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カメラの話を徒然に(9)

フォクトレンダー(4)・ヴィトマティック

距離計式レンズ固定カメラ

フォクトレンダー社のレンズ固定式カメラといえば、先に紹介したヴィテッサが有名であるが、この距離計連動やシャッターチャージを巻き上げと同時にできる先進的な機構をもつカメラと並行して、ヴィトーという蛇腹折り畳み式、ピント目測、シャッターチャージは連動しない、というシリーズも存在した。そのカメラが蛇腹折り畳みをやめて固定鏡胴のヴィトーBシリーズになる。固定鏡胴になったため折り畳みはできずレンズはボディから出っ張った形になるが、巻き上げとシャッターチャージは連動するようになる。これが大型ファインダーを搭載し露出計を搭載したBL型、連動距離計付きのBR型へと発展し、さらに露出計がレンズの絞り、シャッター速度に連動するヴィトマティックというモデルになった。

ヴィトマティックの各モデル

このカメラは、以下のモデルが1958年から67年にかけて発表された。58年と言えば、レンズ交換式レンズシャッター機が多く出た年であり、フォクトレンダー社もプロミネントII型を出しているが、一眼レフが実用化されつつある頃で、フォクトレンダー社自身も59年にベッサマティックという一眼レフを発売している。そのような時期にこれらのカメラは世に出ている。
・I/II型(58年)
 距離計なしのI型と、連動距離計のII型。これは中判のベッサなどと同様の定義だ。レンズはカラースコパー50mmF2.8を搭載。
・Ia/IIa型(60年)
 ファインダー内で露出確認ができるようになった。露出計のメーター針に対し、絞り・シャッター速度に連動するもう一つのバーを合わせる方式。レンズはカラースコパーで同じだが、IIa型にはウルトロン50mmF2モデルが後から追加されている。
・Ib/IIb/IIIb型(64年)
 前のモデルではIIa型にスコパーとウルトロン搭載モデルがあったが、ウルトロン搭載モデルをIIIb型として独立させた。また、ファインダー内で絞り、シャッター速度が読み取れるようになった。この読み取りは、ファインダー上部にある下向きの鏡と、その向かい側にある鏡を経由して撮影者の視界に入れる方式で、なかなかアクロバティックな解決法である。露出合わせは前のモデルと同様に、追針式である。

Vitomatic IIIb、Ultron 50mmF2付き。横幅が短く、縦方向は大きい。
ファインダーを覗くと、右下に鏡胴の設定値が読み取れるようになっている。

・I CS/II CS/III CS型(67年)
 各モデルは前のIb~IIIbモデルとレンズなどは同じで、露出計がセレン式からCdS式に変更されたものだ。従って、露出計の作動には電池が必要になる。

このモデルの後はヴィトレットシリーズなどに世代交替し、搭載レンズからウルトロンが消えて、3枚構成のランターが出るなどコスト低減に突っ走って行くことになる。そう、60年代は日本製カメラとの競争が激化し、ドイツのカメラ界は衰退局面になっているのであった。ヴィトマティックシリーズが販売されている時期、65年には流通合理化のためにカール・ツァイスとの合同販売会社ツァイスイコン・フォクトレンダー社が立ち上がり、69年にはツァイス側に吸収され、さらに72年にはそのツァイスが民生向けカメラ製造から撤退するのである。
そういう意味では、このヴィトマティックは、フォクトレンダー社が世に出した、この会社らしい個性を備え優れたレンズを搭載したカメラの最後期に近いモデルだと思う。

カメラの操作

このカメラのデザインで面白いのは、極力小型化しようという努力と、従来、倍率が低くて見にくいとされたプロミネントやヴィテッサ、ベッサ世代のファインダーから等倍のガラスブロックを入れた明るいファインダーへの転換という相反する要素を何とか両立しようとしている点である。カメラの横方向は小さく、IIa型まではトップカバーにシャッターリリースボタンがあるが、Ib~IIIb型以降はカメラを構えてレンズの右側に移り(露出計の針をファインダー内で見るための大きな明かり取りがトップカバーに設けられたため)、狭い横幅と相俟って若干持ちにくいくらいである。しかし、シャッターリリースは静かでスムーズなので、ブレには強いと思う。
高さ方向の大きさはファインダーが大きい分不利であるが、少しでも小さくしようということで、フィルムパトローネを入れる部分が下方向にも開くようになっている。

