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真夜中のダイバー

 俺はしあわせの運び人だ。アンパンからマカロンまで甘いものなら何でもフォローしている。現在は人々が移動を大幅に制限される時代だ。そんな中で俺たちはすべての人の足となって、ささやかな願いをかなえている。俺たちは既に路上からは離れた。空の道を開拓することによって、より効率的な配送が可能になったのだ。

 俺たちが運べるものは、別に甘いものに限らない。衣服でも日用品でも、何なら高価な貴金属だって運ぶことができる。しかし何でも急に拡大することは危険だろう。簡単に原点を見失ってしまうからだ。まあ、俺が心配することでもないか。とにかく俺は今、宙に浮いて目的地に向かっている。自分語りもこの辺にしておこう。俺の日記はそう読まれてはいないようだ。ためになるようなことは何一つ書いてないから当然だろう。近頃の人々の興味と言えば、動物かスイーツ、とても狭い範囲と決まっている。俺が今売り込むべきは自分ではなく、スイーツの方だ。
 さあ、目的の14階までたどり着いた。窓には鍵がかかっているようだ。俺は躊躇することなく硝子を突き破って部屋に入った。


「毎度! ダイバー・スイーツです」

「ち、違うんじゃないの」

 男は少し驚いた様子で俺の方を見た。


「いえ合ってますよ」

「それにどこから入ってるんだ?」

「スピード感が大事なんで」

「安全はどうでもいいのか?」

「飛び込まないと始まらないんで」

「君は間違ってる! もっと地に足を着けてやりたまえ!」

「そんなんじゃやっていけませんよ」


「さあ帰った帰った」

 男は商品の受け取りを拒んで俺を追い返そうと躍起だった。
 その時、不意に玄関のドアが開いた。


「誰なの? あなたたちは!」

「くそっ、計画が丸潰れだ」

 男が懐から凶器を取り出そうとするのがわかった。俺は迷わず男の胸を撃ち抜いた。入ってきた女の態度から、彼が招かざる侵入者だとわかったからだ。男は銃弾を受けてその場に倒れた。もう説教じみたことも言えまい。


「こんなこともあろうかと思ってね」

 飛び込み先ではどんな危険が待ち受けているかわからない。自分の身は自分で守らなければならないのだ。


「ご注文の品は、こちらでよろしかったでしょうか?」

 女は電話を片手に住所を告げながら軽く頷いてみせた。
 あとのことは専門家たちに任せよう。
 俺は相棒のリュックを背負って、窓から飛び出した。

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