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エビデンスの迷宮

「お前は何らかの動機を抱え込んでいた。人知れず胸のどこかにずっと隠していたんだ。お前は何らかの足でこの街にまんまと転がり込んだ。何食わぬ顔をして道を行くお前が街の防犯カメラに映っているぞ。お前はお前の顔から逃げることはできない。そしてお前は、何らかの発想を抱き密室のトリックを作り出した。内心では誰かに自慢したいのをぐっと堪えることによって、トリックが完全なものになるよう企んだんだ。しかし、それにも関わらず、その完全に見えるトリックを外側からあぶり出そうとする者もいた。包み隠そうとするほどに暴かねばならぬものもあるのだからね。言ってみればそれは、人類が大昔から持ち合わせている知的探究心のおかげだ。だが、お前はそれさえもお前自身のエゴによって何らかの手段を用いて密室の中に閉じ込めようとした。ここまではいいか」

「ああ」

「お前は物心ついた頃から、何があろうと何食わぬ顔ができる術を身につけた。きっと何らかの事情があったに違いない。それによって今までに何人もの人が欺かれてきたことだろう。普通ならば抱え切れないほどの疚しさを抱えて吐き出してしまいそうな状況に立ったとしても、お前はそれを何食わぬ顔によって乗り切ることができた。顔そのものがお前の逃走を助け、まるでタクシーのように走り去ることができた。お前はその若さで、実に様々な何らかの顔を持っていたらしい。しかし、ここで言うところの顔とは、お前が得意としている何食わぬ顔の顔とはまた違う意味を持つ顔と言える。顔については、これ以上いいだろう。刑事さん、いいね」

「そうだな」

「さて、本題はここからです。お前は何食わぬ顔をして罪を重ねた。顔が武器というわけじゃない。しかし、お前が走り去った後にだけ今まで見られなかった死体が転がっている。エビデンスが欠けていることを盾にしてお前は逃げ切るつもりだったのだろう。だが、そうは問屋が卸さない。問屋は歴史的な市場だからだ。お前が所持した顔以外の凶器によって葬られた幾つもの死体たちは目を見開き、執念の光でお前の顔をさしたのだ。その時、死体たちは怨念を共有しつつ問屋として連なりお前を許さないことにしたのだ。神さましか裁けない。お前はそう信じ込んだ。だが、お前の前に俺が現れるところまでは計算外だったんだ。ちょうどマークするカテゴリから外れていたんだな。恐らく何らかの理由だろう。観念しろ密室の魔術師、犯人はお前だ! さあ、刑事さん逮捕して!」

「よし」

「いや、俺じゃねえ! あいつが犯人だって」
「うるさい」
「刑事さん、話をちゃんと聞いてた?」
「いいからうるさい!」
「俺が何したってんだよ」
「しゃべりすぎだ!」
「違うよ。事件を解決したんだって!」
「弁解は署の方で聞かせてもらおう」

「おい、お前! 逃げるな、犯人!」
「大人しくしろ!」
「あいつ逃げるぞ。犯人はあいつだって!」


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