下にも開くパトローネ収納部。開口部が多くなり遮光には不利で製造技術的にも難しいだろうが、そこを敢えてやるのがすごい。

横方向のスペース節約は、カメラのフィルム給送機構にも影響していて、多くのカメラではスプロケットギアが回転しフィルムの穴を送ることで正確な長さを巻くようにできているが、このカメラは通常の形のスプロケットがなく、フィルムが巻取り部に引っ張られるのをフィルムゲート上にある大きなギアが受け止め、送られる長さをカウントしてフィルムを止めると共に、シャッターのチャージを行っている。従って、フィルムを装填しないとシャッターを切ることが出来ない。また、フィルムを入れずにこのギアを手で回してシャッターを試すことはできなくはないが、チャージ機構へのダメージが懸念されるので慎重に行わなければならない。
フィルムに引っ張られて巻き止めをするというやり方ではあるが、巻き上げと止まる感覚はかっちりとしていて感触は良い。

この大きな歯車は巻き上げに連動しておらず、フィルムが巻かれることでここを回して、シャッターチャージとフィルムの巻き止めを行っている。

その他の操作は、通常の距離計連動機と同様である。ファインダーは等倍なので、両目を開けて、空間に撮影範囲枠を浮かべながら撮ることもできる。このファインダーはカメラの横幅が狭いこともあって基線長が短いが、カメラ内で基線長を稼ぐ仕組みもあって、外見で想像するより凝ったファインダーである。撮影範囲を示す銀の枠線は撮影距離に応じて移動しないので、その点は注意が必要である。
フィルムカウンターは自動リセットで、底面にある。横幅を詰めたトップ部にファインダーのガラスブロックと露出計機構があるからカウンターを上面に持って来ることができなかったのかと思うが、正直に言ってこのカウンターは見にくい。ストラップを吊る環がないからケースも必要で、ケースの分厚い底に開いた穴を覗き込むのはなかなか難しい。

フィルムカウンター。総じて、昔のカメラはこういう表示が小さく、老眼には厳しい..

巻き戻し時はカメラを構えて左にある巻き戻しレバーを引くと、フィルム巻き止めが解除されると共に、巻き戻しクランクがピンっと出てくる。こういう機構連動は気持ちが良い。

装着レンズ

上にも書いた通り、最初にカラースコパー50mmF2.8が搭載され、その後ウルトロン50mmF2が追加された。私が持っているモデルはIIaとIIIb、ウルトロン搭載モデルである。ウルトロンは初出が50年のヴィテッサで、初期は青色のコーティングだったが、その後青紫系になり、この60年代モデルではアンバー系の色になっている。それぞれの差は厳密には分からないが、ウルトロンはシャープでよく写るレンズであり、明るく大きいファインダーでその写りを想像しながら撮影するのは楽しい。
カラースコパーはヴィトーBLで持っていたが、このカメラは自分にとってクラシックカメラの初体験で、当時は目測撮影に慣れていなかったこともあり、しばらくして手放してしまった。スコパー系も再挑戦したいところだが、もう防湿庫がいっぱいでこれ以上増やせない状況だ。まあ、ろくに撮らずに増やしても意味が無いからね..

新緑/ Vitomatic IIa ,Ultron 50mmF2/ F2,1/500 ,Fuji RDP III
新緑/ Vitomatic IIa ,Ultron 50mmF2/ F4 1/2,1/60 ,Fuji RDP III
コントロール標識/ Vitomatic IIa ,Ultron 50mmF2/ F2.8,1/125 ,Fuji RDP III
プレジャーフォレストにて/ Vitomatic IIIb ,Ultron 50mmF2/ F5.6,1/500 ,Fuji CN
ホールにて/ Vitomatic IIIb ,Ultron 50mmF2/ F2,1/15 ,Fuji CN

おわりに

あまり値段の話をするのもどうかとは思うが、いま、このカメラのような50‐60年代のレンズシャッターの距離計連動機は大変安くなっている。レンズ交換が出来ないとか、シャッター速度が1/500秒までしかないとか、制約はあるが、レンズは一級品で写りは素晴らしいので、標準レンズに慣れた人はこういうカメラを持って出かけるのも楽しいのではなかろうか。

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