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2019J1第6節 浦和vs横浜M@埼スタ

スタメンはこちら。前節の鳥栖戦は効果的な攻撃が思うようにできず、スコアレスドローに終わったマリノスは、同じスタメンで敵地浦和に乗り込む。ベンチには負傷の大津に替わって山谷が入る。前節の課題はゴールへの近道、中央からの綺麗な崩しにこだわり過ぎたこと。1週間でいかに修正することができているかが鍵となる。
一方の浦和。前節のFC東京戦から慣れ親しんだ3バックを4バックに変更。その東京戦では組織的な守備を披露し、好調の東京に自由に攻撃をさせなかった。策士・オリヴェイラの手腕であれば、マリノスの特殊な形のサッカーにも軽々と対応してくるだろう。対応してくるとしたらどのような守備を敷いてくるだろうか。プレッシングでビルドアップに制限を加えてくるのか、リトリートしてしっかりとブロックを形成してスペースを埋めてくるのか。読めば読むほど想像すればキリがない、非常に楽しみな一戦である。
古巣対戦になる山中に対し、松原がどのように対応するのか。両指揮官の戦術合戦以外にも見どころは満載の試合だ。

【浦和のハイプレス・ショートカウンター】

戦前の命題『浦和の守備の出方』の答えは『ハイプレス』だった。守備意識の高い興梠と武藤の2トップは2CBやGKにプレッシャーをかけ、中盤の4枚もマリノスの偽SBや喜田のところでボールを奪いに来た。
そこで奪った後はショートカウンターを狙いにくる。右サイドは2トップの一角武藤が流れて起点を作り、長澤、柏木、森脇と人数をかけてボールをキープしながらサイドを崩しにかかるのが狙い。一方の左サイドは比較的シンプルで、山中の鋭いオーバーラップを利用して素早くゴール前にクロスを上げるというもの。この傾向は、後半にマルティノスを投入した後により顕著になった。
試合を通じて、数回決定機を作られたが、セットプレイ以外での決定機は、全てショートカウンターによるものだった。

【マリノスのビルドアップ】


マリノスのビルドアップは、浦和のハイプレスを上手く利用する形で行われた。

相手のシステムは前節の鳥栖と同じく4-4-2であり、ビルドアップを制限しにくるという点では、守備の仕方も比較的似ている。しかし、これに対するマリノスのビルドアップの形は前節と明らかに変わっていた。
鳥栖戦では、松原をDFラインに落とした3バックの形にすることで前進に成功していた。それに対して今回は、GK朴一圭がビルドアップの時点で高い位置を取り、3バックに似た形を取ることで浦和の2トップに対して数的優位の状況を作り出していた。これによる利点は2つある。一つ目は、浦和の2トップが掛けてくるプレスに対し、3人でボールを回せば、プレスに捕まらず、ボール保持を安定させることができること。もう一つは、前線で受ける人数を増えるため、パスコースが増えることにある。

後述するが、中盤の人数を増やすことにより、大きく利益を享受することになった。

【マリノスに見られた変化 ①天野のタスク変更】


前述したビルドアップの場面でプレスに捕まらなかったのは、他にも理由がある。その一端を担ったのが天野純だ。彼に課せられたタスクは、前節までと比べて露骨な変化を見て取ることができた。
そもそも前節までのタスクでは、天野のポジションは”シャドー”と称するのが最適だった。相手のDF-MFライン間に位置し、畠中や喜田からの縦パスを受ける役割だ。
しかし、この試合の天野の役割は決定的に違っていた。大きくポジションを下げ、SBのポジションでボールを裁き、チームメイトとのパス交換を繰り返しつつ前進させる役割を担っていたのだ。象徴的なのが以下のシーンである。

