1~2年の授業を振り返る④一般教養科目編

・著作権概論【1年前期:良/1年後期:優】

これも1限ソルフェに出るモチベ確保のためだけに取り始めた2限の授業なんだけど、音楽著作権関連の案件を多く扱っていることで割と有名な弁護士先生が体験談を交えて講義してくれるのでそれなりに面白かった。主には作曲科とかの自分の著作物を持ってる学生向けの内容なんだけど、出席取らないせいでそんなに人数多くなかったから、ライター目線の質問をしてみたりも。いわく、インタビュー原稿はやっぱり私の著作物らしいよ?本人直しが入っても共同著作物になるだけで本人のものにはならないから、好き勝手に直されたりゲラチェックなしで掲載されるのは法的におかしいのだ。と、理論武装したところで戦う気力も勇気もないのだが。あと、時節柄JASRAC問題の根深さを知れたのも「政治とカネ」ならぬ「芸術とカネ」という感じで面白かった。そしてこの先生、この授業取ってた学生からの相談なら何年後でも基本的に無料で乗ってくれるらしいので、何かあったら頼ろうと思いました。

・ホール音響概論【集中講義:優】

音響はもう何年も前からものすごく興味のある分野だったから、本当は1年生から音響学を取りたかったんだけど必修と重なってて取れなくて、でも我慢できなかったから夏休みの3日間かけて行われるこの、卒業要件単位にはならない集中講義を取りました。芸大の奏楽堂を設計した会社の人が、世界の色んなコンサートホールの音響設計において大事にされたことなどを解説してくれたあと、奏楽堂のバックステージツアーにも連れて行ってくれるという大変面白い内容。私が興味あるのはミュージカルの、つまりマイクとスピーカーを使う環境での音響だからズバリではなかったんだけど、良い音のホールには「ザラザラ、デコボコ、ランダム」な壁が必須と知り、それ以来劇場に行くたび確認するようになりました。東京文化会館とかまさにって感じで、それに比べるとミュージカル劇場は全然で、マイクとスピーカー使うにしてもその反響を滑らかできれいにするためにはやっぱり必要なんだろうから、ミュージカル劇場はやはり設計の時点から音響が重視されてはいないのだろう。あと、バックステージツアーでは天井の位置とか形を変えることで響きがどう変わるかの実験みたいなのもしてくれて、まわりの芸大生たちはちょっと変わるだけで全然違う!みたいなこと言ってたんだけど、私にはちょっとの違いはそんな分かんなかったから、自分が求めてることはそう高度なことではないとも思った。この時点では、いい響きのミュージカル劇場は不可能ではないはず!というのが私の感触。

・音響学【2年前期:優/2年後期:優】

という集中講座を経て、いよいよ音響学!本来は演奏家に知って欲しい音の科学ってことで設定されてる授業なんだけど、ほとんどの芸大生はそんなことに興味はないらしく、レギュラーメンバーはなんと大学院生2人と私だけだったから、ミュージカル音響について質問しまくり、さらには先生(東京電機大学のリケジョ)に実際にミュージカルを観に行ってもらって、「日本の劇場で聴くと生オケでも全く臨場感がない」という私の印象が思い込みなのか事実なのかの検証にまで付き合ってもらいました。結果、「モノラルの音が天から降って来てるみたいだった」とのご回答を得ましたので、つまりは事実でしたよ!で、音の科学についての難しい(文系脳への説明がものすごく上手な先生の力をもってしても私には三分の二くらいしか理解できなかった)話を聞きながら、教わったことを意識の上で国内外で観劇しながら、どうしたら改善されるのかを一生懸命考えた1年間だったのだけど…なんか、無理なのかもしれない。

まずもって、「音響学」と一口に言ってもものすごく色々なジャンルがあるなかで、マイクとスピーカーを使った空間音響というのはあまり研究されていないジャンルらしく。マイクとスピーカーを使う録音音響と、生音の空間音響ならされてるっぽいんだけどね。研究されてなくても現場は頑張ってるって可能性はもちろんあるから、ミュージカル音響スタッフに取材する機会は引き続き探っていきたいけど、少なくとも今の時点での知識を元に想像するに、日本のミュージカルはマイクとかスピーカーの工夫云々の前に、そもそも劇場が音が迫力を持って響く構造ではないのではないかと。ゴテゴテに装飾されてて、舞台の真横にボックス席があって、天井が低くて全体にギュウギュウしてて、イメージ的に舞台と2階席が水平・1階席からは見上げ・3階席からは見下ろすような構造の欧米の劇場でしか、私が望む響きは得られないような気がしています。つまりは設計からやらないと無理だから、いつか宝くじが当たったら劇場を造ろう!みたいな非現実的な結論を出しかけているけど、それでもとても――下手したら2年間でいちばん――刺激的な授業でした。

・応用音楽学【2年前期:秀】

一度は千住校舎に行ってみたくて、それにあたってはこれが時間割的にちょうど良かったので、まずはお試し感覚で初回の授業に出てみたらなんと大学院生と私の2人しかいなくて、成り行きで皆勤することになった授業。でもすごく正解だったな。従来の音楽学の範疇に収まらない研究はすべからくこの名前のもとで扱われるようで、「これが応用音楽学です」という説明はできないんだけど、この授業だけについて言えば、内容は音楽と脳科学の関係について。子どもの脳ミソがどう形成されていくかについての英語の論文を輪読したんだけど、先生も学生(途中から増えて3人になり、全員が皆勤賞)も途中で思ったこととかどんどん言っていい雰囲気だったから全く進まなくて、でもクラスメイトが若いながら自分の意見しっかり持った独創的な子たちだったし、東大出身の先生も柔軟な変わり者という感じだったので、雑談とか体験談が毎週発展してこれまたすごく刺激的でした。論文自体も面白くて、それについて感じたことは前に書いた通り。後期も取りたかったんだけど、やはり千住は遠かった…。

・芸術文化環境論【1年前期:聴講】

木曜が1限と5限のみというよろしくない時間割になってしまったので、間に仕事とか入らない時はちょくちょくこの3限の、授業名からは内容が想像しづらいけど要はアートマネージメント系のことを研究者が講義する授業に出ていたのだが、あまりに現場と解離した内容に不信感が湧き、途中からはどんなに暇でも行かなくなってしまった。いやもちろん、こうやって学術的に研究することも必要なんだと思うんだけど、もうちょっとこう、現場を知ってる研究者が増えたり、逆にアートマネージメント学を修めたプロデューサーが現場で活躍したりしないと意味ないのでは…?と、どうしても思ってしまってね。まあ私が知ってる「現場」って舞台芸術の中でもミュージカルという特に商業的なジャンルだから、芸術音楽の現場とはまた事情が違うとは思うんだけど、というかだからこそなのか、何も知らない演奏家志望の学生にまず教えるのが助成金のもらい方ってどーなのよ、しかもそれで自立してるミュージカルを下に見てるってどーなのよって、まあ被害妄想かもしれないんだけど。著作権概論ともリンクする話だけど、芸術をカネに変える努力の尊さの境界線って難しいよね。

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