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くるりに小規模法人・フリーランスの仕事術を学ぶ

こんにちは。
少し前から勝手にシリーズ化している「アーティストから仕事術を学ぶ」の第3回目になります。

1.このシリーズの狙い

私は人生のたくさんの局面で、音楽やそれらを創作したアーティストから大きな影響を受けてきました。
現在でもアーティストの生き方や考え方について観察したり考察したりすることで、自分の仕事や生き方のヒントにさせてもらう事が多々あります。

彼らが家族とか同僚のような身近な関係者ではない分、時に意外なほどスッと自分の内面に気づきを与えてくれる事があります。

そこでこのシリーズでは、今までなんとなく自分の中で考察していた、「アーティストたちから与えてもらった、ちょっとした学びや気づき」をテーマのひとつとして発信していければと思っています。

2.くるりの仕事術に学ぶ

今回は、やや限定的なテーマになってしまうかもしれませんが、「くるり」から、フリーランサーや小規模法人が参考にしたい仕事術を学んでみたいと思います。

くるりは1996年に結成されたロック・バンドで、今年で結成27年のキャリアになり、現在では日本のロック・シーンで確固たる地位を築いています。

よく知られている事実ですが、くるりは多くのメンバーチェンジを繰り返してきたバンドでもあります。Wikipediaのくるりの項目を読むと、96年のデビューから現在まで、バンドメンバーの編成ごとに実に「第1期~第8期」までフェーズ分けされています。
デビュー時は「岸田繁、佐藤征史、森信行」の3人編成でしたが、その後は4人→2人→5人→4人→3人→2人とめまぐるしく正式メンバーの数が変わっており、デビューから現在まで変わっていないのは岸田氏、佐藤氏の2人のみです(ちなみにサポートメンバーの人数を加えると、上記よりももっと人数の振れ幅は大きくなります)。
そういう意味では、「くるり=岸田氏&佐藤氏のユニット」と定義してよいのかもしれませんが、いずれにせよこれだけメンバーチェンジが激しいバンドは世界的に見てもあまり多くはないと思われます。

くるり(メンバー4人の時代)

2-1.作品重視の姿勢を貫く

あまりにメンバーチェンジが多い現象に対し、一時期ネット上で「くるりは『ブラック企業』ではないのか?」という噂が流れて議論になった事もありました。
この噂については、ボーカル&ギターを担当しバンドのリーダーでもある岸田繁氏が明確に否定しています.
※詳しい内容は下記のリテラというWeb記事に掲載されています。


結論から言うと、岸田氏は何もその時の気分や一時の気まぐれでメンバーをとっかえひっかえしてきた訳ではありません。
あくまでも「作品のコンセプトや世界感をイメージ通りに表現する」という作品重視の姿勢がまず何よりも先にあり、そのために必要で適切なメンバーを増やしたり、逆に減らしたりと柔軟かつ大胆に実行してきた結果、頻繁なメンバーチェンジにつながったというのが、真相のようです。

もちろんバンドというは複数の人間の集合体なので、それなりにメンバー間での衝突も、友情も、しがらみもあったのは事実のようです。しかしながら、あくまでも岸田氏が重視していたのは「いかに理想通りに作品を製作するか」という一点であり、その目的を達成するために、友情やしがらみを極力排除して創作活動を優先してきたようにも見えます。

くるり(メンバー3人の時代)

2-2.いつものフォーメーションに拘らない

実は私はひとり法人を経営しており、ある消費財の企画・設計を生業としています。設備を持っている訳ではないので製造や輸送はもともと外部企業に委託していますが、仕事の核である企画・設計については、ある時期までは基本的に自分ひとり+外部のデザイナーなど、割と固定メンバーで回すことが主でした。

ただ、企画・設計分野の仕事というのは、数をこなしてくると、どうしても似たような発想・似たようなプロセスを経て、最終的にやはり似たような成果物に落ち着いてしまう事が少なくありません。
自分でもこれではマズイと思い、インプットを増やしできるだけ新しい切り口で発想してアイディアをひねり出したりもするのですが、それを製品化する工程で登場するメンバーがお馴染みの顔ぶれだと、結果的にあまり変わり映えの無い製品になってしまう事が多々ありました。

そんなモヤモヤを抱えていた数年前、ふとしたきっかけでくるりの「その線は水平線」という曲がとても気に入り、そこからくるりの全作品を深堀りする事になったのですが、アルバムや時期ごとに作風がまったく異なっていることに衝撃を受けました。
それもアレンジや質感が少し異なるというレベルの違いではありません。ある時期はフォークロックぽいかと思えば次はごりごりのUKロック、その次はテクノ寄りのエレクトロニック、王道ポップス、プログレと、とても同じバンドの作品とは思えない振り幅です。
ベスト盤「くるりの20回転」などは、聴いていると正直、少し頭がクラクラするような感覚に見舞われる事すらあります。

ベスト盤「くるりの20回転」(2016年発表)

ただ、私はくるりの作品群を聴いた事で彼らにとても興味を持ち、前述したメンバーチェンジの理由と創作の背景を知りました。その結果、
「これは自分の仕事の仕方も『作品ありき』の姿勢に変えないとマズイな。必ずしもいつものフォーメーションに拘る必要は無いんだな」
と仕事の進め方を考え直すきっかけになりました。

それからは、最終的に描く製品のイメージから逆算して、全く新しい外部パートナーに新しい工程を依頼してみたり、逆にそれまでは外部に依頼していた工程を敢えて自分ひとりでやってみたりと、ずいぶんの製作のカタチを変えることができました。
その結果、岸田氏のような天才と比べるのはおこがましいのですが、多少は従来とは異なるテイストの成果物につながる事も増えてきたという実感があります。

3.まとめ

上述したような仕事上のフォーメーションの大胆な変更は、私と同じような小規模法人やフリーランサーこそ試してみる価値はあるのではないかと、個人的には考えています。

大きな企業の場合は、ひとつのプロジェクトで最初から色々な部署や専門家などのリソースが揃っていて恵まれているのは確かです。
一方で、部門間の謎のしがらみで、あまり必要と思えない部門や人材もチームに組み込まなくてはいけなかったりする現実も割と多かったりします。
結果として、意思決定にやたらと時間がかかったり、多くのムダなフィルターを通した結果、どっちつかずの無難な成果物がなんとなく出来上がるという残念な場面を、私も勤め人時代に多く経験しました。

もちろん大企業の場合は、多くのフィルターを通すことで見落としがちなリスクを事前に発見できたりするプラスの面も多くあるので、一概にどちらが正しい・正しくないという種類の話ではありません。

ただ、ひとり法人やフリーランサーの世界においては、どちらかといえば、ある特定の分野で少し尖っていたり際立っていたりする「特異性」があった方が、生き残る上で重要なファクターになるのも、一面真実だったりもします。
その意味では、私と同じような小規模法人やフリーランサーこそ、くるりのように「作品重視の姿勢」を貫き、そのためには大胆に仕事のフォーメーションを変える事も厭わないスタンスが必要なのでないかと思った次第です。

(おわり)


10月にはニューアルバム「感覚は道標」を発表予定。今回はくるり結成当初のメンバーであった岸田繁、佐藤征史、森信行の3人で製作されており、ドキュメンタリー映画も公開予定との事(くるり公式サイトより)


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