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秘伝のたれだと?

 大切なボールペンがどこかに埋もれている。それを見つけ出すことが僕に与えられたミッションなのだと思う。せっかくなのに、迎合することなどできるものか。どこ行くの? 行くの? 本当に? あなたも? 一緒に行く? 同じようなキーワードがピンボールをしているようだった。「まあ待て」そのような中にあっても、自分の態度を保留している策士も存在していたが。僕はゆっくりと席を立った。教室を抜け出し、階段を下りる。ガヤガヤガヤ♪ ガヤガヤガヤ♪ 誰からも呼び止められない。霊のように抜けていく。

 やっと明るい世界に抜け出すことができた。笛を吹けば吹くだけいい曲ができていく。鴉、猫、イタチ……。共感を示すものたちが、集まり僕のあとをついてくる。いいね♪
 僕はこれから新しいクラスタを作るのだ。ノー・マスク、ノー・カテゴリ。


 横たわりながら硝子戸を叩き看護師を呼んだ。午前中に自分で手術をしたので入院させてほしいと頼んだが、彼女は渋い顔をした。

「無理ですよ。この街のボスが……」

 やっぱりそうか。この街はまだボスの影響が強く、入院もままならない。僕は首の皮が不安定な状態に耐えねばならなかった。
 スーパーの店先には家が2軒3600円で売られていて、魅力的な物件のように思えた。しかし住むとなると常に騒々しいことは予想されるし、健康面の不安もあった。だいたいこういうのは商売をする人用のものではないか。


 この鶏は旨い! たれが旨い! と親戚の人たちが焼き鳥のことを誉め始めた。しかし、それはこの前食べたチェーン店の味と同じだった。なぜ、気づかないのだ? 揃いも揃って味覚音痴だろうか。叔父さんの同級生という人が突然現れて、テーブルの主役となった。話題が一気に昭和に遡ったのは、店のBGMのせいでもあった。


 バスタオルを求めて僕は百均ショップに飛んだ。ここが一番いい。店内を歩きながら、確信が深まる。他とは違う。普通のもの、大きいもの、おしゃれなもの、バスタオルだけでも色んな種類があって迷うくらいなのがいい。

「ちょっと並んでくださいよー!」

 角を曲がったところでいきなり怒られた。

「いや、見てるだけです」

 まだ会計に進むつもりなどなかった。ただ商品を見ているだけだったのに。女は僕の見ているものに対し納得がいかない様子だった。

「そんなわけないよね」

「いやほんとに」

「みなさーん! この人見苦しい言い訳してますよー!」

 認めるか立ち去るかしないと許さないという態度だ。
 僕は自分の首をつなぐための道具を探しにきたのだ。

「糸がいるんで……」

「はあ? なんで?
 バスタオルと糸って!
 男なのに!」

 いや関係ないだろ。



#裏切りの街 #夢 #小説 #焼き鳥


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