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猫か人か

 窓の外で子供がなき続けていた。感情を素直に爆発させることができるのが子供の特徴だ。しばらくして、それは猫かもしれないと君は思う。猫が野生の感情を爆発させるようにしてないているのだ。なきに子供の甘えが入り交じる。猫が子供の声を上手に真似ているのだ。世界に訴えかけるようにないている。

 完全な子供になった。ならば大変なことだ。君の感情が騒ぎ始める。子供がなき続ける時は大人の助けが必要だ。硝子の向こうの遠いところから助けを求めている。こんなに響くのに周りに誰もいないのだろうか。念を入れて君は子供のなき声を聴いている。猫のあどけなさが入り交じる。野生の荒さが濃くなっていく。また猫が戻ってきた。木の上から人を見下ろしながら猫がないている。どこで覚えたのか、憎たらしいほどの上手さで子供の幼稚さを真似て猫はないている。巧みに抑揚をつけながら、どこか歌うように声を操り始めた。

 いつまで聴かされるのだろう。君ははじめて自分の身になって疎ましさを覚え始めた。寂しいのだろうか、苦しいのだろうか……。野生の声が狂おしく渇望するもの。それは子供かもしれない。猫の一節が徐々に長く、また力強さを増していく。

 その向こう側からまた子供が戻ってくるようで恐ろしくなった。
 君は折句の扉を開いた。猫を越えてまだ何でもないカナが部屋の中に押し寄せくる。動物的なテーマを片隅に置きながら、君は手を広げて新しい言葉を受け止めようとする。感情を上手く制御することができなければ、言葉は指の先にさえもかからない。ないている声が、まだ君の心の多くを占めたままだった。君は指で言葉の枝を1つ折った。節はつながることなく、どこにも刺さるところを見つけることができなかった。何かを新しく組み立てるには、自分の声が必要だ。とりとめもなく宙を漂うカナの間から、また野生の歌声が入り込んでくる。

 それは新しい猫だった。高い木の上で猫と猫の合唱が始まった。あるいは戦いだ。けれども、その内にどちらかは子供にかえりまた猫にかえり、どちらもが子供にかえったり、猫になったりしながらおかしな天気のように落ち着くことがなかった。


追い炊きの
文字を信じて
手を合わす
長く冷たい
詩のワンルーム

折句「おもてなし」短歌


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