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【小小説】ナノノベル

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短いお話はいかがでしょうか
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2022年12月の記事一覧

反逆のポリバレント

反逆のポリバレント

 ピッチの中に入った俺たちが最初にやることは、俺が中心となって1つの輪を作ることだった。腕を肩に腕を肩に腕を肩に……。密に顔をつきあわせて、俺はみんなに伝えるべきことを短くまとまった言葉で伝える。昨日監督が言ったことは、もう忘れられている可能性がある。あるいは、色々ありすぎて最も大事なことがぼけてしまっていることもあるだろう。何を置いてもなくてはならないこと、事の本質を拾い上げて、俺は至ってシンプ

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窓の女(ダイナミック・ウィンドウ)

「すみません。ラッキーストライクください」
「ごめんよ。うちはうまい棒と消しゴムの店だよ。何味がいい?」
 ランドセルを背負った少年は何も買わずに帰っていった。

「はい、いらっしゃい」
 青年は酷く調子が悪そうだ。
「夕べから熱っぽくて……」
「食前に1錠、朝夕2回2週間分出しとくよお大事に」
 薬を受け取ると青年はせき込みながら帰って行った。

「いらっしゃい」
 次々と客が押し寄せる。この街

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今日と明日のルーティン

今日と明日のルーティン

「お急ぎの方、お先にどうぞ!」

「お次の方、ちょっとお待ちください。只今、大急ぎの方がいらっしゃいました。大急ぎの方、お先にどうぞ!」

 この店は行列のできる大繁盛店。私はいつも列の後方に並んでおとなしく順番を待っている。どれだけ早く来て列に並んだところで、必ず自分の番が訪れるとは限らない。なぜなら、世の中には急いでいる人が多すぎるからだ。

「無茶苦茶お急ぎの方、真っ先にどうぞ! 少々お待ち

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ゴースト・タッチ

ゴースト・タッチ

 人間の半分は眠りで出来ている。「眠れないな」と思い始めた時には、だいたい本格的に寝つけないのではないだろうか。調子のよい時はほとんど何も考えずに、気づいたらもう眠っている。(気づかないから眠っているのだが)眠る前にスマホを見るのはあまりよくないとされている。しかし、スマホはあまりに近すぎる。今や親兄弟よりも遙かに近い存在だ。駄目と言われて触れずにいることができるだろうか。
(スマホがあれば怖くな

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相談将棋 ~純粋に水をさすもの

相談将棋 ~純粋に水をさすもの

 儚い1分をつないで永遠をつくることだってできる。許されるならずっとそうしているのかもしれない。読み耽っている間は歳を取らず、風邪を引くこともない。徐々に棋士の縦揺れが速くなっていく。前のめりとなり勝ち筋を追求しているに違いない。遠目には何もしていないように見えて、実際には壊れるほどに動いている。脳内を占めているのは、玉を中心に存在する世界。そこには蠅1匹として入り込むことはできないのだ。純粋であ

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家庭訪問美術館

家庭訪問美術館

「繰り返し問題が起きたため50年先のnoteを表示しています」
 サイトに生じた度重なる問題のために先が見えた。
 未来の私は小説から離れてパラパラ漫画を熱心に描いている。新しい知らせが届く。ベルをタップすると問題が起きた。
 もう一度タップ。
 画面が真っ白になってサイトがリロードされる。
 私は次の漫画を投稿しようとしていた。熟成下書きのお題が受け付けられない。
「まだ熟成されていません」
 

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ライブ(真夜中の肉食獣) 

 人の数だけ理想の形はあるのではないか。ある人は音楽などなくても何も困らない。だが、ある人はロックがなければ息もできない。ある人にがらくたであるものが、ある人には不可欠だ。しわわせとは、飢えを満たすことではないだろうか。俺の飢えは、あなたの飢えとは違う。俺は俺であなたはあなたであるということだろう。俺は真夜中の肉食獣。今夜も満たされる瞬間を求めて街をさまよっている。

「テクニカルチキンとトロピカ

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念仏は馬の耳に

念仏は馬の耳に

「馬が念仏を求めて来ております」
「馬が? どんな馬だ」
「追い返しますか?」
「いや。奇特な馬だ。少し聞かせてやれ」
「わかりました。では、私が」

チャカチャンチャンチャン♪

「和尚、また来ました」
「何また馬が来ただと?」
「追い返します」
「ばかもん! お前は気が短い」
「すみません。あの馬がうるさいもんで」
「聞かせてやれ」
「はあ」
「聞きたがってるんだろ。聞かせてやれよ」
「では私

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スープ・カレーを召し上がれ

「誠に申し訳ございません。ご注文いただきましたスープ・カレーでございますが、私の不注意により少々スープをあふれさせてしまいました。お届けできる状態でないと判断できるため、ご注文をキャンセルさせていただき、こちらの方で引き取らせていただきます。この度は誠に申し訳ございませんでした」

「大丈夫です。構いませんのでそのまま届けてください!」

「恐れ入ります。せっかくご注文していただいた商品を、完全な

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ロング・ファイト(2000ラウンド)

 ノックアウトの予感を越えて、私は50ラウンドのリングに立っている。激しいパンチを交えながら、試合の中でさえも成長する。私は自分ののびしろに驚かされる。そんな私を前にガードを固め、フットワークを駆使しながら向かってくる相手も大したものだ。倒れない限り、ファイトは続く。ゴングとゴングの間に注がれるお湯。一息つく間、私は青コーナーでたぬきを食べた。ちょうどいい補給。そして、また立ち上がる。

 眠って

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魔法のお茶

魔法のお茶

素敵な note ですね!

さて本題に入らせていただきます。
私は九州の方で美味しいお茶を作っております。
読ませてもらったお礼と言っては何ですが、今なら通常価格不明のところを特別限定価格初回に限り最大で0円にてご提供させていただけることになりましたので、いますぐご注文してください!
なお、翌月からは前金で最小で2万、他に別途サービス料(時価)、翌々月からは更新料として総額最小で1000円(時勢

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超速の銀/一局の将棋

超速の銀/一局の将棋

(この銀が間に合うだろうか)

 次の一手を求めるために先の先を読まなければならない。無数の物語の中から今の自分に必要なものを読み分け、最善を上書きしていく。

 読みには何より速度が重要だ。湧き出るイメージを束ねて取捨選択するには、速度がなくては。ゆっくり読んでいては脳波に隙が生じる。後悔、奢り、丼、うどん。様々な邪念が介入することを防ぎ切れない。最悪の場合、睡魔に襲われてしまうだろう。厄介な追

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チープ・ノベル

チープ・ノベル

 おじいさんは短いお話を書いた。書いては投じ、マネタイズされたサイトでささやかな収入を得ては柿の種を食べ、日々を生きていた。おじいさんのお話は、冬休みのようだった。あるいは、花火のようだった。

「それにしても高い」

 肉が魚が野菜がお菓子が、スーパーに買い物に行く度に、おじいさんは物が高くなっていくことに驚きながら、逆に値崩れが止まらない自分の小説のことを思った。
 前回は1万字のお話だったが

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タイム・オーダー

タイム・オーダー

 電車が通過することだけを待つ時間。針の上を歩いて行く時間。勝ちを読み切ろうと前傾姿勢を取っている時間。それらは同じ時間だろうか? 1分ずつ正確に削り取られていく時間に、私はずっと追われている。詰めば終わりの世界を、私は生き延びるために必死だ。優勢にみえても未知の要素が消え去らない限り、恐怖もまたなくならない。それは欲望にも等しかった。守りたい。大事にしたい。生き延びたい。最善手は? 答えを探し始

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