ダッシュガール


 小俣駅(近鉄)みたいな小さな無人駅でも利用者は多い。多いといっても通勤通学に使う人がメインだ。夕方、いつも同じ時間の列車に乗って帰るんだが、4年くらい前から2年間ほど、気になる女性がいた。

 運動神経の良さそうなやや小柄な体で、髪の毛は結んでおらず、青いような金髪のような、まあ、今時の染色が施してあり、白い肌とよくマッチしている。服装もカジュアルでロンTに細身のカラーパンツやジーンズ、リュックを背負ってヴァンズのスニーカーを履いていることが多い。学生なのか、工場勤務なのか、その子もほぼ俺と同じ時間の同じ車輌に乗っており、同じ駅で降りる。

 なぜ、こんなにこの子を観察しているかというと、もちろんひっかかる行動様式があるからだ。2輌の列車から俺を含む乗客と共に駅に降り立ち、IC定期券を検札機にかざしてホームを出口に向かう、ところまでは彼女も俺たちと同じ動きをし、出口にさしかかろうとするやいなや、ダッシュ。速歩きなら分かるし、家人などの迎えの都合なんかでのダッシュであるなら分かる。が、毎回、急ぐかね?若いってそういうものか?いや、俺だって若かったが、毎日、駅の出口からダッシュなんてしなかった。

 後をつけるわけには行かないが、目線で彼女がどっちへ駆けていくかくらいはチェックした。ちょうどアパートで見えなくなる微妙な曲がり道を行く。その向こうにはおそらく駅利用者のための駐車場がある広いスペースがありそうな雰囲気。そこに迎えが来てるのかな?彼女が駆けていかなければならないような何かが待つそこに。

 結末を述べると、結局彼女がなぜダッシュするのかは分からなかった。一度、我慢できずに少しだけつけたことがある。通報してももう遅い。3年も前だ。当然、家というか、しつこくついて行く気は毛頭なく、距離をかなり置いての尾行だ。その駐車場に車があり、乗り込むのを見届けるために。はたしてそこには、何も無かった。駐車場はあったが、その向こうに抜ける道が無かった。彼女が駆けて、俺が後をつけたその細道しかその駐車場へのアクセス方法はなかった。実際は垣根と腰丈くらいの金属柵があったので、それを乗り越えればその向こうに抜けられるのだが、そんなことをするだろうか。小学生ならまだしも、しかも毎日。ダッシュ ゴースト ガール?ちょっと混乱したが、もう気にしないことにした。その後も彼女(ゴースト)は夕方、駅からのダッシュを続けた。ちなみに、朝の電車でも見かけたことはあるので、少なくとも、行って帰ってくるタイプの幽霊だ。いやいや、もちろん生身のミステリアスガールなんだろう。

 ある時、友人の若い女性にそのことを話した。すると、「あっ、ワタシも走りますー。」と。「なんで?」と聞いても、「なんでなんですかねー?わかんないですけど、なんとなく。」

 謎は解けた。若い女性(運動神経が良さそうな。その友人は柔道の選手として活躍していた。)はなんとなくダッシュをする。メモだな。袋小路に消える怪については、保留で。

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