それに伴い、同じ左サイドでトライアングルを形成するマルコスと広瀬もそれぞれポジションを下げ、低い位置でトライアングルを形成する。
これにより、誰がボールを持った状況であっても常に近い距離に味方がいる状況が作られただけでなく、テクニックとキープ力、さらにパスのアイデアが豊富な天野が組み立てに積極的に関与することにより、相手のカウンターの契機となるボールロストが圧倒的に減った。
また、チームのパス回しのスピードに緩急がつくようになった。天野は、そのなかでペースメーカーの役割を果たしている。バスケットボールで例えるなら、攻撃を組み立て、そのタクトを振るうポイントガードのような役割だ。彼の状況判断次第でチームは動きを変える。
結果として、マリノスのパス回しにはゆっくりとした時間が生まれる。これ自体は、得点機会が失われることにもなりうるが、90分トータルで考えたときに、失点を誘発するカウンターの機会を奪い、相手の構造上の弱点を見極め、確実にそこを突く冷静さを生み出す。
かのペップ・グアルディオラは、マルティ・ペラルナウ著『キミに全てを語ろう』において、『ピッチのセンターラインまで、みんなで一緒に前進したあと、そこから先は自分たちのDNAを解き放ち、自由に走るんだ。』と説いている。これは、前線に急いでボールを送ることがチームの間延びをもたらし、相手にスペースを与えた状態で発動されるカウンターが自分たちにとって致命的なものであることを意味している。

昨季に限らずこれまでのマリノスの課題は、同じペース、トーンで前進させようとすることにあった。いわば、相手を見ることができていなかったのだ。しかし、この試合では、パス回しにおいてワンクッション置くことを覚え、浦和のプレスを上手くいなし、効果的に弱点を突くことに成功した。それだけでなく、スタミナの消耗が激しい夏場の戦いにおいて、ゆったりとボールを回して時間を消費することは、持続的に相手のスタミナを奪い、自分たちの消耗を抑えて戦うこともできる点でも利点がある。
あらゆる面で利点をもたらす成長である。一過性のものではないと信じたい。恒常的にできるようになれば、空間だけでなく、時間も司るチームになれるのだ。天野純は、時間をコントロールするペースメーカーの役割を担うようになった。

【マリノスに見られた変化 ②ゴールキックの際のポジション】


これは、ゴールキックの際のポジショニングを表した図である。
ゴールキックを無理にでも後ろから繋ごうとするマリノスに対し、マンツーマンでマークについて
2CBがPA幅に広がってパスコースを生み出すのは昨季終盤から行なっていた施策だが、この試合から中盤より前のポジショニングに変化が見られた。
マンツーマンで人についてくる浦和に対し、パスコースを創出するために、中盤の5人が目まぐるしく動きまわり、スペースを開けようと動く。これは、マンチェスターシティがゴールキックを行う際にも見られる動きだ。
また、中盤の5人が動くスペースを作るため、3トップは敵陣深くにポジションを取り、相手のDFラインと前線をあえて間延びさせる。ゴールキックにはオフサイドがないため、相手のDFラインは3トップのポジショニングを無視するわけにはいかず、ラインを下げざるを得ないのだ。
これによって生み出した決定機がこちら。

昨季からゴールキックの球出しに苦労する傾向にあるが、こうした対応策は徐々に深められているようだ。この試合の前半20〜30分の時間帯は、浦和のプレッシングに苦しんだが、多くのボールロストがゴールキックからのものだった。かなり難易度の高いことにチャレンジしている印象があるが、完成すればかなりの実効性が見込める。もっともっとトライしてほしい。

【無法地帯と化した浦和のライン間】

この試合の2点目の局面は、ライン間に位置取る三好に対して松原から斜めのパスが入ったところから始まった。たしかに三好はそうしたポジションでボールを受けることに長けており、松原も今季は積極的に斜めのパスを狙う傾向がある。しかし、それにしても空き過ぎなくらいに浦和のライン間はがら空きだった。前線からのプレッシングが外された後の対応に明らかに難があった。本来であれば、プレスをかけに前に出た中盤は、猛ダッシュで戻らなければならないのだが、2点目のシーンに象徴されるように、浦和の中盤は戻らなかった。

