青の時代

 交差点の真ん中で立ち止まると君は折句の扉を開いた。あらゆる言葉たちが一帯に満ちあふれている。見知らぬ人の横顔に言葉が貼りついている。身に余るサイズの若者の袖口から、言葉がはみ出している。コツコツと杖が打つ地面から素朴な言葉のキレハシが湧き上がってくる。青の時代が長く続いた。陽気な者が吹く音程を外した口笛の端から出来損ないの言葉が逃げ出そうとしている。君はうれしさにたまらなくなって折句の網を大きく広げてその場に佇んでいた。

 この時代が永遠に続けば……。永遠に歌い続けることが約束されている。幻想は束の間のものだった。無限に広がっていたはずの期待がゆっくりと萎んでいくように感じられる。無数に存在しているように見えるのに、確かな言葉は一つとしてかかってはこない。言葉はあまりにもあふれすぎていた。

「とても触れることができない」

 宝の運び手であった人の顔が人形のように映る。プログラムに制御されて各地へ向かう自動人形だ。あきらめに流されるように君は交差点の傍観者になっていた。徐々に自動人形は縮小されて軽くなって緑色に染まり始めた。君の周りを流れていくのは無数のバッタたちだった。どんなに大きな折句の網を持っていたとしても、そこにかかる言葉は存在しない。

 途方に暮れている内にバッタは呼吸を止めて記号に変化した。記号はやがて集合して人の形に戻り始めた。メロディーが変わり、人々は一斉に歩調を速めた。

 けたたましいサイレンを発し赤い光の冠をつけた車が何かを捕らえようと急発進した。「行け行け!」やましいものを抱え込んでいた人々が、応援するかのように声を上げた。


早送る痛く愚かな応酬は
まとめてみんな過ぎ去るがいい


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