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戦地に咲く花火


今も他国で落とされ続けている爆弾をすべて、花火の火薬玉に変えたい。果たして、どんな光景になるだろう。争いの手を止めて、夜空を見上げる兵士は、どのくらいいるだろうか。それでもなお、戦争は続くのだろうか。



◇◇◇


今日、ウクライナの輸血センターが爆破された。


輸血センターが爆破されるということの意味を考えてみてほしい。

血液は、生身の人間の体の中で作られた、生命の一部だ。

血液製剤がある、ということは、そんな自身の一部を、負傷した人の為に提供した人がいるということで、それを安全に管理する為に昼夜働いていた人がいるということで、輸血さえすれば一命をとりとめる可能性のある人を選別し、治療にあたっていた人がいるということだ。

今日、爆破された輸血センターでは、死者が沢山出たという。

普段、私は何かに対して怒るということがほとんどないが、このニュースを見た時の怒りを、どう抑えることが正解なのか、本当に、分からなくなった。



ウクライナの負傷兵を、日本国内の病院で治療することが決まり、来日が始まっている。

総理が、ウクライナのゼレンスキー大統領が来日した時、受け入れの方針を伝えていた。外国の負傷兵を受け入れるのは、日本として初めてだそうだ。

防衛省によると、1〜2か月間治療をしてかかるリハビリなどの費用、およそ220万円〜420万円は、日本側で負担するという。


ウクライナの兵士は、私と同じ20代だった。


悲惨な現場から、怪我をしたから(こそ?)安全な国・日本で治療を受け静養することができる。

負傷兵の中から、なぜ彼らが選ばれたのだろう。
日本で、日本のお金を使って、治療とリハビリを重ねた後に彼らが帰るのは、また戦地なのだろうか。


どうして世界は、こうなのだろう。


いのちを大切にしないやつなんか、大嫌いだ。



どうか今、撃たれようとしているそのすべての爆弾を、でっかい花火の火薬玉にすり替えてはくれないか。



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中島みゆき『時代』


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『テレスコープ・メイト』

「あのね。・・あのね、私ね。私は私の力で助けたい人がいるし、未来にはそれを待ってる人がいるって信じてる。

私には、妹がいたの。3年前に、生まれたの。病院でね、生まれるところを、見たんだ。助産師さんが、おいでってしてくれて。お母さん、とっても健康で元気だから、赤ちゃん、きっとするっと出てくるから、そばにいてあげていいよって。そばで見てていいよって、そう言われたの。そうしたら、本当にするってでてきた。
すっごく元気に泣いてたんだ。お母さんも、とっても元気だったんだよ。でもね、戦争が始まって、お父さんは兵隊さんになって会えなくなっちゃって、お母さんと妹と、ずっと逃げていたの。すっごく怖かった。どこにいたって何かが爆発する音が聞こえるの。叫び声とか怒鳴り声とか、すっごくすっごく聞こえるの。妹が、泣き止まなくって。一緒に隠れていた人達から、静かにしてって、毎日怒られた。それでも妹は泣き止まなくて、お母さんと私は、毎日、シェルターの中で、居場所が、なかった。そしたらね、お母さんが、急に、ちょっと待っててねって言って、出ていったの。2日、帰ってこなかった。なんであの時、一緒に私も出ていかなかったんだろうって、悲しくて悲しくて、何も考えられなくて、どうしようもなくて・・・

そしたらね、2日後に、お母さんが、いつもの優しい顔で、帰ってきたの。妹が・・・いなかった。どうしたの?って聞いたら、私のポシェットの中に、封筒を入れた。”あなたが、あなたとして、生きられる場所に行くわよ。”って。そんな場所があるの?って、もう、戦争は終わったの?って、いっぱい聞いたんだけど、お母さん、私の手を繋いで、歩き続けた。そしたらね、知らない場所についたの。その場所にいた男の人に、”この子のポシェットの中に、入っています。”って、そう言って、私に、その男の人と、手を繋ぐように言ったの。それでね、、、、お母さん、一緒に行かないの?って、何度も聞いても、お母さん、いつも、学校に行くときとおんなじようにね、”行ってらっしゃい”って、何度もね、何度も、、、、、」


それは、ショーンにとっても、初めて聞く話だった。


「眠っていたのかもしれない。忘れちゃったのかな。分からないけど、気付いたら、アメリカの空港にいたの。いろんな人が大勢いた。なぜだか私は、誰だか知らないたくさんの人達と一緒にアメリカにいた。食べ物をたくさんもらった。なんで、なんで私はここにいるの?お母さんは?なんで?どこに行ったの?何度も何度も聞いてもね、誰も答えてくれないの。

それから数週間経ったのか、時間とか、日にちの感覚がなかったけれど、しばらくして、ショーンのお父さんが、私に会いに来てくれた。今日から、家族だよって、急に言われたの。家族?家族って何?私の家族はウクライナにいるよ。私はなんでここにいるの?聞きたいことだらけだったけど、誰も、何も、教えてくれないの。分からないの。なんで私だけ生きているのか。

分からないの。なんにも。


・・・だけど、私ね、本当は、助産師さんになりたいと思っていたんだ。

妹が生まれた時からずっと、そう思っていたの。
生まれたら、死ぬ。
死ぬってことは、生まれた事実も確実にあるの。
その二つを大切にできる人になれたら、
生まれてから死ぬまでのそのあいだも絶対に大切にできると思うの。

そして、それを知ってるからこそ人に伝えられるし、伝えないといけないと思うの。少しでも生きることを大切にしてもらえると思うの。
本当は救いたい人が沢山いるよ。
身体もそうだけど、心も救ってあげたい。
そんな助産師さんになりたいって、夢があったんだったなってこと、もう随分、忘れちゃってたよ。」

「ディーナ・・・」

「月に行けたら、ね。助産師さんに、なってもいいかなぁ」

「なっていいよ、なろうよ!月に、赤ちゃんが生まれる場所、つくろうよ。月で生まれたら、その先はずっと安全に暮らせるよ。」

「うん、絶対。約束する。僕は、まず、NAZAで働く。月のこと、宇宙のこと、調べるよ。エイジューは、地球に残って、月まで行ける大きい飛行機をつくってくれ!ディーナも、助産師さんになるための勉強するんだよ。」

「おう!”月に行けたら”じゃ、ないよな。行ったら、だよ。行けるから。絶対、行けるから。」

「・・・ありがとう。私、この夢を持てて、幸せだよ。」

ありがとう。


ディーナは、ウクライナで今もきっと、生きているはずの母を思った。

泣くほど叶えたい大切な夢を持たせてくれて、ディーナを生んでくれてありがとう。夢に対して、なりたいことに対して、こうなりたいって思いすぎて泣けたことなんて初めてだった。こうなりたいって思いが強くて、でもまだそんなこと出来るはずない歯がゆさと、なってやるって強い思いがぐちゃぐちゃだ。お母さん、みててね。がんばるから。



ディーナは、ショーンの望遠鏡をのぞきながら、月を見て言った。



「私たち、きっと、テレスコープ・メイトだね!」

『テレスコープ・メイト』第8話-理由-より


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