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カエル

つい先日のこと。
すっかり古くなった財布の中を整理していたら、小銭入れのポケットがぷっくりとふくらんでいる。開けてみると、小さな緑色のカエルが転がり出た。もちろん本物のカエルではない。観光地のみやげ物屋でよく売られている、あの小さなお守りだ。財布から出て行くお金がいつかまた「カエル」ように、といわれている。

このカエル、誰にもらったものなのか、いつから財布に入っているのかさえ定かではない。
けれど私は今まで、快適に暮らし、眠る場所に困るようなことはなかった。
よく食べたし、生活に必要なものはそろっていた。友達と遊びに出かけたり、誰かにプレゼントをもらったり、旅行を楽しんだりもしていた。
確かにこの財布から出て行ったお金はにかえってきたようだ。
この小さなカエルのおかげかな。

さて、新しい財布を目の前にして、
「はて、このカエルをまた入れたものか」と考えた。

これまで世界中を旅した先で見た、たくさんの人々のことが思い返された。

屋根のない場所で眠りにつく人々。
腹持ちのしない食事を強いられたり、次にいつ食事ができるか分からなかったりする人々。
働く気はあるのに働き場のないたくさんの健康な若者たち。
家族の誰かが病気にかかっても薬はぜいたく品で、医者にかかるために何日も歩き、途中で手遅れになってしまう人々。

考えてみれば、ここ日本にだって路上での生活を余儀なくされている人々がいて、彼らも同じように苦しんでいる。

じゃあ、このカエルはどうしたらいい?
慈善団体へ送る?
近所のお寺へ寄贈する?
駅周辺でダンボールの上に寝起きするおじさんのコートのポケットにそっと忍ばせる?

だけど、もともと何も持たない人々に一体どうやって富が「カエル」のか?

今のところ、私の周りにこの小さなカエルの行くべき場所はないようだ。
とりあえず、机の上の小さな仏様のそばに座らせた。
カエルは少しは落ち着いたようだ。

でも、カエルさん。
私にくれたような幸せを他の誰かに授けるために、はやく跳び出して行ってね。


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