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超個人的2022年間ベストアルバムTOP10

こんにちは、Kunです。

今年は真に"超個人的"な年間ベストを作ろうと音楽を聴いていました。自分が本当に好きな音楽とはなんなのか常に考えていました。納得のいく10枚選べたと思います。11位以下はまた別で記事を書こうと思います。

それぞれのアルバムに感想とか考えたことを付けてます。リンクも貼ってるので聴いてください。

それではどうぞ


「シティポップブーム40年前に言ってくれ笑」じゃねえんだよ

10位 佐野元春『今、何処』

 「シティポップブーム40年前に言ってくれ笑」この言葉を聴いた時山下達郎は僕の中ではもうアーティストではなく1人の老人になりました。

 山下達郎に対して佐野元春の今作は確かにブチギレていた、この時代に対してブチギレていた。活動40年を越えてもなお今この時代にブチギレていた。

 間違いなく過去最高傑作、2022年真にロックミュージックを信じていたのは佐野元春ただ一人だけだったと思う。


エレクトロニカ・ノスタルジア2022

9位 Kaho Matsui『S/T』

 オレゴン州のポートランドのヴェイパーウェーブ〜ブレイクコアのレーベル〈Norm Corps〉、近年VRTLHVNなど良作を多数リリースしている。その中でもジャケットやアーティスト名などから一際異彩を放っていたのは、同じポートランドのアーティストKaho Matsuiのセルフタイトル作だ。

 アンビエンスを纏ったジャングル、ブレイクコアのトラックは今年のWhatever The Weatherと同じような雰囲気を纏っているが、Kaho Matsuiのサウンドはそのトラックに即興ギターを乗せている。それによりマスロック、エモ的なサウンドとなり非常に聴いていて面白いし、心地よい。

 今年はKabanagu、Uztama、Ippotskなど電子音楽からノスタルジーを感じさせるような作品が目立った。Kaho Matsuiはトラックにギターを乗せるシンプルな構造でそれを提示できていたので一歩リードしてたかなと。

 Kaho Matsuiは今年4作出してて最新作の『in love!(bouquet for heather)』も結構やばい音出てたのでオススメです。


勢いのデザイン

8位 Courting『Guitar Music』

 いまや群雄割拠、飽和状態のUKポストパンクシーン。その中でも聖地リヴァプールの4人組Courtingの新作は一つ抜け出ていた。

 ノイジーなテクノトラックで始まり、ポストパンク、ブリットポップなどで熱を上げつつ、"Uncanny Valley Forever"のような息を呑むほど美しいポストロック、エモナンバーまで幅広いジャンル、ユーモア溢れるアイデアがここに詰まっている。特に"Loaded"のオートチューンとポストパンクの融合はまさに新時代のGuitar Musicサウンドを見せている。

 とんでもなく独創的で高度なことをやっているけれどもアルバム全体としてはマニアックになりすぎず、ポップで「新人バンドの1stアルバム!」としての勢いを保っている、アルバムトータルとしてデザインされているのが素晴らしいと思いました。

 最近のライブではオートチューンを用いたロックサウンドにさらに磨きがかかった新曲も披露。CourtingのSpotifyアーティストページの紹介欄には「Popstars」と書かれている、ここまでのアイデアを持っているならそうなるのも時間の問題でしょう。


キモさの向こう側へ

7位 kurayamisaka『kimi wo omotte iru』

 今年のM-1で一番好きだったネタはカゲヤマの「妹」。中二の双子の妹が出てくるところであまりにもキモすぎで爆笑してしまった。

 突如現れた5人組オルタナティブロックバンドのこの1stEPにも2人の女の子が登場する。このセルフライナーノーツにこのEPのあらすじがこう書かれてある。

【あらすじ】
「私のこと忘れないでね。」春休みも終わりを迎え、松井遥香は進学を期に生まれ故郷を離れることとなる。それは同時に、ただ1人の親友である向井あかりとの別れも意味していた。伝え切れたことなんて何ひとつないまま、発車ベルは鳴り響く。
kimi wo omotte iru 全曲解説

 キモすぎやしねえかあ!?

