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連載小説 「黄昏、」 小島あんず×海乃真珠

この文章はRocket Baseの公式Twitterアカウント上で連載されている文章をまとめて読めるようにしたものです。Twitter上では定期的に物語が分岐するアンケートが行われています。読者の皆様の選択によって、物語が変化していきます。noteの方も随時更新されていきますので、お好きな方を読みながらお楽しみください。

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私、小島あんずは大学入学を期に一人暮らしを始めました。それからちょうど四日目の夜のことでした。 深夜に玄関のチャイムが鳴り目を覚ましました。枕元の時計を見ると2時を回ったところでした。

何かの間違いだろうと再び眠ろうとした時、ドアノブが小さくガチャガチャと鳴りました。今度は流石に飛び起きました。今思うと、この時の判断がその後の私の運命を決めたんだと思います。

覗いてはいけない。 そう思いながらも、なぜか覗き穴に吸い込まれるように近づいていました。 覗いた先は薄暗い廊下の壁でした。 鍵がかかっていたので、安心してしまったのでしょう。 こんな時、振り向いたら、(幽霊が)いるよね。 そんなことを考える余裕すらありました。

でも、そんな余裕も一瞬だけ。

「お姉ちゃん」

不意に後ろから小さな子供の声が聞こえて、全身が総毛立ちました。 部屋を見回して立ち竦んでいると、隣人の部屋からかすかにテレビの音が聞こえてきました。 気のせいかな……。眠気が吹き飛んでしまった私は、恐怖を紛らわすために誰かに電話をかけることにしました。

時間は深夜の2時過ぎ。少し迷ったけど、地元の友達のはなちゃんに電話することにしました。 はなちゃんなら起きてるだろうし。 「もしもし?」 案の定、ワンコールで出ました。はなちゃんの声にホッとしました。 でもその後の会話が続きませんでした。「もしもし?」と繰り返されるはなちゃんの声。私の声が聞こえないみたいでした。なんでだろう。数秒後、切られてしまいました。

時刻は2:20。 目覚ましを8:00にセットして、もう一度眠ることにしました。 明日は朝からオーディションなのです。このために上京したと言っても過言ではありません。 受かったら、大学を辞めてさえいいと思っていました。 頭の中で明日の審査項目を考えながらソファベッドに横になりました。

私は夢の中で、歌を歌っていました。 そうか、今は審査中なのかな。 私は一生懸命歌っているけど、声が聞こえない。 なんだろう、この場面、記憶があるな……。 私、何を歌っているんだろう。 もう少し、もう少しでわかりそうなのに。

そうだ、この歌だった。 だったーー? オーディションは終わったんだっけ?
私は暑い夏の日の出来事を思い出していました。 Coccoさんが好きで、特に迷うこともなくこの歌を歌唱審査の曲にしたのでした。

ああ、なんかいろんなことを忘れてしまっている。 審査員のおじさんたちが5人いて、歌っている時に遮るように言われた「もういいです」の言葉がすごく痛かったのは覚えています。 だから、その後の質疑応答は記憶になくて。ただ、最後に次の審査の日程を言われて、1次審査は通ったのかと不思議な気持ちになりました。

確か、帰りにスタバに寄って、そのあとは、うーん、思い出せない。私はTellUsというグループのオーディションに受かったんです。 確か明日はレッスンもあったはず。 もう寝なきゃ。 って、これは夢の中だっけ?

最近の私は夢と現実の間を漂っているような感じで、だからさっきのような幻聴があったのかも。疲れてるわけではないのですが、ちょっと体調が悪いのかもしれません。

その時、またはっきりと聞こえました。

「幻聴じゃないよ」

布団から飛び起きると、私は目の前の少年の姿を見て気を失いました。

目を覚ましたのはすっかり日が昇ってからでした。夏の訪れを告げる蝉の声が少しずつ現実に私を引き戻していきました。
「私、TellUsに受かってなんかいない」
スマホのカレンダーによれば今日がオーディション最終日。14時までに着かないといけないのに、もう12時過ぎでした。

私はメイクもそこそこに、バス停に向かいました。その時、起きてからすっかり忘れていた昨夜の少年のことを思い出しました。なぜなら、バス停の向こう側の歩道に、あの時の少年が歩いていたからです。

