月曜日の嘉陽田さん 第一話 高校1年1月 その1
「朝子!早く起きなさい!」
「んー、あと5分…」
「それ何回目だと思ってるの?もう起きないと遅刻するわよ!」
「ん、お母さん今何時…?」
「もう7時40分よ!早く起きてご飯食べなさい!」
「んー、こっちにご飯持ってきて…」
「布団が汚れるでしょ、そんなことしたら!」
「私は超人。布団を汚さないで寝たままご飯を食べられ…」
「なにバカなこと言ってるの!いい加減にしなさい」
お母さんはそう言うと、私の布団をひっぺがした。寒いもう起きなきゃ。
私の名前は嘉陽田 朝子。東京生まれヒップホップ育ち。
見慣れない苗字だと初対面の人は言う。祖父の出身地・沖縄の姓らしい。
朝子という名だけど、朝は大の苦手。学校が午後1時開始だったらいいのに。ていうか、学校も試験もなんにも無ければいいのに。つまり私はオバケくらいがちょうどいいゲゲゲ。
「朝子、何ボーっとしてるの!食べたら髪の毛ちゃんと整えなさい。お父さん待ってるわよ!はー、まったく誰に似たのかしら?」
お母さん。たぶん先祖返りだよ。10世代くらい前のばあちゃんの。江戸時代は今より仕事も学校も緩やかだったから。
熱湯で注いだコーンスープが冷めかけている。、一応、形だけでもフーフーしながらご飯と一緒にかきこむ。
「早く髪の毛セット!着替え!8時だよ!」
ネット配信のドリフ(だっけ)で観たとおり「全員…」と言おうとして、寸止めした。寸止め。うん、寸止めできる私は強い。
ドライヤーをかけてて思ったのは、そろそろまた髪を染めなきゃ、ってこと。オキシドールを帰りに買うか。
成長して少し小さく感じる靴を履いて、共働きの両親に、早歩きでついて行く。まぶしいぜ朝日。私をこんなに輝かせてくれる。
学校までは4駅だ。これが小説なら、角で転校生と激突してハートが飛び出すし、痴漢に触られて私がカワイク撃退する流れなんだけど。腕をつかんで「ダメだよ♡」なんて言ってさ。
はー、今週も始まっちゃった。授業ウザいせんせーウザい。5日にわたって階段の踊り場で時間つぶして週末まで我慢だ。
仲間たちに粗相が無いように、服装チェックしなきゃ。ミニスカ、ばっちり。胸元、キュート。顔、、、窓の反射がなくてわからん。手鏡出して、と。
鏡を開いたとたん、素晴らしい世界の扉も開いた。朝の眠気が一掃される勢いで。
すぐ後ろに……超イケメン…………すぐ後ろにすぐ後ろに。ハートが飛び出してしまった。
気づくと私の右手が勝手に本能のまま、動いていた。明らかにウチの制服を着た劇団俳優(たぶん)の股間をめがけて。まさぐりたい、まさぐりたい。私の息が荒いのが分かる。
そしてガシッと手を掴まれた。今の私にとっての「抱かれたい男No.1」の声が聞けた。
「ダメだよ♡」。しかもイケボで。
その後の記憶がない。気がつくと私は保健室のベッドの上だった。
「……さやかせんせー、私どうしたの?」
「急に電車内で失神したらしいのよ。今日、転校してきた、あー名前なんだっけ、その、その子に抱っこされてここまで来たわ」
て、転校生…?抱っこ…お姫様抱っこ(たぶん)…?
「嘉陽田さん?ちょっと、嘉陽田さん?」
次に目覚めるまで、1時間ほどを要したらしい。いい夢、見たと思う。そして、新学期早々、夢のような日々になることを願った。
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