 カゲヤマのネタは自分と妹が居るが、このEPには松井遥香、向井あかりのただ二人だけが存在し自分は何処にも居ないのである。

 自分は二人の関係に介在しないその姿勢がカゲヤマのそれを完全に超越している。自分が居ないことにより二人の世界に集中することができ物語の中に入り込んだような感覚に陥る。キモさを極めた先にある世界がこのEPにはある。

 作曲がせだいというロックバンドの方がやっていたり、セルフライナーノーツを見るとブッチャーズやナンバガなどが参照されておりアルバム全体を通して"本当"の邦楽オルタナティブ・ロックの音がするのも最高。

間違いなく20年代邦楽オルタナティブ・ロック〜シューゲイズ最重要作。


ズレを演じる可笑しさ

6位 Dry Cleaning『Stumpwork』

 凄すぎるものはその凄さに気づくのに時間がかかる。さらに凄すぎるものは逆に下手に見える。

 立川談志の晩年の落語は下手と評判だったらしい、だが本当に下手なはずはない下手を演出してたのである。間の抜けた落語を演じることで一段上の面白みに到達している。これはほぼ志らくの受け売りであるが、同じようなことを坂本慎太郎に思った。

 今年のFRUE立川ステージガーデンで観た坂本慎太郎のライブがまさにそうで特に冒頭の"それは違法でした"あれは本当にあれで正解なのか未だに考える。明らかにズレてるように感じるし何に合わせてるかもわからなかった。坂本慎太郎も談志の面白みの域に達しようとしているのかもしれない。

 Dry Cleaningの新作『Stumpwork』はそういう面白みを持った傑作だ。楽器隊が技巧的な演奏をしてる中ボーカルフローレンスは淡々と"語って"いる。昨年のアルバムを聴いた時は、ポストパンクの棒読み歌唱も行くとこまでいったなという印象しか受けずなかなかハマらなかった。

 今作演奏がメロディアスに、メロウになったことでこのバンドの異常性が浮き彫りになった。こんなに良いメロディーの演奏してるのになんで喋ってるの??歌えよ!聴いてるとどんどん何故このスタイルなのか分からなくなってくる。分からない状態のまま踊らされる。それが非常にクセになる。可笑しくなってくるのだ。そして時折分離した演奏とボーカルが上手く合わさる瞬間がある、そこが非常に心地よい。まるでよく出来たコントを観てるようだ。

 リキッドルームでの来日公演も観させていただいた。ライブで観るとアルバムで持った印象と少し違う。ボーカルはずっと真顔な印象であったが思いの外良い笑顔をしたり、顔をしかめたりと様々な表情を見せる。淡々と語るボーカルを演じてるのだと思っていたがあれは自然体だったのだ。ギターも想像以上に楽しそうに動き回ってるし、ベースは白目剥いて達しながら演奏してる。坂本慎太郎や談志が何年もかけて演じていたものを若手の彼らは自然体にこなしていたのだ!恐ろしい!!

 邦楽にしか感じないであろう面白みを海外の若手バンドに感じるとは。クールでメロウ、そしてユーモラスな傑作。


孤高と孤独

5位 Yuta Matsumura『Red Ribbon』

 大学入学してから2年間はずっと独りでbandcampを覗くキャンパスライフを過ごしている。そんな中見つけたのがこのアルバム、日本人名が出てくるのは滅多にないので思わず再生した。

 UKのレフトフィールドレーベル〈Low Company〉からリリース。このアーティストを知ってる人はほとんど居ないと思う。レーベル紹介文によると、Low Lifeに在籍していたりオーストラリアのアンダーグラウンドポストパンクシーンにて活躍した邦人だそう。