私は最終面接よりも、少年を追いかけることにしました。少し離れたところにある信号を渡り、対岸の歩道へ。少年はまだ100メートルくらい先に見えました。汗をかくのも気にせず、全力で走りました。

「待って!」

少年の背中に声をかけました。周囲には誰もおらず、少年は驚いた顔で振り向きました。

「あ、お姉ちゃん?」

「君は誰なの?」

私は少年が実在することにほっとすると同時に、なぜ勝手に部屋に上がっていたのか、彼はなぜ私をお姉ちゃんと呼ぶのか、新たな疑問が沸き起こりました。

「ちょっと、時間あるかな?」

見ず知らずの小学生を捕まえてお茶に誘うのも怪しいことこの上ないけど、私はこの疑問をはっきりさせずにはいられませんでした。

すると少年は、「あるけど、お店は嫌だな。その先に公園があるから、そこで」とスタスタと歩いて行きます。私はよく教育されている子だな、感心しました。

公園のベンチに座ると少年が口を開きました。

「お姉ちゃん、というのはそれしか呼びようがないから。お姉ちゃんには僕が見えるの?」と真っ直ぐに見つめてきます。私は「み、見えるよ」と答えました。

急に陽が翳り、冷たい風が吹き抜け、体が震えました。

(私、やっぱり見えないものが見えるんだ…)

「お姉ちゃん。怖がることはないよ。おかしいのは僕の方なんだから」
そう言って、少年は俯きました。そして、少ししてから、少年はまた顔をあげて言いました。

「お姉ちゃん。明日また、ここに来て。そしたら全てを教えてあげる」

私は「うん」と答えると、TellUsの最終面接のことを思い出しました。あと30分。少年に別れを告げて、バス停に走り出しました。

振り向くと少年はもういませんでした。面接が受けられなかったらどうしよう、あの少年はなんなんだろう。心がめちゃくちゃで今にも涙が溢れそうな精神状態でした。

私は面接の約束の時間を30分以上遅れてしまいました。大きなビルの前で、勇気を振り絞り、受付のお姉さんに声をかけました。「面接で来ました!」

受付のお姉さんはにっこり笑うと、「お待ちしておりました。こちらの入館証を持って地下2階に行ってください」と教えてくれました。

エレベーターで地下2階へ行くと、面接を待っている2人の女の子がいました。私は一番はじっこの席に座り、息を整えました。

面接の会議室の外に置かれた椅子に座っていると、面接の係と思しき方が歩いてきました。私は遅刻を詫びました。すると、そのまま座って名前が呼ばれるのを待ってください、と言ってくれました。

(良かった。面接が受けられる)

私はすぐに面接の準備に専念しました。

事前に配られていた台本に目を通し、課題曲の歌詞を思い出しながら、順番を待ちました。結局最後でしたが、名前が呼ばれました。

私は深くお辞儀をして会議室に入りました。面接官の方達は特に遅刻の理由は聞いてきませんでした。一通り課題が終わり、最後の質疑応答の時には誰からも質問はありませんでした。

だめだ。絶対に落ちた。そう思って会場をあとにしました。帰りのバスでは、行きに会った少年のことを思い出して、明日、何がわかるのだろう?と考えていました。

バスを降りて、近くのコンビニで買い物をして帰宅し、ベッドの上でゴロゴロしていたらいつの間にか眠ってしまっていました。

冷房が効きすぎて寒さで目を覚ましたのは4時すぎでした。外は既に明るくなっていました。人一人いない通りの風景に違和感を覚え、私は昨日出かけた時と同じ格好で、外に出ました。違和感は確信に変わりました。通りに出ると、そこはほぼ無音だったのです。

ーー絶対におかしい。世界がこんなに静かなんて。

私はコンビニに走りました。24時間、いつも開いているコンビニなら、現実に戻れるような気がしたんです。

しかし、店には入れたものの、店員さんの姿が見えません。客もいません。ペットボトルの水を取り、レジに並んでみました。
恐る恐る「すみません」と声を出してみても反応がなく、私は水を元の場所に置いて店を出ました。

