズルなのか…?

ならばアプリにしてくれと思うほどに、あっちのルールを守ればこっちが崩れる仕組みで、そんなときはほとんどのルールにある“例外”を組み合わせて乗り切る。なぜこれは例外なのか、なぜこちらのルール優先なのか、という私の質問に対するT先生の回答は、大体「きれいだから」。必ずしも創造的ではないと書いたがやはり、ある程度以上の音感は必要なようである。ただ、あとあと困るのでオススメはしないが、受験問題程度なら理詰めでも乗り切れないことはない。私はひたすら理詰めで例題を解き、順調にルーズリーフを増やしていったのだった。

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