 今作はそのポストパンクのギターサウンドから離れ、ヴァイオリン、チェロ、フルートを重ねに重ねたダビーで不穏な雰囲気漂うアヴァンポップに仕上がっている。

 このなかなか掴ませてくれないような不穏な雰囲気が私の孤独感に不思議とフィットした。「朝には寝たふり」から始まる唯一の日本語詞ナンバーの"Soko No Ato"は、授業日の朝凄い嫌だけど家を出たら朝日が綺麗でなんとなく良い一日が始まっていくようなそういう素朴な日常の美しさを描けている今年屈指の名曲。

 何回も聴いたのでレコードを購入させていただきました。そのレコードにはYuta Matsumuraの近影が封入されていて、そのロングコートで振り返る姿がどことなくミステリアスで孤高なダークヒーローみたいに感じました。


プロセスを楽しむ

4位 Jeremiah Chiu & Marta Sofia Honer 『Recordings from the Åland Islands』

 今年最も頑張ったレーベルこと〈International Anthem〉からリリースのアンビエント・ジャズ〜ポストクラシカル。

 LAのシンセ奏者Jeremiah Chiuと同じくLAのバイオリニストMarta Sofia Honerの共作。

 2017年にスウェーデンとフィンランドの間に浮かぶオーランド諸島に2人で旅に出た際に録音された作品。

 オーランド諸島を旅する中で録音されたフィールドレコーディングとChiuのモジュラーシンセ、Honerのバイオリンの重なりがなんとも美しい。

 夏は太陽が沈まず、冬はほとんど登らないという普段生きている世界とは時間軸が違うような、オーランド諸島の風景を落とし込んだゆったりした美しく壮大なアンビエント作品。

 アンビエントはプロセスを構築しそれをゆっくりと反復させリスナーに密接に感じさせる音楽であるが、この作品に関してはそのプロセスが北欧の島々を巡るという物理的移動、時間経過となっている。

 旅の中で出会った自然の美しさや人々との交流などがサウンドに詰まっている。音楽を作る上での楽しさみたいなものが伝わってくるアンビエントはこの作品以外に聴いたことがない。非常に稀有な一枚。


フォーク、邦楽の居処

3位 ゆうらん船『MY REVOLUTION』

 今年はずっと「邦楽」を感じさせるものってなんなんだろうと言うことを考えていた。その答えがこのアルバムにはあるように感じたし、同時にまた謎が増えるような感覚もあった。

 このアルバムはバンドとして「フォーク」のレッテルから脱却しようという狙いの元作られており、トーキングヘッズ、アーケード・ファイア、LCDサウンドシステム、ヴェルヴェッツそしてサニー・デイ・リアル・エステイト、デス・キャブ・フォー・キューティー、安室奈美恵、宇多田ヒカルなどなど多種多様なジャンルを参照している。

 だが、どの楽曲にもフォークっぽさを感じることができ、ジャンルを広げれば広げるほど邦楽フォークの可能性をどんどんと広げていっている形となりそれが非常に面白かった。

 今年はBig Thifeやcarolineなど世界でフォークの傑作が次々と産まれていたが、『MY REVOLUTION』はコンパクトに、そしてダンサブルにフォークそして邦楽の可能性を大きく広げた重要作。


俺たちは2年間何してたか

2位 The Orielles『Tableau』

 このパンデミックになってからの2年間、リモート授業になったりと私自身結構暇な時間が増えた。bandcampでディグったり、サブスクで映画みたり、アニメ見たり、お笑い見たり、寝たりなど振り返ると割と無駄な時間を過ごしていたなと思う。

 これを読んでいる皆さんも同じ境遇だと思う。ここで考えてみてほしいのが、もしこの2年間"全て"を音楽制作にあてていたらと、それを実現したのがこのアルバムである。

 マンチェスターDIYインディーバンドThe Oriellsは2020年に新作アルバムを携えツアーを行う予定であったがパンデミックでキャンセル。そこでキッパリと音楽制作に取り組んだ。実験に実験を重ねる。