ーーもしかして。やっぱり私は……。

いやな予感、妄想が頭の中に渦巻き、冷静になるために自販機で缶コーヒーを買い、飲みながら家に戻りました。

眠ろう。

そう思った私は布団を頭からかぶりもう一度眠ることにしました。今日は少年と会わないといけない。絶対に……。

そう思いながら、再び夢の中へ入っていきました。

夢の中で、私は公園にいました。待っても待っても誰も来ないため、私は眠気を覚えて、公園の椅子に座ったまま眠ろうとしてしまいました。

「お姉ちゃん!」

私は飛び起きました。少年が部屋にいました。

「だめだよ、お姉ちゃん。夢の中でまた眠ったら、起きられなくなるよ」

少年はそんな不思議なことを言って、「公園で待ってるよ」と言って部屋を出ていきました。私は急いで準備して、少年の待つ公園へ向かいました。

公園の入り口近くにあるベンチで少年は待っていました。

「起こしてくれて助かった。遅れてごめんね」

少年は少し笑顔を見せると、また深刻そうな顔を見せた。
そして振り絞るように次の言葉を吐きました。

「お姉ちゃんに今からとてもつらいことを言うけど、我慢して聞けるかな?」

私は少し悩みました。
私も世界が変わってしまったことに薄々気づいていたから。だいたい、この少年のことだって、怖い。

私は先には思っていることを聞きました。

「君は誰?」

私は率直に聞きました。
少年はとても悲しそうな目をして言いました。
「僕はお姉ちゃんが見えるんだ。でも僕はあの日、死んでいるんだ。だからお姉ちゃんは幽霊じゃない」

私は、少年が何を言っているのかよくわかりませんでした。
「え? どういうこと?」

この少年が死んでいる?
というのことは私は幽霊を見ている、ということ?
で、この少年は私が見える、と……。

こんなにはっきりと会話できているし、何なら、私が幽霊なのかと思っていたくらいだ。はなちゃんも電話に出ないし。コンビニでも誰も出てこなかった。

一体何が起きているんだろう。

私はもう一度少年に聞きました。
「私が見える、というのはどういう意味?」

少年は少し考えてから、
「つまり、3日前かな。この空がいきなり光ったんだけど、その光のせいで、人がみんな死んじゃったんだよ。建物はそのままなのにね」

「私はなんで生きているの!?」

「不思議だね。それは僕が聞きたいよ。お姉ちゃんはどこにいたの?」

私は3日前の行動を思い出そうとしたけれど、何も思い出せない。大切なオーディションを控えて、家で練習をしていた記憶しかない。

「まあ、いいや。お姉ちゃんが助かった理由がわかったところで、今更どうしようもないし」
少年はつぶやくと、立ち上がりました。

「ちょっと、もう行っちゃうの?」

少年はすまなそうな顔をして、
「ごめんね、お姉ちゃん、お母さんが待ってるんだ」
と言いました。

私には見えないけど、少年は公園の入り口の方に走っていってしまいました。そして入り口で、

「お姉ちゃん、頑張ってね」と手を振りながら叫んで、そのまま行ってしまいました。

私は静かな公園で一人で考えていました。
つまり私以外はみんな死んでしまったってこと!?

昨日の面接は? バスの運転手は?

混乱する頭を抱えて、公園を出て、久しぶりにお母さんに電話をしました。
「もしもし?」
一瞬繋がったかと思いましたが、留守電でした。はなちゃんも、信乃さんも、伊吹さんも出ませんでした。

少年の言っていたことが本当だったら、この世界には誰か生きている人がいるでしょうか。

ネットは繋がるし、スマホも生きている。一体どんなことがあったら人だけ消えるのか……。

ネットで検索すると、ニュースの更新が3日前で全て止まっていました。少なくとも日本が大変なことになっているのは間違いありません。一旦家に帰り、何をすべきか考えることにしました。

なんですぐに調べなかったんだろう。
ネットには世界中で異変が起きていることがわかりました。
異変というか、何も起きていなかったのです。
世界中のニュースサイトが3日前で情報が止まっていて、TwitterやTiktokも同様でした。しかし丹念に調べていくと、そんな中にも僅かに更新されているSNSが見つかったのです。

しかし丹念に調べていくと、そんな中にも僅かに更新されているSNSが見つかったのです。

そして、どの発信者にも共通することを見つけました。
それは、「発信するな」ということ。
私はその意味を考えました。しかし発信者と繋がらなければこの事態から抜け出せないのではないか?

1日考えた結果…


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