バイタルエリアで三好がボールを持ち、4vs4の数的同数の状況が生まれているが、プレスバックをするようなことはせず、半ば傍観するような格好となっている。これだけ時間とスペースがあれば、三好、マルコスが仕事をするには十分だった。
後半は特に浦和の運動量が落ち、こうした傾向はより顕著だった。オリヴェイラが早急に片をつけるべき守備の課題だろう。

【今週の槙ちゃん】


今週の槙ちゃんはこちらのプレー。
エジガルがCBを釣って空いたスペースに左SBの広瀬が走り込んであわやキーパーと1vs1の状況になりかけたシーン。全員が頭の中で同じ絵を描いて崩しにかかった素晴らしい一連の流れであるが、全ての起点は畠中から始まっている。

このプレーは4つのセグメントに分けられる。

①ボールを受けに下がってくる天野に対し、前に行けと指示
②前に位置取った天野に対し、浦和のプレスを回避する縦パス
③左SBの位置に受けに来た天野に出す体の向きを作り、興梠の注意をサイドに逸らす
④手前のマルコスではなく、奥のエジガルへ向けた質の高い縦パス

以上のように、敵味方を自らの描くビジョンの通りに動かす支配力を発揮している。今のマリノスの攻撃の手綱を握っているのは、天野でも喜田でも三好でもなく畠中なのだろう。
CBがこれほど美しくゲームを組み立てられるチームはJリーグにはないのではないか。間違いなくマリノスの誇れる武器である。

【考察】


今まで不思議に思っていたことがあった。マンチェスターシティや川崎フロンターレといった、いわゆるボールを支配してゲームを支配するチームと、同じくポゼッションに着手したマリノスとの間には、ゲームの印象にかなり開きがあったことである。前者の方が、よりゲームを支配している感があったのだ。
昨季の川崎のパス本数は1試合平均で700本ほどであるのに対し、マリノスは500本だった。しかし、当然ながらパス本数自体は何も意味をなさない。捉え方によっては、それだけ多くパスを回しているのならば、チャンスを効果的に作ることができていないとも捉えることができてしまう。かくして、パス本数はこの違和感を説明していない。
では、この違和感の正体は何か。両者のスタッツを比べてみると、興味深いデータが見て取れた。
それは、敵陣ポゼッション指数と自陣ポゼッション指数の関係である。

2018シーズン
川崎 敵陣:79  自陣:55
横浜 敵陣:56  自陣:70
川崎は敵陣部門で、横浜は自陣部門でそれぞれリーグ第1位。

つまり、川崎は敵陣に相手を押し込み、自陣ゴールから遠い位置でポゼッションを行っているのに対し、マリノスは自陣で相手のカウンターの脅威にさらされた状態でポゼッションを行なっていたことを意味する。必然的に相手ゴールから遠い位置でボールを持つため、作れるチャンスの数も少なくなる。

もちろん根本的なサッカーのスタイルが異なる両者を単純に比較することはできない。ポステコグルー体制初年度で完成度に難があったことも差し引いて考えなければならないだろう。
しかし、スタッツで見れば川崎やシティのものが理想的である。数字がサッカーの全てを表すわけではないのだが。

これを受けてこの試合を振り返ってみると、特に後半に見られた、敵陣でゆっくりとボールを回すようになった傾向は、理想のスタッツを生み出すものだ。大切なのは、ボールを奪われた際にすぐに奪い返せるポジションをチーム全員が取れていることと、自陣ゴールから遠い敵陣でボールを持つこと。これこそが天敵であるカウンターを未然に防止する無敵の施策だ。
この試合では、その片鱗が見られた。相手を見て自らの立ち振る舞いを決める。勝負の世界で後出しができれば勝つ確率はぐっと高まる。
この試合の浦和は、比較的与しやすい相手だったことは言うまでもない。今後の相手は、もっとしっかりと対策をしてくるだろう。
そうした相手に対し、その場で適切な方策が取れるかどうかが、このチームに優勝争いをする資格があるかどうかを決める。その一つの引き出しとして、今回の天野のタスク変更はカギとなると思われる。


4/5(金)19:30 J1第6節 浦和0-3横浜

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