 その実験は行くとこまで行っていた。インタビューによるとスタジオに入り、目隠しをして楽器を取って、目隠ししたまま演奏していたらしい。もう訳がわからない。

 2年間の音楽実験によって生まれた全く聴いたことのないサウンド。このアルバム1音1音にどれほどの手間がかかっているのか私には全く検討がつかない。


数十年残るアルバムを建築する

1位 betcover!!『卵』

 2年前横浜市役所の新庁舎が完成した。適度にオープンスペースがあったり、特に水際線の広場は親水性の高い憩いの場となっている。

 庁舎は最低限業務が行えるスペースがあれば十分であるがそれでは良い庁舎とは言えない。市民が集まるような空間、適度な余白が必要なのである。

 betcover!!の今作は良い庁舎の作り方に近いアルバムの構成をしている。収録されている楽曲はリリース前にライブで披露されていて、私は何度も新曲を聴いていて今回のアルバムは割と激しめになるのかなと思っていた。しかしいざリリースしてみると割と余白を感じられる落ち着いた仕上がりとなっていた。

 このアルバムのピークと言えるのは2曲目"超人"である。そして"超人"以外の楽曲はそのピークを越えることはない。越えることは無いものの退屈させることなく何度もプログレやジャズを飲み込んだ独創的な展開を見せる。アルバムトータルとして適度な余白を残しつつ完成させているのである。

 このピークを意識した構成は前作『時間』には見られなかった。"二限の窓"終盤の音割れギリギリのテクノサウンドなどそういう突飛なことをせずに、『卵』しっかりと構成で魅せることが出来たのはこの一年で驚異的な成長である。

 建築そして都市計画において余白は心地よく過ごすために非常に重要である。優れた造形であったとしても計画範囲ギリギリであるとどうしても居ずらい。大学の教授に散々言われてきた計画範囲を意識させないデザインというのを『卵』を通じて気づくことが出来た。

 もう一つ良い庁舎の条件としてあるのは、オープンスペースを市民が自由に使えるということである。オープンスペースの用途を役所で制限しないことで真に居心地の良い空間が生まれる。それはデモをも受け入れるという事であり、相当な覚悟を要する。

 betcover!!にはその批判にも耐えようという覚悟があった。その覚悟がよく表れているのが3曲目"壁"の歌い出しだ。「看護婦」という言葉が使われている。「看護師」としなかった、ここに強いこだわりが表れている。このアルバムは全体的にとして70〜80年代の歌謡曲など古き良きアダルティなムードが漂っている。そのムードを守るためには「看護婦」でなければならなかった。この部分からアルバムに対する覚悟を非常に感じられた。

 公共的な建築物は何十年も使い続けられるため人々に開かれ、そして強固なものでなければならない。betcover!!20代前半で完成させたこの適度な余白と覚悟をもった『卵』今後何十年も聴き続けられる強いアルバムである。


 この記事を書いている間に建築家磯崎新が亡くなられました。彼が丹下健三に対して提示した都庁コンペ案そして他の様々な建築は人々にたいして柔らかく、都市の未来を強い意志を持って見つめていたと思っています。

 分野は違えど1人の若者が同じように強い意志を持って作品を作っていること私は嬉しく思います。


最後に

 音楽は他の絵画、彫刻そして建築と違って一生残る。でも聴かれなくなったらそれは価値が無くなってしまう。ここで選んだ10枚は人々に開かれていてそして強度のあるものだと思います。一枚でも気になったらぜひ聴いてほしいです。

上半期ベストもぜひ読んでほしいです。


では良いお年を



1位 betcover!!『卵』
2位 The Orielles『Tableau』
3位 ゆうらん船『MY REVOLUTION』
4位 Jeremiah Chiu & Marta Sofia Honer     『Recordings from the Åland Islands』
5位 Yuta Matsumura『Red Ribbon』
6位 Dry Cleaning『Stumpwork』
7位 kurayamisaka『kimi wo omotte iru』
8位 Courting『Guitar Music』
9位 Kaho Matsui『S/T』
10位 佐野元春『今、何処』

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