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【小小説】ナノノベル

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2022年10月の記事一覧

真夜中のダイバー

真夜中のダイバー

 俺はしあわせの運び人だ。アンパンからマカロンまで甘いものなら何でもフォローしている。現在は人々が移動を大幅に制限される時代だ。そんな中で俺たちはすべての人の足となって、ささやかな願いをかなえている。俺たちは既に路上からは離れた。空の道を開拓することによって、より効率的な配送が可能になったのだ。

 俺たちが運べるものは、別に甘いものに限らない。衣服でも日用品でも、何なら高価な貴金属だって運ぶこと

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ライン虫(夜明けの詩)

ライン虫(夜明けの詩)

 悪夢から醒めた時、太陽はなく真っ暗な倉庫の中だった。交信はなく、さほど空腹でもなかった。覚えがないというだけで、きっと長い罰の中にいるのだろう。闇を見続けている内に、徐々に目が慣れてきた。

「思ったほどじゃない」

 来た瞬間はそう思えただけだった。真っ暗でもなければ、倉庫でもないのかもしれない。あらゆるものに輪郭があることがわかると、生きている世界に手触りがあるように思えた。少し歩き回る内に

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