「金はいらねえから泣きっ面が見てえ』 復讐は何も生まないけど、丹波哲郎のイケメンぶりは永遠です 『ジャコ萬と鉄』
ジャコ萬と鉄(1964/日本 監督:深作欣二)
1949年に製作された谷口千吉監督・三船敏郎主演作のリメイク。監督は『仁義なき戦い』シリーズや『蒲田行進曲』などの代表作を持つ深作欣二。北海道の自然と人々の営みを彩る音楽は『用心棒』などで黒澤作品でもお馴染みの佐藤勝。
久兵衛の息子で帰還兵である陽気な男、主人公の鉄を高倉健、そして復讐に燃えるジャコ萬を丹波哲郎が勤めています。
このリメイクは主演の高倉による希望で実現したとのこと。高倉健は三船を崇拝していて、いつか超えたいと常々言っていたらしい。超える・超えないも全くキャラ違うやん、と思ってしまう後の高倉健を知る者ならではの無責任な感想を抱いてしますが、この映画をリメイクしたいとは良いチョイスです(何様)
三船はその人目を引く存在感と気取らない人間的な魅力を併せ持つ稀有なスターですが、台詞回しはやや難あり。リマスターされてない映画だと結構…聞き取れない時があるのですよ。この映画の高倉健はちょっとそんなところを意識してるのか、どうも無駄に発声がなっとらん。
どっちにしても陽気な帰還兵というのはあんまり合う役ではない気がするこの人は自分がどう見えてるか気にしながら演技するタイプの俳優で、役に入り込みすぎないで高倉健が強めに残ってしまう感じがあるんだよね。
しかし姿の良さも相まってそれがいい感じのフックになり、さらに山田洋次がうまく使うなどして不「器用な健さん」のキャラが確立され、大スターになったんだと思うの。ジブリが声優使わないみたいな良さと言いますか。
だがこの映画の頃はまだ無印の高倉健。合わない役をこなせるほど器用ではない上、キャラも三船の真似という感じは否めません。でも、こういうの積み重ねて自分らしさを作り上げていったんだろうな。
対して丹波哲郎のジャコ萬。それはもう…とんでもないイケメンなのよ。眼帯・長髪・無精髭に毛皮の外套。全然働かないでにニヤけてるだけ。でも許す。かっこいいから。
丹波哲郎は若い時から態度のデカさで有名だったそうで、いつでも振舞いが変わらない。だから基本何を演じても丹波哲郎。下手くそというわけではないものの上手く役がハマるかどうかは大事。主役2人ともこのタイプなの草。
しかしこの役が合うかについては、この衣装でかっこいいの丹波哲郎だけなので判断不可能。ていうかコレ『はいからさんが通る』の鬼島軍曹の元ネタなのでは…?(そして南野陽子版の少尉のおじいさまも丹波哲郎が演じている)
情けない系のイケメン右に出るものなしの江原真二郎は大阪弁のヤン衆を演じています。この男とジャコ萬が囲炉裏端で話すシーンでは、がっつりとジャコ萬がカメラを向くカットがあるのですが、思わず「こっち見んな!」と目を背けてしまいました。
そしてこのシーンがまた良いのです。この大阪弁のヤン衆、振られた相手を殺めてしまった前科者。復讐に燃えるジャコ萬にその虚しさを説くものの、睨まれて何も言えなくなる。その場を去ろうとしたジャコ萬が戻ってきて、黙って酒の瓶を残して再び去っていくシークエンスは、台詞なしでジャコ萬にも揺れ動く心があることが伺えるうまい演出です。
さて復讐心を抱いてると言っても何をするでもなく、酒飲んでブラブラするだけのジャコ萬。まあ好きなだけブラブラしてくれ眼福だから、とは思うもののそれでは話が進みません。
ニシンの群れが近づき、ヤン衆たちは賃金アップのスト、この機に乗じて復讐を果たそうとするジャコ萬、そうはさせるかと鉄。
荒れる海、広い砂浜、男たちの熱気…映画というか記録映像のようだと感じるのは古い映像だから、というだけでなく熱気が伝わるカメラワークにもあるのかなと感じます。
当時、監督の深作は34歳。後の東映実録路線に繋がる何かが垣間見える気がしますよね。
こちらはこちらで良き! でした。ゴールデンカムイファンにもおすすめです。未見の方はぜひ。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?