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カメラの話を徒然に(8)

フォクトレンダー(3)・ベッサII(Bessa)

6x9判というフォーマット

6cm幅のロールフィルム(コダックの(?)名称では120フィルム、日本ではコダックの初期のカメラ名から取ったブローニーという呼称が定着している)を使ってだいたい54x84mmくらいの画面サイズを得るフォーマットが今回のカメラの6x9判である。

これ以前は、乾板やシートフィルムで使われた大名刺判、6.5x9cmというのがあり、戦前では「ハンドカメラ」というジャンルで人気を博した。このハンドとは手にぶら下げて持って行くくらいの意味と思われるが、フォクトレンダー社にもベルクハイル(山万歳)というモデルがあり、箱型をしていて手にぶら下げて持つような取っ手が備え付けられた形をしている。箱についたボタンを押すと、板が開いてレンズ部分が立ち上がるようになっており、4x5インチ判などに比べて全体が小型軽量であることから登山などに重宝された、とのことだ。他に8x10.5cmの手札判、9x12cmの大手札判などのフォーマットもある。
しかし、乾板やシートフィルムは1枚ずつ遮光するケースに入れて持ち運ぶ必要があり、4x5インチや8x11インチよりはずっと小型でマシとは言えど、やはり嵩張り、重たい。私も以前、ベルクハイルを入手したことがあるのだが、その時に10枚の乾板用のケースもついてきた。これにガラス乾板を入れて持ち運ぶのはちょっと骨だな、と思ったし、それで撮れるのは10枚だけなので、当時、今のような大量な撮影をする習慣はなかったとしても、やはりこれは効率が悪いと思ったものである。

そこで、ロールフィルムである。120フィルムは遮光の紙とフィルムが一緒に巻かれるもので、フィルムごとに遮光のケースを用意する必要はないし、コンパクトに巻かれたロールを持って行けば良いので、効率的になった。ハンドカメラでも、大名刺判の開口部にロールフィルムをあてがうホルダーが販売され、1枚ずつシートや乾板を交換するのではなく、8枚連続で撮れるようになった。ロールフィルムは幅が6cmだから6.5cmの大名刺版そのものでは撮れないので、近いサイズの6x9判で使うことになる。
ただし、ハンドカメラのやり方だと撮影距離が変わるたびにホルダーに遮光板を入れてホルダーを取り外し、すりガラスを入れてピントを確認する必要があり、この手順は乾板などと変わらないことになる。これをより簡単にするには、レンズの位置と撮影距離をピントグラスに頼らないで決定すれば良い。ハンドカメラでも、レンズの位置に距離の目安となるスケールがあるが、スケールが小さくて距離を正確に決めるのはちょっと難しい。
ならば、ロールフィルムのホルダーとカメラ機構部を一体化したカメラの方が便利ということになる。距離の決め方は、ある程度絞って対象を被写界深度内に収める目測式のゾーンフォーカスか、三角測量の方式で距離を測ってレンズの位置を決めるやり方などが考案され、後者では距離測定とレンズのピント位置移動が連動する連動距離計方式も考案された。
フォクトレンダー社のロールフィルムカメラでも、目測式と連動距離計つきが併売されて、機種の差別化がなされている。ベッサシリーズも目測式と距離計付きがあり、戦後の新モデルではこれがベッサI型(目測)、II型(連動距離計)というモデル名になった。

ベッサII

私が使っているモデルは、その戦後のベッサII型で、レンズ位置を動かすとファインダーの二重像が動く連動距離計を搭載したものだ。1950年前後はフォクトレンダー社の新レンズラッシュの時期で、前にも書いた通り、これより前にシュナイダー社のレンズを設計していたトロニエ博士が設計したカラースコパー105mmF3.5(3群4枚)、カラーヘリア105mmF3.5(3群5枚)、アポランター105mmF4.5(3群5枚)がこのカメラに搭載された。I型はファスカー105mmF4.5(3群3枚)とカラースコパーで、距離計有無に加えて搭載レンズでもモデル間の差別化がなされている。

アポランター付きベッサII
カラースコパー付きベッサII

ボディについて

6x9判なので横に長い。連動機構はレンズとファインダーの距離計のみで、他は全て撮影者が自分で判断して行くことになる。二重露光防止機構がなく、これは同時期に出たペルケオに簡易式のがあるのになぜこちらでは見送られかが分からないが、これは残念なポイントだ。フィルム送りは背面の赤窓でフィルムの遮光紙上の数字を見るやり方で、これは当時としては普通である。ファインダーは距離計二重像と撮影視野が一緒になっているが、プロミネントなどと同様、倍率は低くて距離精度はあまり高くはない。距離調整は構えて左上の調節ノブを回す方式で、カメラの重さもあり少し不安定に感じる。シャッターリリースは左手側である。
大きなフィルム開口部があり、折りたたまれた蛇腹を立ち上げると大きく負圧がかかりフィルムが浮く危険性がある。そのためこの時期のこのようなカメラは空気が通る場所を作り込んであるが、それでもフィルム面が暴れることを経験している。その対策のため、自分は蓋を静かに開けた上で、撮影直前に巻き上げてフィルムの浮きを低減するようにしている。二重露光防止機構がないので、このやり方は巻き上げを忘れて多重露光するリスクを孕んでいるが、私はフィルム平面性の方を優先している。
カメラにはストラップを吊る穴はないので、首から下げる場合はケースが必要だ。カメラが重いのと、蛇腹を展開すると大型化するので、三脚穴につけるハンドストラップでは使いにくい。また、カメラの右手部分にはハンドカメラのような皮の取っ手があるが、これはカメラの重さに対して華奢なので使わないようにしている。
総じて、撮影手順や取り扱いにいろいろ注意が必要なカメラで、フィルム1本で8枚しか撮れないから、慌てて作業すると失敗のダメージが大きい。とにかく落ち着いて撮るように心がけている。

