募る想い(味噌椀エントリー)

 豆腐もわかめももう飽きてしまった。自分だけのアイデアでは限界がみえていた。私は思い切って外の世界に飛び出してアンケートを募った。最初にブナシメジが訪ねてきた。ああ、そうだった。どうして浮かべることができなかったのだろう。その後もどこにでもある具の面々が味噌椀を訪ねてきた。玉葱が、じゃが芋が、人参が、トマトが、油揚げが、あおさが、しじみが。みんな味噌汁に入ることは光栄なようだった。
 そんなある日、小猿が訪ねてきた。

「ぼくも浸かってもいい?」
 小猿は温泉か何かと間違えている様子だった。
「ごめん。もう募ってないんだ」
「えっ。もう募ってないんだー」
 小猿はチェッと舌打ちして引き上げていった。
 少し悪いことをしたかな。

 次の日にはまた新しい訪問者があった。
「あなたは……」
「まだ募集してますか?」
「はい。勿論」
「よかった」
 うれしそうに微笑んだのは里芋さんだ。
 私の中に募る想いはまだまだ冷めそうにない。


#小説 #トマト #募る #味噌汁

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