深夜の高円寺で遊ぶ

その日はスナックにお客さんが来なかったので、私はシンプルに欲求不満だった。なので12時に閉店したあと自転車でGO!高円寺へGO!スナックの女の子、かなでちゃん(20)も来ると言うので、欲求不満を解消すべく、一緒に行くことになった。
 かなでちゃんは、高円寺に来たことがないと言うので、自転車を停めて、高円寺駅をとりあえず散歩してみようということに。北口の高架下沿いを歩いていると、灯りがついている小さな店がちらほら。外から中を覗いてみると、なんとな〜くプライベートな空間がそこにあるので入りずらい。行く当てなく、北の方へ。看板も出てない派手だけど(アメコミっぽい)小さなbarがそこにあって、中に店主らしき人と、男が喋っている。うーん…。あっちいってみようか。曲がろうとすると、扉があいて、帽子とひげの店主が、「くる?」と聞く。…そうね入店。薄暗いその中はいろんなおもちゃやポスターで敷き詰められて、特別な空間になっている。

 店主は、長い髭をたくわえている、50代前半くらいに見える。髭は半分白で半分赤毛。バケットハットにセサミストリートの黄緑のtシャツを大きめに着ている。ムキムキ。サブカルプロレスラー。ザ高円寺のおじさん。多分、こちらに対してすごく支配的なセックスをするだろうと予想。
 こちらの客の方は、落ち着いた口調、小さな声のパーマ男。こっちは品とセンスのいいロック好きといった印象。笑顔が気弱。ああ、ほんといい人そうな顔。余計なこと言わない。優しい優しい囁く系のしかし完璧なセックスをするんだろうな。奉仕という意味でのクンニ顔。

 まあ雑談から始まって、30分、全然文句はない。文句はないんだけど、やっぱりここは高円寺。音楽、お笑い、演劇。たのしいことをしていこう!反資本主義!(直接は言わないけど)この2人は、パンクバンドをやっているらしい。アルバムを出すらしい。店主ボーカル。客はギター。店主は、漫才ワングランプリに参加したり、映画を今度撮ると言ったり、まさにその手の人。とにかくクリエイティブをしたい模様。優しい客は、デザイナー。なるほど。色々やっている。かなでちゃんは、女優を目指しているので、その旨を伝えると、その人たちはやっぱり盛り上がる。そしてそのbarは、やっぱりそういう夢のある若者や夢を叶えた?人たちが来るようで、店主は「ここにきた人は成功するんだ!アゲちんだ。」と言っていた。私は、明確な夢のない人間、ではあるのでそれを悟られない様に、振る舞った。「きみは才能あるよ!」と無責任に言うその店主。やめてくれやめてくれ!やさしいクンニ顔が、「じゃあ僕はお会計で」「なんでもやってみるといいよ」と言い残しご退店。

 するとすぐにお客がやって来た。島顔のおにいさん。ウシジマくんに似ているとかなでちゃんは言っていたが、私はどうみても、島育ちのヒャダインにしか見えなかった。そのお客さんは、おもちゃ屋さんで、11歳の時からコレクトしていたおもちゃを売っているんだそう。そのbarにあるおもちゃもそこで購入したものも多いらしい。そのおもちゃは、何か映画や漫画、アニメを背景にしたおもちゃとかそういうのではなく、「名がなきおもちゃ」。
 するとまたすぐお客さんが来店。常連のスナックで勤務するななちゃんという女の子。この子は24歳だそう。黒髪ぱっつん長いポニーテール。かわいい。ツッコミの上手!とても気の良い子。好奇心が強く、空気を読む力もしっかりある、言葉の使い方もかなり良い。お酒も強い。スナックではかなり人気だろう。エロいし。

 この島のおもちゃ屋とななちゃんは仲がいい様で、その掛け合いは出来上がっていた。ボケっとしただらしのない男に、しっかりとツッコミをいれるななちゃん。そして強くつっこまれた後のその男の笑顔。会話もテンポもにがっちり合っていた。

 ななちゃんと杉並区のゆるキャラ「なみすけ」の話を楽しくしていると、また新しい客が。
 顔の小さな細身の男の子が来店。若い。21歳。ベビーフェイス。かなり笑顔がMっぽい。シワのでき方が、へにゃりと情けなくて良いね!ダムド(70年代のパンクバンド)のTシャツをインして細身のリーバイスのジーンズ。
 目が合った。すると、ダムドBOYが急に、私に向かって、悩み相談を始めた。ほんとに急に。(これ私に向かって話してるよね?)ななちゃんと島男、店主はチンチロで遊んでいる。「今、僕は広告やCMの撮影会社に就職して働いているんです。最初から編集やらなんやら全部やっていて。でも昔は音楽、パンクをずっとやっていて、あ、ドラムです。それをやめて就職したんです。最近、またやらないかと誘われていて。そいつらは音楽一筋で、バイトしながらみたいな生活をしていて。僕は、就職に一度逃げたから、そういう後ろめたさもあるし。でもほんとに音楽好きで。まあ撮影も楽しいしやりたいんですけど。どうしたら良いのかなって…」「でもドラム引き受けたら、僕多分仕事辞めちゃうし…やっぱ将来とかお金のこととか考えちゃって」うーんかなり高円寺っぽい悩み。「あのさ、この辺で相談しても、音楽やれよ!ってやっちゃえよ!って言われるでしょう?」「ああ…言われます、言われるんですよね。」「だろうね…。まあつまり、その将来やお金のことを考える自分と、何も考えずに音楽に突っ走る生き方に憧れる自分の板挟みなんだね」「そうっすね。」「極端!欲張り!」「…」店主がそこで口を挟む「絶対に音楽をやるべきだよ!良いじゃんやっちゃいなよ!」

 すると流れがまた変わって、チンチロ大会。どうやらチンチロを男だけでやって、負けた人が「乳首にタバコをチョンと当てられる」ことがそこのbarでの定番らしい。みんなベロベロに酔っ払っている。今回は、その若い男の子が負け、ななちゃんが乳首にタバコを当てる。(たぶんその男の子は勃起してた。)そういう文化。

  私は、その男の子にやっちゃいなよとは言えなかったし、その店主が「エピソードを集めてるからなんか面白いエピソードない?」と聞かれた時も、好きな芸人を聞かれた時も、なにも答えられなかった。すごく良い人たちで話も面白かったんだけど。与えることや個性をあまりに要求するから、私は、なんだか冷めてしまった。(かなでちゃんは、そんなこと気にしてなかった)こういうところが私のよくないところだなあ、と思った。

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