裏蓋を開けたところ。大画面の開口部とフィルムのスペースだけでギリギリだ。
距離調整はカメラを構えて左肩のここを回す。被写界深度目盛りもあり、特に三脚に載せて撮るときには作業性が良い。
シャッターリリースはここを押し下げる。蓋を閉じると格納されるようになっていて、そういうところは芸が細かい。

撮影例

私は、ベッサIIの3機種を全部所有していたことがある。持っていた順番はカラーヘリア、アポランター、カラースコパーで、それぞれ機種の所有時期は重なっていない。アポランターは皆様ご存知の通り、非常にレアな物件で今やものによっては200万円とかの値もつく状況になってしまったが、自分が97年秋に入手したときは50万円以下で買うことが出来た。岩手県へ転勤した記念に思い切って手を出したのだった。自分のカメラ遍歴で最も高い買い物で、その次はOM ズイコーの350mmF2.8であるが、アポランターベッサと350mmは、09年の欧州の大旅行(24日間)の際に旅行費用と、当時購入を決めていたナチュラルトランペットの代金相当として手元を離れている。ベッサについては、手放したことを少し後悔している。
以下、上位機種順(?)に写真の例を載せておこう。*印をつけたものは既に手元にない。

●アポランター105mmF4.5付き
99年9月、ノルウェー・チェコ旅行に持って行った。メインの機材はOM-3Tiであったが、風景の遠景を情報量多く撮影したいと考えてこれを使った。よって、遠くの写真しかない。
重たい機材であることも事実で、後半のチェコ編ではほとんど使わなかった。現地の水にやられて、お腹を下してしまい、これを持ち出す気力がなくなってしまったのだ。09年のヨーロッパ旅行ではこのカメラを既に手放していたということもあるが、重量も考慮して6x6判のペルケオになった。
以下3枚、全てノルウェーでの撮影だ。

スタルハイム/ Bessa II ,Apo-Lanthar 105mmF4.5/ F8 ,1/50 ,Kodak E100VS
ベルゲン/ Bessa II ,Apo-Lanthar 105mmF4.5/ F8 ,2s ,Kodak E100VS,三脚
オーレスン/ Bessa II ,Apo-Lanthar 105mmF4.5/ F8 1/2,1/250 ,Kodak E100VS

●カラーヘリア105mmF3.5付き
このカメラは最初、黒部峡谷旅行の際に手に入れた。大きなイベントとしては96年秋にハワイへ持って行っている。残念ながら当時のポジがどこに行ったかが分からず、プリントからのスキャンである。プリント自体が硬調で、さらにそのスキャンとなると再現性は良くないのは分かっているが、原版がないので止むを得ない。
以下3枚、全てハワイでの撮影だ。

ワイキキ/ Bessa II ,Color-Heliar 105mmF3.5/ F8,1/250 ,Fuji RVP
キラウエア火山のクレーター/ Bessa II ,Color-Heliar 105mmF3.5/ F8,1/250 ,Fuji RVP
ハワイ島にて/ Bessa II ,Color-Heliar 105mmF3.5/ F8,1/100 ,Fuji RVP

●カラースコパー105mmF3.5付き
この機種は大きな旅行には持って行っておらず、写真は近景がほとんどだ。また、旅行をするようになったら是非使いたいとは思う。
絞り開放の写真を1枚上げておくが、ボケ像は荒々しい感じがする。やはり遠景を切り取る方が向いているのだろうか。しかしそれだと、I型で目測ゾーンフォーカスでも良いわけで、II型の存在意義がない。引き続き使って行く。

河童像/ Bessa II ,Color-Skopar 105mmF3.5/ F5.6 1/2,1/250 ,Fuji NS160
夏の日/ Bessa II ,Color-Skopar 105mmF3.5/ F16,1/250 ,Fuji NS160
川崎駅前にて/ Bessa II ,Color-Skopar 105mmF3.5/ F3.5,1/5 ,Kodak Gold200

おわりに

ベッサIIは大きな画面での撮影を(6x9判としては)極力小型にしたボディで撮ることができ、優れたレンズを搭載して写りも良いカメラである。105mmという長い焦点距離のレンズゆえに蛇腹部分が大きく、ピンホール漏光のリスクもあるので、きちんとメンテナンスをして売っている店で入手することをお勧めしたい。そして、くれぐれも、二重露光にはご注意を。
半切くらいの引き伸ばしではもったいないくらいの情報量があるが、家の壁がすぐに足りなくなるので、多数のプリントを依頼することもできず、今はスキャンで楽しんでいる。


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