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楽しさと、明るさと、少しの毒を。Japanese breakfast『Jubilee』

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目を見開くようなポップなオレンジカラー。目元にも、オレンジのアイシャドウを。ジャケットには、柿。エネルギッシュ過ぎるサウンド。これは、Japanese Breakfastが混じりっけのない喜びや楽しみについて書いたレコード。

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作家、ディレクター、アーティストという様々な顔を持つ、Michelle Zaunerのソロ・プロジェクト、Japanese Breakfastの2021年リリース作品。Dead Oceansからのリリース。

自身の実体験を元に書かれた2016年リリースの『Psychopomp』(2016)とは、まるで全く違う世界線。あの時書いていたのは、癌で無くなってしまった母への思いだ。でも『Psychopomp』は、ただただ悲しいレコードなどではなかった。己の悲しみすら音楽へ昇華し、「In Heaven」では母への想いを歌った。このように、個々の悲しみや経験を音楽へと昇華するアーティストには本当に尊敬の念が沸く。

あれから4年。2017年には、「Soft Sounds From Another Planet」をリリースし、2021年4月には、母の死と自分の人生観についての『Crying in H Mart』という本を執筆。(ニューヨークタイムズ紙のハードカバー・ノンフィクションのベストセラーリストで2位を獲得することとなる)

そして、2021年6月に本作『Jubilee』をリリース。きっと『Psychopomp』を聴いていた人はびっくりするほどのサウンドの変化だと思う。(正直、自分もびっくりした)だが、それとは別の感情で、「ああ、よかったな」とも思っている。それは、母の死というこれ以上無い苦しみを味わい、もがきながらも音楽を作った一人のアーティストが、こんなにもポップな作品を作り上げたからだ。『Jubilee』の発表は、Japanese Breakfastの新たなフェーズに入ったとも言えよう。

また、VOXのインタビューではこう語っている。

ある意味では、『Crying in H Mart』の執筆で必要なものをすべて吐き出したことで、この新しい章を始めることができました。これまでに悲しみをテーマにした2枚のアルバムを書きましたが、その時の経験について、まだ言いたいことがたくさんあるように感じました。そしてようやく、喪失や悲しみ、そして母のことについて、言いたいことをすべてこの方法で言えた気がします。新しい場面に取り組む準備ができたのです。
引用元:Vox

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彼女が新しいフェーズに入ったのは、MVを見ることでも伝わってくる。「Be Sweet」は、WildnothingのJackとの共作だ。80’sを彷彿とさせるノスタルジックかつ、新しいファンク・チューンを鳴らす。

また、「Savage Good Boy」では、億万長者の男性が、若い女性を口説き、地下で一緒に暮らさないか?という欲にまみれた愚行をストレートに皮肉ったもの。ミュージックビデオでは、最後は噛まれて男性は死んでしまう。

これまでのJapanese Breakfastは、自分の過去の記憶との戦いだった。悲しみとの戦いだった。しかし、それはもう終わり。忘れるわけではなく、新たに戦うのだ。

これは、ただただポップなレコードではない。Japanese Breakfast が表現しているのは、カラフルなポップさと皮肉さ。目を覚ますようなポップネスには、毒という武器がある。このレコードのメッセージは、パーソナルな感情のその先の、今を生きる私たちに向けられている。チクリと皮肉るこの毒こそが、現代を生きる私たちに欠けているものであり、必要なものなのだ。

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