見出し画像

男子の制服にスカートが無いのは差別か、中学3年生に尋ねた

きっかけ

最近、勤務先の中学校で、女子生徒のスラックス着用が認可された。

新しく入学する生徒はもちろん、すでに在籍している2・3年生も、希望すれば新たに購入することができる。

多様性を認める、ジェンダーレス化、そういう世間の声を気にして、急いで世間に適応しようとしたんだろうな。

もし私が今の時代に学生として生活してたらスラックスはきたいな〜と思う。冬のスカートは寒いから…


ある日、担任するクラスの女子生徒が、こんなことを言い放った。

「女子にはスラックスがあるのに、男子にスカートが無いのは変じゃないですか?」

ちょっとだけざわついた。そのざわつきを止めるのは本来担任である私なのだろうが、それをする必要はなく、発言した女子生徒が間髪入れずに言う。

「だって女子には選択肢があるのに、男子に無いのは差別じゃない!?」

差別、ときたか。いささか言葉が強いとも思うが、しばらく見守る。

この時間は、学校をよりよくするための意見を話す時間だった。後々、それらが生徒会に伝えられ、検討され、学校全体で実行していくという流れがある。生徒が主体となって、一人一人の意見を拾って学校を変えていくという大事な行事の、第一段階であった。

司会が、「では私たちのクラスからは、男子もスカートを選べるようにしてほしいという意見を提出することで、よろしいですか?」とまとめた。もうまとめるんかい。

反対意見は出なかった。というか、思うことはあるようだがどう言えばいいか分からないという表情だった。そうこうしているうちに意見は書記に記録され、提出用紙に書き込まれる。


鋭い意見だが、あまりにあっさりと話題が終わってしまったため、後日、道徳の時間にもうちょっとこの件について時間をかけて話し合ってみることにした。


質問① ジェンダーについて、どう思う?

クラスにはそもそも「ジェンダー」という言葉を知らない生徒もいるので、簡単に説明して、このような質問を投げかけてみた。抽象的な質問であるにもかかわらず、想像していたよりもかなり、みんな真剣に考えていた。ノートを読むと、様々な記述が。

「決めつけ」は良くない

・「男らしさ」「女らしさ」で決めつけるのは良くない
・「男らしさ」「女らしさ」よりも「自分らしさ」が大事
・「男の子だから」「女の子だから」という言葉でどれだけの人が苦しめられてきたのか考える必要がある
・その人の人生を縛り付けているようで、嫌

「差別」はよくない

・男女差別はよくないからなくすべき
・そもそも江戸時代の男女の上下関係がダメだった
・「差別」は良くないが、「区別」はあり

無関心 or 気にならない

・僕はスカートをはきたいと思わないので、関係がない
・誰がどんな服装をしようと自由なので、気にしない

わかってはいるけど…

・男子が急にスカートをはいてきたら、驚いてしまう


そのあと、班になって意見を交わし、さらにワールドカフェ形式(代表一人が各班を回って意見を共有し、自分の班に情報を持ち帰ってくる話し合い方法)で、いろんな意見に触れさせてみた。結論を出す必要はないということと、人の意見を批判しないという約束で、自由に話し合ってもらう。

口に出さなきゃ良い

「例えば、男子がスカートをはいてきたら、僕ならちょっと気持ち悪いと思ってしまう。でもそれを口に出さなければ良い」
「いや、その「気持ち悪い」と思うことがおかしいのだと思う」
「けど思ってしまうことは止められないし…」

男子でスカートをはきたい人は少ない説

「仮に男子のスカートが許可されたらはくひといるの?僕は、はこうと思わない。そういう人は少ない気がする」
「少ないけど、いるかもしれないじゃん」
「なら、スカートをはきたい人だけがはけばいい。」

現実的には難しい

「男子がスカートをはいたら世間的には変だと思われるのが現状。」
「変だと思う人の心を変えることは難しい。」
「でも理解者が世界で増えてきているのも事実!」

LGBTの観点

この班はちょっと別の話をしていた。
「誰がどの性別の人を愛そうと自由」
「自分の性別が分からない人だっている」
「性同一性障害の人には配慮が必要」
「その配慮って何?」
「そういえばLGBTQってのもあるよな、何だっけ」→タブレットで調べた

性別という概念

「もう「男」「女」って分けなければこんな問題は起こらない」
「でも体のつくりは違うから、便宜上分ける必要はある」


質問② 男子の制服にスカートが無いのは、差別か?

話し合いを踏まえて、改めて制服のスカートについて考える。自分自身の意見をノートに書いてもらった。

差別である

・女子に選択肢があって男子に選択肢がないのはやっぱりおかしい
・「スカートをはきたい」と思う男子にとっては差別だと思う

差別ではない

・昔からの流れで、スカートという選択肢がないだけ
・差別とは思わないけど、選択肢はあったほうがいい

差別か、差別じゃないか、はっきりと書いている生徒は少なかった。初めは差別だ(差別ではない)と強く言っていた生徒が、話し合いを重ねるうちに「本当にそうかな?」と考えている姿が多く見られた。

感想

最後に、この時間を通して思ったことを書いてもらった。

・そもそもスカートは女子のためだけに作られたものじゃない。
・自分たちは男女を選んで生まれてきたわけじゃないから、自分とは違う性別に憧れるのは普通にあることだと思う。
・日本はLGBTについて理解しようとしている段階なので、この動きが続いていってほしい。
・外国の性差別についての法案の話で、「関係のある人には喜ばしいことで、関係のない人にはいつもの日常が来るだけ」というスピーチがあったのを思い出した。
・男性には男性の長けているところ(力が強いなど)があり、女性にも女性のそれがある。だから「男が荷物を持ちなさい」などの考えは心遣いであり、義務ではない。(男子生徒の記述)
・好きなものや服装を他人が色々言う権利はないと思った。
・普段、ジェンダーについて考えることがなかったから、この機会に考えられたのが良かったし、クラスの色々な人の考えが聞けて良かった


「男子がスカートw」の時代は終わっている

突如放たれた「男子にもスカートの選択肢を」という意見で、初めこそ少しざわめいたクラスだったが、話し合いが始まると真剣そのもの。

現代の子どもたちの方がよっぽど、自分なりのジェンダー観を持っていて、日々「当たり前」に一石を投じ、常識を疑う目を持ち、目まぐるしく変わる世の中の考え方に順応している気がした。

むしろ、「特別扱い」だの「配慮」だのと、腫れ物に触るかのように慌てふためいているのは誰なのか。

この仕事をしていると、子どもから学ぶことがいっぱいある。無知で、遅れていて、新しい価値観に更新していかなければならないのは、過去の常識にとらわれ続けている大人たちの方だ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?